第180話 ミーア・ブランドル・レプラコーンの約束
私は王女として、多大な期待をされていると思うわ。そのために、アストラ学園で実力を磨く日々を過ごしていたの。ただ、そんなある日、突然、お父様が学園にやってきた。ほとんど誰も連れずに、こっそりと。
だから、とても大きな問題が起きたのだと、すぐに分かったわ。そして、お父様は私の部屋にやってくる。リーナちゃんは呼ばずに。だから、おそらくは私に関わること。そこまでは、簡単に想像できたの。
お父様は、神妙な顔をしながら、どこか私を憐れむような目で見ていた。だから、苦難が待っているって覚悟したわ。
ただ、私の想像していたよりも、もっと現実は残酷だったの。
「ミーアよ。お前に、重要な話がある。レックスにも、関わってくることだ」
「何かしら、お父様? いい話では、なさそうね」
「そうなる。闇の宝珠《ダークネスクレスト》は、知っているか? それが、盗まれた」
私も、王家の一員として知っているわ。闇の宝珠《ダークネスクレスト》は、闇魔法の力を強化する道具。それが盗まれたってだけなら、王家で対処すれば良い。お父様の判断で、どうするかを決めるだけで良い。
もちろん。私だって状況を知る必要はあったでしょう。対処法を確かめる必要もあったでしょう。私は、いずれ王になると目されているのだから、経験は必要だもの。
それでも、わざわざ国王が私に会いに来るほどじゃないわ。私に伝えるにしても、適当な使いを出せば良かったんだもの。
つまり、私に大きく影響のある何かがある。そこまで分かってしまえば、今どんな状況か、考えなくても分かったわ。
「えっ、誰に? なんて、聞くまでもないわよね。ブラック家、よね。レックス君……」
「どうにも、ブラック家当主は、レックスとお前の結婚を企んでいるらしい」
それを聞いて最初に浮かんだのは、嫌だなって言葉。レックス君と結婚することがじゃない。悲劇のヒロインとして、レックス君と結ばれなくちゃダメだってことが。本当に、嫌で嫌で仕方がなかったの。
レックス君と結婚するのなら、憐れまれてなんて嫌。レックス君が悪者として扱われるのも嫌。もし私とレックス君が結婚する時には、みんなから祝福されてが良いわ。そう思ったの。
「それは……」
「レックスに闇の宝珠《ダークネスクレスト》を使い、その力を得たレックスと、になるな」
「そんなの、嫌よ。もちろん、レックス君が、じゃないわ。でも……」
「分かっている。恋愛感情かどうかはともかく、レックスのことは好きなのだろう」
レックス君のことは、代えが聞かない存在だと思っている。それは、当然のこと。大切な友達で、ただのミーアを受け入れてくれる人だから。ただひとり、私がただの女の子で居ても、許してくれる相手だから。
そんな人と、不幸な結婚をする。思い描いただけで、怒りで頭がどうにかなりそうだったわ。ただ、この感情に身を任せても、誰も幸せには成れない。それは分かっていたの。
だから、私にとっては難しい問題だったわ。レックス君と私の未来を左右する、大事なことだもの。
大好きなレックス君だからこそ、今の状況に流されて結婚する訳にはいかない。だから、なんとしても、彼のお父様の計画をくじく必要があったのよ。
「ええ、そうね。リーナちゃんのことも、他のことも。レックス君には助けられてばかりだもの」
「ああ。余とて、レックスのことは評価している。だが、このままでは……」
「そうね。レックス君は、悪人として名を残すことになるわ」
「余は今後について考えねばならん。ミーア、お前も、どうするのか考えておくと良い」
そう言って、お父様は去っていった。きっと、私に時間をくれたんだと思う。だから、それからの時間は、ひとりで未来について考えていたわ。
「レックス君と私が結婚する。それは、別に構わない。けれど……」
ただ、今のままでは、私もレックス君も不幸になる。それは間違いのないことよ。私は、彼との結婚がメチャクチャにされたって嘆きを抱えることになる。レックス君は、私を不幸にしたって負い目を背負うことになる。
だから、絶対に許せないのよ。レックス君のお父さんのことは。それこそ、どんな手を使ってでも殺したいと感じるくらいには。私の思い描く未来には、絶対に必要のない人。そう思ったわ。
「私もレックス君も、脅されての結婚は望まないわ。なら……」
どうにか、別の形で結婚する方向に進まなくちゃいけないわ。私とレックス君が、祝福されて結ばれる未来に。
そうよね。私は、レックス君となら結婚してもいい。むしろ、結婚したいのかもしれない。この気持ちが恋か愛か、あるいは単なる友情なのかなんて、分からない。
だとしても、レックス君との夫婦としての日常は、きっと幸せだなって思えたの。少なくとも、無理やり結ばれたんじゃなければ。
「そうね。少し、考えなくちゃいけないわよね。私が、どうしたいのか。そして、どうするのか」
私は、最低でもレックス君のお父さんの計画は壊したい。だって、私もレックス君も望まない未来がやってくるんだもの。
だけど、きっとそれだけじゃない。私は、レックス君と仲良くしたい。その感情を、他の誰かに邪魔されたくなかった。私自身で積み重ねた感情を、他人に穢されたくなかった。
そのためには、絶対にやるべきことがあるわ。それだけは、ハッキリしていたの。
「とにかく、レックス君のお父さんを、どうにかしないと……」
そう。まずはレックス君のお父さんを。いえ、ブラック家の当主を殺さなければいけない。ただ、私が殺してしまえば、大きな問題が発生することは明らか。少なくとも、王家とブラック家の関係は、良くない方向に向かうわ。
何よりも、レックス君と私の関係が、壊れてしまうかもしれない。そんなの、許せる未来じゃないもの。
「私とレックス君が結婚するなら、幸せなものじゃなくちゃいけないのよ」
私とレックス君が、お互いの幸せを祈る。そんな未来に向けて、突き進むべきなのよ。だから、そのための計画が必要だったわ。ふたりが、誰からも祝福された結婚をする未来に向けて。
そうよ。私とレックス君なら、きっと幸せな家庭を築ける。だから、ふたりの結婚は素晴らしいことなのよ。そうじゃなきゃいけないわ。
「そうよね。みんなが望む結婚にするためには、レックス君が活躍すれば……」
ふと、頭の中に浮かんだことがあった。レックス君が王族に見合う存在になれば、ふたりは祝福されるんじゃないかって。
そのために、ちょうどいい悪役が居るじゃない。お姫様を不幸にする、とっても悪い人が。
だったら、お姫様を助ける英雄は、決まっているわよね。レックス君よ。
「待っていてね、レックス君。必ず、幸せな結婚をしてみせるから」
だから、少し苦しいかもしれないけれど、我慢してね。その先に、あなたの人生で一番の幸福をあげるから。
約束よ、レックス君。
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