第119話 失敗も糧

 前回の授業は割と成果を出せたようで、今日も似たような内容だ。ただ、組む相手だけが違う。正確には、人数も。今回は、学校もどきの生徒達が相手だ。


 やはり、フィリス達には気を使われているよな。まあ、悪いことではないのだが。感謝こそすれ、迷惑に思うことではない。


 親しい人と組むと、相手の側も軽く意見を言ってくれるので、ありがたい。王女姉妹が、俺にもっと働けと言っていたように。まあ、あれは悪かったよな。ほとんど、何もしていなかった。


 これが他人だと、おそらくは気を使われる。あるいは、腫れ物を扱うようにされて、失敗しても何も言われないだろう。それは、最悪だよな。俺自身が成長できなくなってしまう。


 ジュリア達には貸しがあるとはいえ、だからといって俺を全肯定もしないだろう。そのあたりは、信じて良い。だから、安心して組めるんだ。


 やはり、俺の良いところも悪いところも受け入れてくれる相手とだと、居心地がいい。なんだかんだで、俺は欠点だらけの人間だからな。とても強いだけで。


「今回は、僕達と一緒だね、レックス様!」

「あたし達が集まると、昔みたいな気分になりますよね」


 ラナの言うことには、とても共感できる。学校もどきで一緒に過ごした時間は、とても懐かしいからな。あの頃は、楽しかった。今が楽しくないかと言われたら、違うと返すが。


 ただ、今とは別の楽しさがあったのは間違いない。それを懐かしむのは、仕方のないことだよな。まあ、年寄り臭い気もするが。


 なんだかんだで、良い関係を築けたからな。ジュリアとも、シュテルとも、ラナとも、サラとも。周囲を傷つけたクロノのことは今でも許せないが、必要な時間だったのだろう。


 特に、サラと仲良くできたのには、あの事件が大きいからな。悪いことばかりではなかった。だからといって、クロノを肯定するのはありえないが。


 ただひとつ言えることは、学校もどきを作ったのは間違いじゃなかった。それは確実だ。みんなと出会えたことは、今でも最高という他ない。


「昔って、そんなに経っていませんよ、ラナ様。でも、気持ちは分かる気がします。レックス様と出会ってからは、時間の感覚が違いますから」

「とりあえず、活躍する。そして、レックス様に褒めてもらう。それだけ」


 かなり懐かれているのは、心を癒やしてくれるよな。なんだかんだで、みんな慕ってくれている。だから、絶対にみんなで生き延びてみせる。一方的に守るのではなく、お互いに助け合うことで。


 ただ、前回に王女姉妹と組んだ時は、手を抜きすぎだと言われたからな。正確には、少し違うが。ただ、似たような意味だろう。俺だって、実力を発揮するべき。そうしないと、組む意味がない。


「俺さえ居れば、どうとでもなるだろう。さっさと行くぞ」

「あ、待ってよー! 僕を置いて行かないで!」

「レックス様をお待たせする訳にはいきませんよね。ジュリア、行くわよ」

「あたしも、しっかり実力を発揮しないといけませんからね。お供します」

「レックス様の撫で撫では、私のもの。それは絶対」


 賑やかなことだ。みんなで和気あいあいとしながら、ダンジョンへの魔法陣に入っていく。すると、景色が切り替わった。今回は、青空の広がる平原。そこに、数多くの魔物がいる。ただ、ザコと言って良い集団ではある。気を抜いてはいけないが。


「さて、まずは準備を進めるか。闇の衣グラトニーウェア!」

「相変わらず凄いよね、レックス様の魔法。でも、僕も負けないから!」

「私も、同じ気持ちです。レックス様のお役に立つために、努力を重ねてきましたから」

「あたし達だって強くなったんだって、見せてあげますから」

「むふふ。いっぱい活躍して、今度は抱きしめてもらう」


 余裕いっぱいなことだ。だが、悪くない。緊張しすぎても、良くないからな。油断も問題ではあるが。今の状態は、落ち着いて戦えている、みたいに捉えても大丈夫だろう。


 まあ、しっかりと敵と戦って、まっすぐ進めば問題ないはずだ。ダンジョンでじゃれ合いを続けるほど、みんなは愚かじゃないだろうからな。


 ということで、ザコを片付けていく。まずは、俺が活躍しないとな。


「じゃあ、いくぞ。闇の刃フェイタルブレイド!」


 俺が魔法を放つと、敵は魔力に切り裂かれて、その後の爆発に巻き込まれて、一気に倒れていく。やはり、ザコはザコだな。特筆すべきところは、何もない。ただ、残心は必要だろうな。油断したところを襲われるのは、定番だ。


「ああ、ほとんど倒されちゃった……! でも、ここから!」

「私達だってできるって、証明するんですから!」

一属性モノデカだからって、負けませんよ!」

「レックス様のご褒美、絶対にもらう。敵も、もっと頑張って」


 みんなも、気合を入れている様子だ。それに負けないように、俺も張り切っていた。魔法も剣もどっちも使って、敵を片付けていく。


 特に苦戦する瞬間はなく、簡単にボスも倒すことができた。ただ、ジュリア達は不満そうな顔をしている。


「終わったな。こんなものか。楽なものだったな」

「僕としては、残念だけどね……。レックス様が、全部倒しちゃったから……」

「断固抗議。私のご褒美、レックス様に奪われた」

「もう、サラったら。でも、少し気持ちは分かりますね。これでは、おんぶにだっこですから」

「あたし達の力も、しっかり役立ててくださいね。それが、きっと未来のためです」


 ああ、今度は俺がやりすぎたか。確かに、ジュリア達は討ち漏らしを片付ける程度だった。それなら、活躍する機会はないだろう。


 前回、最低限の仕事をしようとしたが、今回は多くの仕事をこなしすぎたのだろう。なかなかに、バランスが難しいな。というか、相手が弱すぎる可能性はあるが。


 ただ、しっかり考えていくべき問題だろう。俺達が連携していけば、俺ひとりでは倒せない敵にも、勝てるようになるはずだから。


 そのために、ちょうど良いバランスを探っていくのは大事なことだ。これからも、何度も失敗するだろう。俺は、これまでひとりで戦いすぎていたからな。どうも、複数人での戦いには慣れていない。


 だが、やりがいがあるし、楽しいのは間違いない。みんなと最高の連携ができたのなら、その瞬間はとても幸せだろう。それは、容易に想像できることだ。


「お前達なりに、積み上げようとしているのだな。殊勝なことだ」

「そうだよ! レックス様と同じ戦場でも、お役に立ちたいんだから!」

「だからといって、レックス様が自由に動けないのは……」

「ただ、あたし達にも、練習の機会は必要です。その場を作ってほしいとは思いますね」


 そうだろうな。俺とみんなで戦うためには、ちゃんと練習が必要なはずだ。ああ、なるほどな。俺ひとりで全部解決しないから、苦戦しているのだな。これまでは、自分の才能だけで、どうにかしてきたから。


「褒めてくれるのなら、なんでも良い。でも、流石に今回は厳しい」

「お前達は、よく俺に尽くしているな。だから、なにか考えておこう」

「ありがとう、レックス様!」

「とりあえず、撫でて。それで良い」

「ふふっ、レックス様は、慕われていますね。あたしも、もっと……」

「ご恩に報いるまでは、立ち止まりませんから!」


 みんなと幸福な未来を過ごすために、ちゃんと頑張っていかないとな。俺にとっても、みんなにとっても、協力するのは大切だろうからな。

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