第79話 本当の始まり
今日から、本格的に授業が始まることになる。楽しみでもあり、緊張もするな。これから、様々な事件が俺を待ち受けるのだろう。だが同時に、青春を味わう機会でもある。
これから先の長い人生でも得難いだろう、本当の友達を手に入れる機会でもある。貴族が多いから、どうしても打算の交じる割合が、普通の学生よりは多いのだろうが。それでも、ただの友人を作る機会は、他には無いだろうからな。
すでに席についているが、知り合い以外にも知っている顔が多い。原作で見たことがあるキャラだな。とりあえずは、普通に授業を受けるところからだろう。
「……注目。このクラスの担任を務める、フィリス・アクエリアス。あなた達を一人前の魔法使いにするために、力を尽くす」
フィリスが俺達の担任なのは、『デスティニーブラッド』と同じだ。確か、主人公が無属性の魔力を持っていたから、それの観察がしたくて動いたはずだ。今だと、俺の闇魔法に興味があるのだろうな。
良くも悪くも、フィリスは魔法バカだ。だからこそ、誰よりも優れた知見を持っている。頼りになる相手なんだ。このクラスの人間が幸運だということを、俺は身をもって知っている。
「レックス君は、フィリス先生に魔法を教わっていたのよね? どんな感じだった?」
「知識も技術も発想も凄まじいな。あいつより強くなったところで、あいつより詳しくなれないだろうさ」
「私と同じ、
王女姉妹は、俺の前の席に座っている。こっちを振り向いているので、それで良いのかと思ってしまうな。だが、ここでの同級生は、国を背負う相手になる可能性が高い。関係の構築も、2人の重要な使命だと考えても良いのだろう。
「まさか、本当にフィリス・アクエリアスが担任になるなんて。頑張りがいがあるね」
右隣に座っているのは、原作キャラで悪役。名前は、ミュスカ・ステラ・アッシュ。俺と同じ黒髪黒目で、ボブカットにしている。全体的に清楚な印象で、穏やかな顔をしていることが多い。透明感のある声と、優しげな話し方が印象的だ。ただ、裏の顔も持っているんだよな。少し、警戒してしまう。原作での悪役らしく、闇魔法使いでもある。
「レックス・ダリア・ブラックも居るのか……当然だよな……」
王女姉妹の隣あたりから、声が聞こえてきた。俺の名前が出てきたから、少し気になったんだよな。見て、驚いた。原作キャラなのに、まるで印象が違う。暴力的な男って印象だったのだが、今では怯えたウサギのようなイメージだ。何があったのだろうか。
「何だ、俺になにか用でもあるのか?」
「お前が居る限り、俺は最強になれねえ。ブルっちまったんだよ……魂が……」
なんというか、ビックリするな。原作では、主人公に突っかかっていって、最終的にはライバルで仲間みたいな関係になるキャラなのだが。この調子だと、さらに原作が崩壊してしまうだろう。恐ろしいことだ。
「情けないことだ。戦うことすら無く折れるなんてな」
「あんまり、他人を悪く言うものじゃないよ。ね、レックス君?」
ミュスカはフォローに回っているが、内心では何を考えていることやら。正直、とてもバカにしている気がするんだよな。自分より優れたものの存在は許さないし、自分より劣った人はゴミくらいに考えている人のはずだから。
まあ、それでも、ものすごい美少女だったから、一部で強い人気があったのだが。性格が最悪でも、美少女だと許されるのは、創作物あるあるだ。
「挑むことすらできない負け犬に、何を言えと?」
「なら、私は負け犬じゃないね。レックス君にも、勝つつもりだからね」
「だったら、覚えておいてやろう。名前は?」
「ミュスカ・ステラ・アッシュだよ。忘れないでね、レックス君」
とんでもない情念がこもっていそうで、とても怖い。顔だけ見ると、とても優しそうなのだが。原作で、主人公の実力への嫉妬から、えげつない裏切りをかます相手だからな。正直、信用できない。
「俺には、お前に名乗る資格すらねえ。悔しいが、言う通りだ……」
まあ、名前は知っているのだが。とはいえ、心が折れたままなら、戦力としてカウントするのは難しい。どうにか、奮起してもらいたいものだが。どうするのが正解なのだろうな。
「レックス様、これからもよろしくね。僕達も一緒だよ」
「わたくしも、同じですわね。レックスさんは、また女の人を引っ掛けそうですが」
「レックス様なら、当たり前のことですよ。素晴らしい方なんですから」
「あたし達が入学できたのは、間違いなくレックス様のおかげですからね」
「私も同じクラス。後で撫でて」
ジュリア達は、俺の後ろに座っている。結局、学校もどきの出身は、全員俺と同じクラスになったみたいだな。嬉しいことではある。気心のしれた相手だからな。
「フィリス・アクエリアスに教わる機会、絶対に無駄にはしなくってよ。あたくしは、レックスさんに勝つんだわ」
「わたくしめも、同感でありますな。いま強くなれないなら、一生強くなれないでしょう」
ルースとハンナは、俺の左側にいる。良くも悪くも、知り合いに囲まれているな。まあ、席は決められていないから、親しい人の近くに寄るのは自然なことか。いや、ルースとハンナとは、まだ親しいとは言い切れないとはいえ。
「……沈黙。そろそろ、授業を始める。まずは、それぞれに最大の魔法を見せてもらう。話は、それから」
「フィリス。俺の全力なら、この部屋なんて軽く吹き飛ぶんだが」
「……同感。でも、問題ない。いったん移動して、私も結界を貼る。被害は相応に抑えられる」
「分かった。なら、行くか」
ということで、開けた訓練場に移動して、全員がそれぞれの魔法を放っていく。フィリスの言うように、大きな被害は出なかった。とはいえ、みんな才能があるのは感じられた。初めて使った頃の俺の魔法より、優れた威力を出せている人も多かったからな。
「……結果。威力だけなら、レックスが一番。続いて、ミーア、リーナ、ジュリア、フェリシアの順。他も悪くない。うん、今回は豊作」
「同じ闇魔法でも、大きな差ができちゃってるみたいだね。負けないよ、レックス君」
「俺が負ける訳ないだろ? 俺が頂点、お前は俺の後を追いかけるだけだ」
ミュスカに、目をつけられたのかもしれない。そんな気がした。となると、油断はできないな。できることならば、味方になってくれれば心強いのだが。原作での才能は本物だったし、珍しい闇魔法使いなんだ。
まあ、希望的観測は避けた方が良い。敵に回っても問題ないように、備えはしていかないとな。
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