第56話 主人公の力
ジュリアとは、仲良くしていく方向性に決めた。だから、強くなってもらった方が良いだろう。身を守れるように、困難を乗り越えられるように。
彼女が強くなれば、俺を殺せる能力を持つのかもしれない。だが、そんな事は関係ない。合理を抜きにしても、ジュリアとは仲良くしたいんだから。そのために、しっかりと指導していくべきだろう。俺にとっても、ジュリアにとっても、お互いに都合が良くなるはずだ。
俺は主人公が強くなって嬉しい。後は単純に、親しい相手の安全が確保できればもっと良い。ジュリアは、俺の役に立てる。同時に、シュテルみたいな親しい人を守る力にもなる。
ということで、ジュリアの様子を見に行く。今は、剣の訓練をしている様子だ。
「ジュリア、目覚めた魔力の調子はどうだ?」
「今のところは、良い感じだと思うよ。これなら、レックス様を守れるはずだ」
気持ちは嬉しいし、とても感謝したいのだが、レックスのキャラが許さない。こうして演技をしている自分が癖になれば、いずれは本心を言えなくなるのではないかという気すらする。
俺が演技をするのは、あくまで裏切り者として処刑されないためだ。続いて、親しい人達の安全を守るためでもある。だから、少なくとも今は、演技を止められない。
いずれ、俺が本心をさらけ出したとしても、無事にみんなと生きられる未来が訪れたなら、その時は。だが、今は無理だ。
「どうだかな。俺は守られるほど弱くはない」
「それでも、お役に立ちたいんだよ。何か、アドバイスはある?」
無属性の魔法については、原作の情報もいっぱいある。単純な技しか使えないが、だからこそ魔力効率は良い。同じ量の魔力でぶつかりあえば、大抵の魔法には勝てる。
そうなると、魔力の運用が重要になってくる。どうやって敵にぶつけるのか。どうやって魔力を収束するのか。つまり、魔力の操作が上手であれば、より強くなれる。
基本的な考え方としては、魔力を収束してぶつけるだけ。それでも、密度や早さなんかは変えられるからな。そのための道筋をつけていくべきなんだ。
「お前は、魔力を手のひらの上で円のように動かすことはできるか?」
「やってみるね。これは、難しいね……」
軽く動かすことはできているが、円形にまとめることはできていない。これができれば、様々な応用ができるのだが。まあ、一朝一夕では難しいだろう。ゆっくりと、見守っていかなくては。
「見てろ。こうやるんだよ」
手本があるのとないのとでは、全然違うだろうからな。ということで、俺の魔力操作を見せていく。魔力が円を描き、同時に大きさも変えていく。そこまでできれば、フィリスも褒めるだろうな。
「すごいよ、レックス様! こんなに難しいのに!」
「お前の魔法は、純粋な魔力に近い。操作精度と魔力量が物を言う。今のは、操作精度を鍛えるものだ」
「分かった。頑張るよ。ところで、魔力量は、どうやったら増やせるの?」
「基本的には、使い続けることだ。ただ、限界を超えれば逆効果だ。ギリギリを見極めるのが、大事になる。今のところは、誰かに見てもらえ」
筋トレをやりすぎれば、結局筋肉は崩壊する。それと同じようなものだな。まあ、そこまで限界を攻められる人間なんて、居ないに等しいが。ただ、ジュリアならやりかねない。主人公だけあって、努力家なんだ。
「そうなんだね。じゃあ、ラナ様かミルラ先生の居るところでやるよ」
「ミルラも、魔力を見るくらいはできるんだったな。なら、構わない」
「レックス様。何か魔法を見せてよ! どれくらい強くなれば良いのか、確かめたいんだ」
「ここでは無理だな。そうだな、着いてこい」
ということで、周りを巻き込まない場所へと移動する。
圧倒的な魔力量の差があれば、無効化できるのかもしれないが。とはいえ、検証してからにしたい。万が一にも俺に傷がついたら、誰も得しないからな。
ということで、闇の魔力を収束して、刃を放つ。目の前にあった金属を切り裂き、そのまま大爆発を引き起こした。
相変わらず、大した威力だ。だからこそ、味方がいる場面では使いにくいんだよな。巻き込んでしまうのが普通だから。
「どうだ。これが、俺の技。
「こんなに……。レックス様のお役に立てるように、頑張らないと……」
「そうだな。俺はひとりでも強い。生半可な強さなら、邪魔なだけだ」
「うん、分かるよ。だからこそ、レックス様に追いついてみせるよ! 頼ってもらえるようにね!」
その言葉を聞いて、決意を秘めたような目を見て、やはり主人公なのだと感じた。俺の力は、自分で言うのも何だが、圧倒的だ。それを見ても、俺に頼られるために努力できる。素晴らしい人間だ。俺と比べても、明らかに。
その輝きに負けないように、俺も努力を重ねていきたい。大切な人にとって、ふさわしい俺で居るために。
そんなこんなで、ジュリアは訓練を重ねていた。俺も、闇魔法と剣技の融合について検証していた。まだ完成には遠いが、取っ掛かりくらいは見えた。
またジュリアに会いに行くと、笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「あ、レックス様! 魔力を円にするの、できるようになったよ!」
「なるほどな、確かにできている。なら、魔力を収束することはできるか?」
「集めれば良いんだよね。こんな感じかな?」
主人公の技、
「そのまま、叩きつけてみろ。そうだな、的を用意してやる」
俺の魔力で、ジュリアの目の前に壁を用意する。その奥に、鉄の鎧を用意する。ジュリアが
「これが、僕の力……」
「単純な技だ。だが、それがお前の全てになる。いや、形を変えるくらいはできるだろうがな」
「じゃあ、魔力を増やさないと。あ、だから魔力量の話をしたんだね?」
勘がいいな。まあ、基本ではあるが。魔力を増やせば、できることが増える。それは、どんな属性の魔法使いでも同じことだ。
だが、特に無属性は影響が大きい。単純な技しか使えない以上、からめ手のようなことは難しいからな。
「そういうことだ。単純に魔力の量が、威力に繋がる」
「後は、収束を高めれば。だから、操作精度が大事なんだ!」
「ああ、正しい。お前の能力は単純だが、だからこそ威力は高い。研鑽を怠るなよ」
「もちろんだよ! レックス様は、とっても強い。追いつくためにも、休んでなんか居られない!」
その目を見て、危機感を抱いた。本気を感じたからだ。無理をされるのは望まないし、単純に無駄でもある。
「待て。休息は、しっかり取れ。これは優しさじゃない。効率のために重要なんだ。分かるか? 魔力は限界を超えて使えば、増加しない」
「あ。言っていたね、レックス様。でも……」
「休むことは怠惰じゃない。効率の良い訓練のためには、必須なんだ。フィリスもエリナも、同じことを言うはずだ」
過度な訓練は逆効果だと、俺の知る科学では証明されている。だからこそ、休息は必須だ。それを抜きにしても、ジュリアには、楽しみも何も知らない生活を送ってほしくない。やりかねない人だからこそ、釘を差しておくべきなんだ。
「分かったよ。レックス様のお役に立つためだもんね」
「それで良い。隠れて無理をしようなど、考えないことだ」
ジュリアはうなずいてくれた。とりあえず、気を配っておくか。万が一無理をされたら、色々な意味で良くないからな。
今後のためにも、ジュリアはしっかりと見守っていくべきだな。
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