第34話 本心のありか

 王宮に呼び出されて、俺に罪を着せようとしている存在が浮き彫りになっていた。だが、今この場所でできることは、本当にない。せめて家にいれば、怪しい人間を調べる動きもできたのだが。


 いま問題になってくるのは、使える手足がないことだな。とはいえ、人を道具のように扱うのは問題だし、そもそも他人に危険を押し付けるのもな。自分でどうにかできるのなら、俺だけで終わらせたいところだ。


 まあ、ここで悩んでいても状況は変わらない。ということで、王女姉妹との話に集中することにした。王にも彼女達と話をしろと言われているし、単純に仲良くしたい相手でもある。


 なので、素直に王女姉妹との時間を楽しむと決めて、彼女達が待っている場所へと向かった。ふたりはそれぞれに違う笑顔で出迎えてくれた。


 姉姫のミーアは満面の笑みという感じ。妹姫のリーナは穏やかな笑顔という感じ。やはり、対極的に思える。そんなふたりが、いま仲良くしているという事実。俺の行動の結果が、とても嬉しかった。


「レックス君、久しぶりね。リーナちゃんったら、レックス君が来るって聞いてから、ずっとソワソワしていたのよ」

「うるさいです、姉さん。レックスさんも、真に受けないでくださいね」


 まあ、俺を待っていてくれたのなら、それは喜べることではあるのだが。実際のところ、どうなのだろうな。ミーアは大げさに言っていても、おかしくない人間だとは思う。


 とはいえ、俺に親しみを感じてくれているのは、さっきの笑顔で分かる。だから、ミーアの発言はどちらでも良いか。本当でも、ウソでも。


「ああ、分かっている。ミーアは何でも大げさに捉えそうだからな」

「そう断言されるのも、それはそれで腹が立ちますね……」

「リーナちゃんったら、素直じゃないから」

「余計なことを言わないでくださいね、姉さん」


 とりあえず、掛け合いを見ている感じ、本当に仲良くできているみたいだ。『デスティニーブラッド』では、不可能だった光景。それを思うと、俺は良い未来をつかみ取れたんだと実感できる。


 リーナは、ひねくれた感じの物言いが多い。まあ、当人のいた環境を思えば仕方ないが。だから、多少言葉に棘があったところで、素直に受け入れることができる。


 というか、俺の方が問題なくらいだよな。演じていないと命が危ないとは言え、酷いことを言っている自覚はある。嫌われないか、怖いくらいだ。


「ミーアはうるさい人間だ。諦めろ」

「レックス君、ひどい! でも、こうして集まると、私達はみんなぜんぜん違うって分かるわよね。だけど、こうして仲良くできる。とっても素敵なことだわ」

「まあ、悪くはないと思いますよ」


 俺も、同感だ。ミーアとリーナは似ていないし、俺は生まれが悪役貴族。それでも、良い関係を築くことができた。素晴らしいとしか言いようがない。


 それに、原作ファンなら夢見た光景のはずだ。ミーアとリーナがお互いに分かり合う光景は。ミーアは妹と仲良くしたいと思っていたのに、周囲の環境が邪魔をした。リーナは誰かに認められたいと思っていて、姉を倒そうとしても、結局は無駄だった。


 結局、どっちも望みが叶わない結末だったからな。ミーアとリーナが殺し合う原作は。


「こうして、闇属性と光属性、五属性が仲良くしているんだもの。きっと、無属性の子とも仲良くできるわよね」


 主人公であるジュリオとも、仲良くか。そうできたら良いよな。俺だって、誰かと敵対したい訳じゃない。手を取り合えるのなら、そっちの方が良いと思う。まあ、表立っては同意できないが。


「ミーアはお花畑なことだ。笑えるな」

「無属性は、闇属性に強いですからね。レックスさんが警戒する気持ちも分かりますよ」


 魔力の性質の問題なんだよな。無属性は、性質が変わらない。ただの純粋な力。魔力が同じなら、変換にリソースを割かれない分だけ威力が高くなる。ただ、汎用性は低い。


 とはいえ、闇の魔力の特性である侵食が通じにくい。純粋な魔力は結合が強く、入り込みにくいみたいな設定があったはずだ。だから、原作での悪役である、多くの闇魔法使いを倒す切り札となった。だから、俺も不利になるはずだ。


 それでも、主人公を殺すなんて論外なんだよな。ジュリオがいないと解決できない事件なんて、いくらでも思いつく。そもそも、人殺しなんてしたくない。


「舐めるな。ただ魔法の相性が悪い程度のことで、俺が負けるものか」

「だったら、無属性の子と仲良くするのは、問題ないはずよね?」

「そんな簡単な話じゃないと思いますよ、姉さん」

「分かっているわ。だけど、きっと仲良くできるはずよ! だって、私達は友達になれるんだもの!」

「まったく、姉さんは……。でも、そんな未来が訪れれば良いですね」


 本当にな。誰もが手を取り合える未来なんて、理想というほかない。悪役だった人間と、正義側だった人間でも、友達になれるのなら。


「ちょっと話しただけで友達か。ずいぶん気安いものだ」

「でも、そう言うレックス君も、私達を守ろうとしてくれるものね?」

「そうですね、姉さん。私を暗殺者から助けてくれた。それは事実ですから」

「だから、私達もレックス君が困っていたら助けてあげるわ! それが友達だもの!」


 王女姉妹の力が借りられるのなら、心強いだろうな。光属性使いに、五属性ペンタギガ。ともに最高峰の魔法使いである。同時に、王族としての権力もある。まあ、利益を考えて友達を選ぶなんて真似、したくないが。


「ふん。俺はお前たちに助けられるほど、弱くはない」

「強がりも程々が良いですよ、レックスさん。私は分かっていますけど、言葉通りに捉えられたら困りますよね?」

「レックス君は、素直になれない子だもの! そういうところも可愛いわ!」

「フェリシアさんも言っていましたね。まあ、分かりますけど」


 理解されて嬉しいという気持ちと、それが周りに知られたらまずいという感覚が同時にある。俺が演技をしているのは、ブラック家の人間や、その周囲の人々に殺されないように。だから、触れ回られると困るんだよな。


 とはいえ、直接的に周りに言うなというのも、俺が演じているのを肯定するようなものだ。何が正解かは分からない。それでも、演技は続けるつもりなんだ。少なくとも、悪役たちの前では演技が壊れないように。


 王女姉妹には、口が悪くて済まないと思うが。それでも、演技しなくていい場所があると、俺の演技力がもっと落ちそうだ。


「知ったような口を利くものだ。お前達程度では、俺を理解などできないだろうさ」

「またまた、照れちゃって! 私達の言葉が、嬉しいのにね」

「そうですね。なんとなく、分かる気がします。レックスさん、演技が下手ですから」

「でも、きっといつか、レックス君の本心が聞きたいわね!」

「はい。私達を大切に思ってくれていることは、言葉にされたらもっと嬉しいですから」


 俺も、王女姉妹にいつか本心が言いたい。他の人達にも。だが、まだまだ先の話だ。少なくとも、ブラック家が行うような暗殺の手段を跳ね除けられるようにならないと。


「だから、演技などしていないと……。っ! これは、黒曜ブラックバレットが撃たれたのか!?」


 突然、襲いかかった感覚。それが意味することは、ウェスが誰かに攻撃を受けているということだった。

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