終「そして再び――」

 ヨウジロウがもうすぐ十四になろうかという頃、天狗の里の里長邸に来客があった。



 天影てんえい十席のディエスに連れられた、おかしな頭髪をした三人組と、赤児を抱いた色っぽい魔人族の女。


 おかしな頭髪とは、カシロウの髷と似たようで似ていない、頭の真ん中を剃った大男と、左右それぞれを剃った細身の男が二人。



 ディエスはその者らを里長に預け、ヤマノ邸へと駆けた。

 かつて幾度もここを訪れたディエスは勝手知ったるものである。


 ヤマノ邸に隣接する道場を覗き、折り良く木剣による稽古中だったカシロウ、ヨウジロウ、ハルさん。


 しばしそれを眺めたディエスには分かる。

 やはり剣の腕ならまだまだカシロウが上。


 そして稽古中の三人を呼び止めて、客を連れて来た旨を告げた。



 程なくしてヤマノ一家を連れて戻って里長邸。


 里長夫人に案内されて奥の和室に踏み入ったカシロウらを、賑やかな濁声だみごえが迎え入れた。


「「「ハル兄貴!」」」

「この馬鹿どもが! 先にカシロウ様だろうが!」


「しかし相変わらずその頭なんだな」

「もうこれじゃなきゃしっくり来ねえんだよぉ」


 ハルさんに諭されたケーブら三人は、遅ればせながらカシロウとヨウジロウに挨拶し、久しぶりの再会を喜んだ。



 そしてもう一人。


「久しいなエアラ。その後変わりはないか?」


「ええ、私もも元気にやっておりますよ」


 エアラの言葉に、それは良かったとニコリ微笑むカシロウが続けて言う。


「して、その、天狗殿の子を紹介してくれないか?」


「ええ。きっと驚きますよ……ってあら? ぼんはどこへ?」


 キョロキョロと辺りを見回すエアラとケーブら。


 そうは言ってもそう広い部屋ではない。

 ようやく這うようになった程度の赤児を見失う筈もないのだが――



 と、その時ドォンという音が響いて、間を置かずに悲鳴が轟いた。



「――ぁぁああ! 私の! 私の庭がまたしてもぉ!」


 どうやら里長の声らしいと、カシロウ達も声のした縁側へ踊り出す。

 するとそこには、見るも無残な姿の、里長自慢の庭園の成れの果て。


 茫然とする一同の中、縁側にチョコンと座り、庭と里長の顔を見てはケラケラと手を叩いて喜ぶ赤児の姿。


 不意にトノが現れピィィとひと声鳴いた。もちろんカシロウの耳にしか届かぬ声で。

 どうやら当の赤児を睨んでいるらしい。



「……もしや、あれが天狗殿の……子?」


「……ええ。それがね、あの子ったらついこないださ。それが――」



 エアラの声を遮って、久しぶりに里長の巻き舌が火を噴いた。


「おんどりゃぁぁ! いくら天狗様のお子であっても許さんぞこらぁぁ!」


「――里長、五月蝿うるさい」



 そう言ったのは、なんと手を叩いて喜んでいた天狗の子。


 それを聞き、カシロウの視線がエアラへ向いた。



「そうなの。ったら、って言うのよ」



 そう言ったエアラの顔は、嬉しくってしょうがないという満面の笑み。


「……て、天狗殿……なのか――?」


「や! ヤマノさん、それにみんな、久しぶりだね。また今生でもよろしくね」



 見た目は一歳のどこにでもいそうな赤児。

 しかし流暢に喋る言葉遣いは完全に天狗のソレ。


 一同は反応に困った様子でそれぞれ顔を見渡すが、カシロウもヨウジロウも、皆が皆、その顔からは喜びが溢れていた。



「天狗殿ぉぉ!」



 誰より早く駆け寄ったカシロウが天狗を抱きかかえ、その乳臭い、良い匂いのする赤児らしい腹へ顔を埋めて喜んだ。


「なんと可愛いらしいお姿になられて……」


「そりゃ、赤ちゃんだし、僕とエアラの子だからね。可愛いに決まってるよね僕」


 天狗の可笑しな言い回しに、一同は笑い声を上げた。


 しかし里長だけは、喜びか怒りか悲しみか、どれとも判別の難しい涙で濡れた顔で言う。


「……天狗様のお帰りは大層嬉しいですが、なぜ手前の庭をあの時のように破壊されたのでしょうか?」


「その……、の神力でね、いきなりボカンとやったら面白いかな、って。ごめん、そんな怒ると思わなかったんだ」


 天狗の言葉に崩れ落ちた里長の様子がまた可笑しくて、そして再び皆が笑った。



 その日、カシロウ達の笑いが絶えることはなかったが、カシロウの涙が止まることもなかった。





⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎


 天狗が戻った。


 もう修業に明け暮れる必要もないかもな、とディエスは言った。


 しかしカシロウは首を振り、ヨウジロウ愛する我が子を見遣って言う。



「天狗殿は戻られた。お前もずいぶん大きくなった」


 ヨウジロウの肩に手を置いたカシロウが続ける。


「それでもまだ、この父に任せてくれるか?」


 それに対してニッと笑ったヨウジロウ。


「当然でござろう! それがしの剣はまだ、父上から一本も取れんのでござるぞ!」






――了









◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 本編完結でございます!

 けれどまだ引っ張りまくったあの――


『地の文はダレだ!?』


 ――がございますゆえ!


 もうバレバレでしょうがもう一話、裏話的なものを上げます。

 幾つか残したままの疑問も回収いたしますのでもう少しお付き合いくださいませ!


 このお話しはカクヨムコン9に参加しております。

 ☆☆☆を★★★Excellent!へと変えてって貰えたら幸いにございます(*⁰▿⁰*)!

 ぜひ読み専様も! この機に足跡残してって下さいませ!


 あ、それと読者選考期間がまだ一週ほどございますので、ブクマもしばらく外さないでいて貰えますよう重ねてお願い申し上げます(>人<;)!

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