異世界ハードライフメモリーズ 世界中の愛を添えて

虹まぐろ

第1話 転移して逮捕される

 夢を見ていた。多分エッチな夢だったと思う。 それはとても甘美で、知識では知っていても、現実では知らないもの。


 美女に甘い声で「頑張ってね」と耳元で囁かれ、見事な双丘に顔を挟まれて、その見事な弾力と柔らかさに安心感を覚え、興奮し、直立不動。極上の中に2粒の小さな蕾の存在を確認するも、でもそこから先をどうしたら良いのかが、分からない。


切なく悲しい童貞の夢。




「「衛兵さん、こっちです」」


 誰かが叫んでいる。


(うるさい。今僕は極上のおっぱいの夢を見ているんだ。邪魔をするな・・・うう)


 陽の光を感じてゆっくりと覚醒していく意識の中で、僕、明上あけがみあきら(20歳)は安眠を妨害されたことに腹をたてた。

 

 昨日は同期の奴が仕事無断欠勤(連絡も取れない)したため、納期が迫っている奴の仕事を僕がカバーする羽目になった(僕の担当分は完了済)。結局、会社をでたのは時計の針はてっぺん過ぎ、家に着いたのは午前二時。自転車通勤のだから家に帰る事はできたが、心身の疲労は半端ない。結局、風呂にも入らずそのまま眠ってしまった。

  



そんなわけで、マジで眠い。体も節々が痛い。疲れが全然取れてない。折角良い夢を見ていたのに。


「「ガヤガヤ」」

「「衛兵さん、あそこです」」


「・・・ううん、もう!」


 誰かは知らないが、朝から騒ぎ過ぎだろう。アパートの2階にある僕の部屋まで声が聞こえてくるなんて、一体どんな大声で話をしているのか。全く酷い輩達だ。ご近所様の迷惑も考えてくれ。


 二度寝を諦めた僕は、頭を掻きながら、今日は特別に硬く感じるベッドから起き上がる。いつも7時にセットしている目覚ましがまだなっていないので時間は結構早い時間帯だろう。損したような、得したような。季節は春を迎えて大分温かくなってきているはずなのに、今朝はとても寒く感じる。僕は寒さから身を守るために昨年の冬のボーナスで思い切って買った「国産の高級羽毛布、絶寒・軽暖」を、眠い目を擦りながら手探りで探すが手ごたえが全くない。


「「ガヤガヤガヤ」」

「「ねえ、あれ生きているの?」」

「「なんで、この寒空に全裸なのかしら」」

「「追いはぎにでもあったのかな」」

「「まあまあね」」


「ふあーあ、眠い」


 目を閉じあくびをしながら、何度手探りで探しても全然あの温かい国産で高級な・絶寒・軽暖がない。逆に柔らかいはずのベッドマットレスがゴリゴリして、埃っぽい感じがする。


(ベッドから落ちて床に寝ていたのか?)


 そんなことを考えながら、絶寒・軽暖を探すのを諦めて起床しようと試みながら、さっきから気になっていた喧騒に一人突っ込む。


「てか、さっきがらガヤガヤうるさいな。一体何だよ!」


「「キャー、見て立っているわよ」」

「「変態よ。こいつは露出狂だわ!」」


 何が立っているというのか。俺は座っている。しいて言えば、立っている部分もある。僕だって健康で文化的な成人男性。人並以上に女性に対しての興味はある。今日のアイツは何時になく開放的で元気一杯な朝立ちで、むしろ仁王立っている。あの夢が原因だろう。痛い位だ。


「「早く衛兵さん、こいつを牢屋に連れっていって」」


 今度はすぐ傍で、物騒な物言いをする声がハッキリを聞こえた。どうやら複数の人がいて僕を囲んでいるような気配がする。距離も徐々に詰められているようだ。


(僕は昨日のストレスでおかしくなってしまったのか?)


 誰も居ないはずの僕の部屋で女の叫び声。


 額に汗が浮かんで背中がゾッとする。冷や水を浴びせられた感覚だ。あまりの怖さに、さっきまでは開放感マックスで痛い位にいきり立っていたアイツが次第に力を失っていく。


 これは、もしかして心霊関係の・・・現象?


「「あ、縮んだ。小さくなったわ」」


 再度失礼な女の声。ハッキリ聞こえた。やっぱりいる。でも、どうして女の霊が。俺は恨まれるようなことはしていない。僕は今まで彼女ができたことが無く、アイツは未使用、神秘の世界を知らない僕が何故に女の霊に囲まれているのか。 


「童貞(チェリー)喰い(イーター)」の霊なの?


 怖すぎて目が開けられない。眠気が完全に吹っ飛び意識がしっかりしてくると寒気までしてきた。というか、めちゃくちゃ寒い。

 誰も居ないはずの部屋から女の叫びや誹謗中傷が聞こえるばかりか、まるで冬に外にいるがように凄く寒くて、僕は固く冷たい床の上で、全身が震えだす。


 僕は、今、霊障を受けている。霊達は、僕に憑つくつもりだ。やばい、本気でやばい。僕のすぐ傍にいる。


 首が、肩が、重い。


 僕は一刻も早く心霊的な体験に終止符を打つべく方法を考える。僕になら出来る。だって僕はいつも爺ちゃんに言われてきたじゃないか。やればできる子だって。思い出せ。爺ちゃんから聞いたことを思い出せ。たしか幽霊は声を出したり体を動かいたりして刺激してはいけない、けっして幽霊には気がついていることを悟られてはいけないと言っていた。  


 しかし、僕は既にアイツと一緒に起き上がり、霊の言葉につっこんでしてしまった。奴らは僕がシックスセンス持ち(自分も今まで知らなかった)だと気がついてしまったはず。寝た振りや死んだ振りは通用しないだろう。


(どうすれば良い)


「おい貴様!」


 今度は男の声。すぐそばにいる。


「貴様、聞いているのか」


 僕は完全に僕をロックオンされている。


(爺ちゃんは何と言っていた。幽霊の対処法を思い出すんだ)


「聞こえているのかと聞いている!!」


(そうだ、思い出した。爺ちゃんが言っていた魔を払う呪文を)


 バキ!


 「つうぅ」


 天啓を得た僕の頬に衝撃が走り、鉄の味が口に広がる。反応を見せない僕にしびれを切らした霊に殴られたみたいだ。


 しかし、霊が殴る、だと。


 そういえば爺ちゃんから聞いたことがある。

 物理に干渉出来るほどの、とんでもない力をもった霊、悪霊のことを。悪霊に一度狙われてしまえば、どんな手を使っても、地の底まで追いかけきても確実に命を刈り取りにくるスーパーナチュラルだと。

 悪霊、しかも数体の悪霊。そんな超常の存在に取り囲まれた僕は、もう、駄目、かもしれない。

 

 こんなことになるのなら、ちゃんと爺ちゃんに言われた通りに、スーパーナチュラル見とくのだった。


 くそ、ダメだ、心臓が痛い。息が出来ない。


 いや、まだだ。まだ終わってはいない。まだ、やれることは在る。僕は悪霊を追い払うため、爺ちゃんから聞いた太古の呪文を頭の中で思い浮かべた。こんな言われない理不尽を打ち払ってやる。覚悟しろ!! 

 

 僕は腹に力を入れて思いっきり立ちあがる。種を守ろうとする生存本能からだろうか、僕の勇気に呼応し、アイツもまた一緒に立ち上がってくれた。


「「また、立ったわよ、反り立っているわよ!」」

「「なんて破廉恥な!」」

「「さっきより、成長している? 気を付けて、大きいわ」」


 喚く女の霊達を完全に無視し、僕は「やっ」と裂ぱくの気合いと共に悪霊を瞳に捉えるために眼を開く。そして、この言霊を口にした。


「悪霊ー退散ー! 天地神明の神よ、悪霊を祓い給え!」


(僕はまだ死ねない、アイツを使用しない内は、僕は、まだ死ねないんだー!!)


 魂からの言霊退散を放った僕は、瞳を開き、

状態を観察する。すると、僕の前には、2メートル以上ある槍を持ち、銀色の鎧を身に付けた厳つい悪霊の男達が不思議そうに立っていた。


 ???


 呪文が効いていない? いや諦めるな、もう一度だ。


「悪霊退散、悪霊退散、天地神明の神よ、悪霊を祓い給え!」


「・・・」


 呪文は効いていない。驚いてはいるようだが、退散してくれない。何がいけない。何が足りない。


!!


そ うか、塩だ。塩が足りないのだ。どうする、塩は台所にある。目の前の悪霊を振り払って台所まで行くことがさえ出来れば塩を手に入れることが出来る。僕はそう考え台所の塩の場所を確認しようとして、気が付いた。


 (台所が無い! とういかここ外じゃね?)


 澄み渡る青い空が広がっている。何度も何度もクルクルと首を動かして見ても、間違いなくここは外だった。


 「誰が悪霊だ、この野郎」


 バキッ!


「つうぅ」


 野外にいることに驚きフリーズするとする僕の頬に二度目の衝撃が走る。


 二度だ、僕は二度もぶたれた。


「二度もぶった。親父にも・・・ぶ」


「黙れ」


 ゲシッ!


 「くはぁ」


 蹴られた。今度はやくざキックされた。180㎝で75キロ、結構筋肉質系の僕が地に膝をつく。


 ・・・蹴った?


 蹴られた腹を手でおさえ、地に片膝をつき、苦悶の表情を浮かべながら相手を良く見ると、目の前の男は勿論、周りで僕を囲む男女全員に足がある。


 人? 生きている人間?


 僕は混乱した。混乱しながら再度周りを見ると、男達の他にも古いデザインのドレスを着た女や、短剣を持った猫耳、薙刀のような物を持った犬耳女、弓を持ったやや色黒の耳が長い女、盾もった蜥蜴までいる。しかも、男女とも大勢いる。


 全員がコスプレをしている? コスプレの域を超えている人もかなりいる。映画で見る特殊メイククラスだ。


 しかし何故、僕はコスプレの集団に囲まれているのか? 


 何故僕は外にいるのか? 


 

そして、何故、僕は、服を、着て、いないのか?


「貴様はここで何をしている!」


 混乱し、思考が一時停止した僕を、何度もぶった上に蹴り倒した乱暴者の男が恫喝してくる。


 しかし、何をしているかと問われても、何をしているのか、また何があったのかは僕が一番分からない。

 言えるとすれば、ただ寝て起きただけ。モゴモゴと言い淀む僕にイラついたのか、今度は大声を出して僕を責め立てる。


「貴様は、誰で、何が目的で、全裸でナニおったてたままで、ここに居る!」


 全裸でナニをおったてたまま??


 かなり問題のパワーワードが飛び出した。混乱の極みだが、どこか冷静な自分もいる。

 

 僕は深呼吸をしてから、自分の姿を見る。なるほど、生まれたての姿、全裸だ。アイツは他人事のように、天を突くように勇ましく反り返り、存在を主張している。


 僕はアイツから視線を空に向け、少しだけ頭を捻り顎に手を当てて今の状況を考えてみる。


 ここが何処なのは分からない。中世の町を思わせる作りの街並みに、コスプレイヤーが跋扈する場所など東京にはないはずだ。いや、もしかしたら田舎者の僕が知らないだけで、どこかにそんな場所があるのかもしれないが、僕の住む近所には心当りはない。


 僕は部屋で寝ていたのに、いつの間にか見知らぬ場所にいて、見知らぬ人達に取り囲まれて、裸で糾弾されながら、職務質問を受けている。


 職質の必要性、事情については分からこともない。逆にされない方がおかしいと思う。問題はどうしてこうなっただが・・・、いくら考えても答えは出ない。だが、このままでは僕は何もかもを失ってしまうことになる。


 多くの人が歩く足を止めて僕を見ている。囲み込み、全裸のマックスの男と衛兵を呼ばれる大男の行く末をどうなる事かと見守っている。

 

 中にはスマホで動画を撮っている輩もいるかもしれない。この世知辛い世の中「全裸マン現れる」などと、情報の大海に晒され、オモシロ動画として世界に拡散される可能性だって十分にある。そうなってしまった場合には僕に出来ることは無い。


 そうなってしまえば僕の力ではどうしようもないが諦めるわけにもいかない。

 

 ここからは個人的な希望・お願いになりますが、もし、もし、良心というものを少し。もお持ちなのでしたら、最低限のネットリテラシーに則り、最低限、目線の修正・加工を入れていただけないでしょうか。


 僕の尊厳と生死が掛かっているのですから。


 とは言え、もう既に現状において人としての、尊厳の方は失ってしまっているので、今更と言えば今更だ。


「ふざけた奴だ。お前を公然わいせつの罪で逮捕する。逃げようなど要らぬ事など考えるなよ。痛いだけでは済まないからな。おい、こいつを衛舎に連行する。拘束しろ」


 公然わいせつ罪で逮捕? 逮捕だと!


 僕の頭に浮かんだのは、報道陣の前で両親が泣いて謝罪をする姿、友人を名乗る輩がテレビの取材で、「あいつは、そんな事をしないと思ってましたがが、立派な物はもっていました」と、燃料を投下する姿、何の弁解もさせてもらえないまま会社をクビになる姿。

 

 しかし、一番怖いのは部屋にあるPCのエロ関連の研究考察資料集15テラバイト。僕の長年の研究成果が、世間様に公表されてしまう危機。

 正直、親や友人や会社はどうでもいいが、あの研究成果はまずい。


「待って下さい。違うんです。違いますから。全部誤解です。僕は何もしていません」


「馬鹿野郎! チ〇コだして町の大通りで訳の分からんことを言いやがって。どうせ薬をやっているのだろう!そんな奴を放っておけるか! 今の状況だけでも十分逮捕だ。詳しいことは衛舎で聞いてやる。大人しく連いてこい」


「違います。勘違いです。僕じゃないです。僕はやっていません。本当に違いますから(泣)」


 泣こうが喚こうが許されず、僕は両手を縄で縛られお縄となり連行された。徒歩でしばかれながら生まれたままの姿で、見知らぬ街で連行された。


 連行されながら僕はある一つの可能性が頭をよぎった。


 (これは悪質なドッキリカメラだ。そうに違いない!)


 こんな大がかりなドッキリで一般人を嵌めるなんて最低だ。スタッフは何処にいるのか。カメラは何処にあるのか。誰かが仕掛けたドッキリカメラ、絶対に訴えてやる。

 

 しかし、


 最後までドッキリのプラカードを持った人物は現れず、全裸の開放感がだんだん良くなってきた頃、僕は本当に衛舎の牢に収監された。

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