ナツメさんと私の平凡な日々

赤オニ

第1話 むかしばなし

 これはむかしむかしのお話だ。

 あるところに、一人の女が居た。女には好きな男がいて、男もまた女のことを好いていた。

 しかし、疫病が女を襲った。女は病に倒れ、余命幾ばくも無い。

 男は女を助ける方法を探し求め、ついに禁術へと手を出した。

「そうして生まれたのが、アンデッドのあたしってワケ」

 ナツメさんの言葉に、私はへぇともふんとも、つかぬあいまいな返事をする。何せ、今は試験の追い上げ中なのだ。生首のナツメさんの嘘か本当かも分からないお喋りに貸す耳は無い。

 私は必死にペンをノートへと走らせる。ナツメさんは「話し甲斐が無いなぁ」などと独りごち、しばらく「昔話ってのは貴重なんだよ」「ここだけしか聞けないんだぞ」とうだうだ言っていたが、やがて静かになった。

 その日の晩は、私のシャーペンの音だけが室内に響いていた。

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