第7話 年齢

「い、いきます! うおおおおおおお!!」


 私は全力で走りだした。

 しばらく走っていると、先程私を襲ったモンスターと同じ奴……ゴブリンの群れが現れた。


「はぁ……はぁ……疲れた……流石に歳だね……」


 全力疾走に疲れた私は、思わずそう呟いた。

 するとコメント欄には……。


『……歳?』

『あれ? 美羽ちゃんって高校生じゃ……』

『【速報】百地美羽、またもサバ読み疑惑』


 ……私の先程の発言に反応していた。

 あ、やば……。


「あ、ち、違います! 私はまだ10代でー……」

『草』

『定番ネタきたあああああ』

『なんか懐かしく感じるな』

『久々にVtuberの配信見たけど、そういえばこんなノリあったよな』


 私の全力の否定に、またもコメント欄が沸き上がった。

 ……そう、私は度々年齢に対する失言をしてしまうのだ。

 百地美羽は「最近里を出て外の世界で修行している女子高生」という設定なのだが、初期の頃から「10代なのに最近の女子高生の流行りを知らない」「それとは対照的に古いネタをたくさん使う」「2000年代のミームを多用する」とかなんとか言われて定期的に切り抜かれたっけな。

 最近はみんな飽きたのか反応しなくなってきたが、久々の感触でなんか嬉しい。


「と、とりあえず! 目の前の敵、倒します!」

『あ、ごまかした』

『年齢的に辛いかもだけどがんばれー』

『母さん、やめてくれよ……』


 コメント欄は相変わらず年齢イジリで溢れているが、私は刀を構え、ゴブリンに突撃した。

 それっぽい動きをしつつ、私はゴブリンを切り刻んでいった。

 凄い……なんとなく動いているだけなのに、どんどんモンスターが消えていく……。


『うおおおおおお! かっけええええ!!』

『つよい』

『美羽ちゃんもしかしてダンジョン経験者?』

『ダンジョン何回か行ったことあるけどこの子相当な実力者だぞ』

『刀の研磨代 ¥1000』


 コメント欄をチラ見すると、年齢イジリから一転、私の素人みたいな戦闘能力を褒め称えるものに変わった。


「どう? ダンジョンに年齢なんて関係ないでしょ?」

『あ、年齢のサバ読み開き直った』

『ママかっこいいよ』

『うーん……かわいいからセーフ!w』


 ……私が調子の乗ったことを言うと、コメントしてるみんなが乗ってくれた。

 なんか、楽しいかも! それじゃあこのまま……。


『美羽ちゃん! 危ない!』

『後ろ! 後ろ!』


 ……え? 後ろ?

 私がコメント欄に反応し……後ろを振り向くと。


「ひ、ひぃ……」


 先程の怪物とは比較的にならないくらいデカい……私の身長より2倍くらいデカいゴブリンが、後ろで仁王立ちをしていた。

 ……殺される。

 私は思わず、腰を抜かしてしまい、その場から動けなくなってしまった。


「た、助けて……」


 私は目を閉じ、できるだけ痛みを感じないようにしようと思った。

 こんなことになるくらいなら、依頼料を返金して、しがないVtuberのままでいればよかった。

 ダンジョンなんかに潜るんじゃなかった……そんな考えが過った。

 怪物はその屈強な腕を振り下ろし、私の息の根を止めようとした……。


「グォォォォォ……」


 ……殺される、と思ったその時、殴打する音と共に、怪物が呻き声を上げた。

 な、なに?

 恐る恐る目を開けると……屈強ではあるが、動きやすそうな走行に身を纏った人物が、私に背中を見せ、立っていた。


「……誰?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る