救援


 まるで天空から大岩が降ってくるような錯覚に見舞われた。

 アイアンゴーレムによる、巨腕の雨がハルに降り注ぐ。



「あっ、ああっ! 危なっ、ハルにい!?」



 通路まで避難したカエデが、アイアンゴーレムの拳がハルに向かわれる度に小さな悲鳴をあげている。

 ハルは毎回全力で走り、飛び込むように地面を転がり、何とか避けているが、一発でももらってしまえば致命傷は必至。



(何とかしないとっ!)



 躱した巨腕の一発が地面に突き刺さった瞬間、反撃の一太刀を放つ、が―――



「―――痛って!?」



 ガキィン、と金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き、ハルの魔装具を持つ腕に衝撃が走る。

 アイアンゴーレムの腕には多少の傷が残る程度で毛ほどのダメージも与えられていない。



(まずい、このままじゃジリ貧だ!)



 躱し続けるのもいずれ限界が来る。

 かといって、生半可な攻撃は通りそうにない。



「ハルにい! あの人に! 直接!」



 カエデが大声をあげてメイリアを指さしている。

 魔獣本体に攻撃が通らないのであれば、その主を狙えばいい、ということか。

 ハルは再び迫りくる魔獣の巨腕を、死に物狂いで躱し、『黒闇』の魔法で自身にかかる重力を操作。

 まるで飛ぶように跳躍すると、一気にメイリアの眼前まで躍り出た。



「だよねぇ、そう考える奴は多いんだわ」



 予想通りというように、鼻で笑うメイリア。

 ハルは嫌な予感がして振りかぶった魔装具を引っ込め、全力で後ろに飛ぶ。


 一拍の後、ハルが今正にいた所を、魔獣の拳が通り過ぎた。



「っぶな!?」



 唯一の突破口と思われたその手は、敵を誘い込む罠だった。

 もしあのまま攻撃しようとしていたら、魔獣の腕に押しつぶされていたことだろう。



「ぷっ! あっひゃっひゃ! いやー、惜しい惜しい! 大体の奴は今のでペシャンコなんだが、いい反応速度だ!」



 メイリアは声高々に笑う。これまでも、メイリアと相対してきた者達はハルと同じようにメイリア本人を狙う戦法を取ったのだろう。


 だが、それに釣られて魔獣の強烈な一撃により、為すすべなくやられてしまっていた、ということか。



「あー、それと、あたしを殺しても家族達は止まらないからな。それよか、暴走して更に手を付けられなくなるから注意しな!」


「なっ!?」



 それが本当なら、もはや手の打ちようがない。

 今のハルの力量では魔獣を倒すことも、メイリアに止めさせることも出来ない。



(くそっ! どうする・・・!?)



 とにかくこの状況を打破できるような、何か一手を考えなければ、と再び魔獣の攻撃をしのぎながらハルは考え続けるしかなかった。



「あぁ・・・、ごめん、ごめんね、ハルにい・・・」



 カエデは何もできない自分に歯噛みしていた。

 それどころか余計な言葉で、危うくハルを危険な目に遭わせるところだった。



「もうっ・・・、どうして私は!」



 肝心なところで、大切な人を守れない。

 ベルブランカとアレンが操られ、グランディーノも取り戻せず、そして今もハルが戦っているというのに、ただ眺めているだけ。


 魔装具がなければ、せっかく得た『紫炎』の魔法も使えない。魔法が使えなければ、ただの無力な一般人。



「うぅ・・・どうしよう・・・」



 魔獣の巨腕が地面に突き刺さる度に、鉱山全体が揺れるほどの揺れが起こる。

 それほどの衝撃を伴う一撃を、何とか躱し続けているハルの恐怖は計り知れない。


 そしてそれも、いつまでも続けられるわけではない。



「アイアンゴーレム! いつまで遊んでる!? さっさと捻りつぶせ!」



 いつまでも攻撃を避け続けるハルにうんざりしたのか、メイリアは魔獣に怒号を飛ばす。ハルも肩で息をしており、そろそろ限界が近いことが見て取れた。



『ウオオオオオオオオオ!!!』



 アイアンゴーレムは雄叫びを挙げ、その巨大な鉄の両腕を振り上げた。



「だめ・・・だめ! 絶対だめ!!」



 もう大切な人が目の前で奪われる姿は見たくない。

 カエデは気づけば通路から飛び出し、足元の石を手に取りメイリアに向けて投げた。


 しかし、石はメイリアに届くことなく、アイアンゴーレムの肩にコツンと届くだけに終わった。



「あぁ~? はぁ・・・、あんたも、さっきからピーチクパーチクとうるさいね。もういいわ、アイアンゴーレム。その小娘から先に潰せ」



 メイリアの言葉で、標的をカエデに移すアイアンゴーレム。

 まるでありを踏みつぶすかの如く、そのいくつもの大岩が重なったかのような巨大な足を振り上げる。



「やめろ! カエデに手を出すなっ!!!」



 ハルが必死の形相で、カエデを助ける為に走ってくいく。

 それでもまだ距離は遠く、到底間に合いそうになかった。


 カエデは、スローモーションのようにゆっくり振り下ろされる魔獣の足を見て、あ、これダメかも、と前にも同じようなことがあったことを思い出す。



「ごめんね、ハルにい・・・逃げて」



 カエデは精一杯の笑顔をハルに向ける。

 ハルも必死に手を伸ばした。


 ―――そして、辺りに轟音が響く。



「へ?」



 素っ頓狂な声をあげたのは、カエデ。

 もう車に引かれたカエルのように潰されるんだ、と割とのんきにそんなことを考えていたわけだが、何故か潰されていない。


 見上げると、アイアンゴーレムは足を振り下ろすことはなく、逆にその巨体を真後ろにのけぞらせ、ドオン、と地響きと共に転倒した。

 ポカンと口を開けながら、状況が理解できずあほ面を晒しているカエデを守るように、現れる二つの影。


 透き通るような青い髪の少女と、ダークブロンドの髪の少女。



「アイリス!」


「べええええるうううううううう!!!」



 カエデを助けに現れたのは、アイリスとベルブランカの二人だった。

 アイアンゴーレムに踏みつぶされる直前、通路の先から水の槍と巨大な岩の弾丸が飛来し、アイアンゴーレムに直撃。

 これまでハルの攻撃ではビクともしなかった魔獣に一矢報いることができた瞬間だった。



「お待たせしました、ハルさん!」


「カエデ! 無事ですか!?」



 無事にハルと合流できたことにホッとしているアイリスと、腰が抜けているカエデに寄り添うベルブランカ。



「ああ! ナイスなタイミングだった。ありがとう、アイリス!」



 本当に助かった、と心の底から感謝するハル。

 アイリスの背後では、カエデが半べそをかきながらベルブランカの腰に抱き着いていた。



「うえええええん!! ベルが元に戻ってるぅ! よがっだ! だずがっだ! ありがどぉおおお!!!」


「ちょっ!? まだ戦闘は終わってません! 離れてください!」



 涙と鼻水で、ベルブランカのメイド服を濡らすカエデ。

 口ではそう言いつつも、本気で嫌がってはいない様子であり、普段の仲の良さがうかがい知れる。

 ベルブランカの様子を見る限り、表情豊かな方ではないようだが、先ほどの洗脳状態にあった時とはまるで違う。


 この姿が本当のベルブランカであり、カエデ曰く親友と言っていいほどの人物、ということなのだろう。



「よくここが分かったな、アイリス」


「ハルさんが走っていった方に来てみたら、この鉱山の入口付近で戦闘の跡がありましたし、ベルブランカさんが洗脳下にある時に、ここに来るよう指示されていたことを覚えてくれていたお陰です」


「うろ覚えでしたが、間に合って良かったです」



 アイリスがベルブランカに手を向ける。

 ベルブランカはハルと目が合うと、カエデを腰に携えたまま小さく一礼。



「お初にお目にかかります。ベルブランカと申します。アイリスさんから、貴方のことを聞いた時は驚きました。まさかカエデが探している、幼馴染の方が一緒にいるとは思いもよりませんでした」



 王室のメイドの名に恥じぬ、丁寧な佇まい。言葉遣いも、その所作も、ハルが知っているブリブリのメイドとは全く違う。

 カエデを腰に抱き着かせたままなのが、とても違和感だが。



「ああ、こちらこそ、カエデがお世話になったみたいで、ありがとう」


「いいえ、この度はこちらの落ち度で、クリアス側にも迷惑をかけてしまって申し訳ありません」



 そう言って深々と謝罪するベルブランカ。

 見るとアイリスは苦笑している。恐らくアイリスにも同じようにしたのだろう。



「俺は、結果的にはこうしてカエデとまた会えたんだし、アイリス達には恩返しも兼ねて協力してるんだ。だから、気にしなくていいよ、えーっと、ベルブランカさん?」


「・・・ありがとうございます。それと、私のことはベル、で構いませんよ。カエデからは、貴方のことはよく聞いていましたし」


「ちょ、ちょ、ちょおおお! ベルさん!? 何言ってるのかなぁ!?」



 カエデがようやくベルブランカの腰から離れ、顔を赤くして手をブンブン振り回している。

 何か失礼なことを吹き込んでいたのか、とこんな状況でもなければ問いただすところだが。



「だぁー、痛ってえな、いきなり!」



 倒れていたアイアンゴーレムが立ち上がるとともに、メイリアがその魔獣の肩に乗ったまま、いら立ちの声をあげる。



「あー! メイドのおチビちゃんも、催眠解かれてるじゃん! だーもー、やっぱ他の人間は信用なんないね!」


『グオオオオオオオオ!!!』



 頭をガシガシ掻きながら眉間にしわを寄せる。

 アイアンゴーレムも転ばされたいら立ちからか、先ほどよりも怒気を孕んだ咆哮をあげる。



「そうだ! ベル! グランディーノ様があっちに!」


「っ!?」



 カエデは倒れているアイアンゴーレムの更に先。後方の大岩を指さした。

 そこには自分達と同じ催眠下に置かれた黄の国第一王子の姿があった。



「おのれ、貴様! 殿下に何を!?」


「うっさいなぁ、説明はさっき言ったからパス」



 冷静な瞳に憤り、声には怒りを乗せ、叫んだベルブランカに対して、メイリアはため息をついた。

 立ち上がって雄叫びを上げるアイアンゴーレムは、どうやら先ほどの一撃でも、魔獣の体を貫くようなことは出来なかった様子。


 しかし、魔獣の胸の中心部には、ヒビのような亀裂が入っていた。



「ハルさん、アイアンゴーレムはあの巨体を維持するだけの魔力のコアがあります。それは恐らく中心の大岩の中。アイアンゴーレムの中心部に攻撃を集中させてください」


「ああ、了解!」



 アイリスの言葉に頷くハル。

 その横で、ベルブランカは無色透明のイヤリングのような物を取り出し、カエデに差し出した。



「魔装具の予備です。使ってください」


「うわあ! さっすが、ベル! 用意が良い!」


「魔装具の予備くらい持ってて当たり前です。何が起こるか分からないんですから。そもそもあなたは準備の段階から―――」


「あーあー! お説教は後で聞くから、今はとにかく!」



 カエデはイヤリングを耳に着けると、紫色に輝き、次の瞬間には薙刀の魔装具が両手に握られていた。



「―――あいつを倒しちゃおう!」



―――――――――――――――――――――


 ハルとアイアンゴーレムとの戦いだった戦況が、カエデ、アイリス、ベルブランカが加わったことにより、様変わりしていた。



「ハルさん! そのまま自由に戦ってください! 私が守ります!」


「おお!」



 ハルは重力操作により上下左右、縦横無尽に飛び回り、刀の魔装具による斬撃。

 そんなハルを打ち落とすべく先ほどと同じように巨腕を振るうが、アイリスの水の玉が盾となり、魔獣の拳を受け止める、もしくは軌道をそらし、ハルへの直撃を防ぐ。



「カエデ。私が隙を見て魔獣を転ばせますので、そこを狙ってください」


「おっけー!」



 鬱陶しい虫を払いのけるように、アイアンゴーレムは両手を振り回すが、アイリスの援護によりハルを捉えることが出来ていない。

 魔獣がハル達に気を取られているうちに、ベルブランカは詠唱を開始する。



『飛び出せ、頭出せ、隆起せよ。バンプモール』



 それはまるで土から顔を出すモグラ。

 硬く隆起した土の塊が、アイアンゴーレムの足元から二つ、顔を出す。

 ハルに気を取られている魔獣は足元にまでは注意が及ばず、両足のかかとが隆起した土の塊に引っかかった。



『グオッ!?』



 アイアンゴーレムは大きくのけぞるものの、まだ転倒するまでには至らず。

 だが、それもまたベルブランカの想定内。



『撃ち砕け弾岩。ロックブラスト』



 ベルブランカが突き出した右手から、岩の弾丸が放たれる。

 それは一直線にアイアンゴーレムの頭に直撃し、転倒するまい、と踏ん張っていた魔獣はあえなく再び転ばされた。


 その瞬間、飛び出す人影。カエデが魔装具を振り上げる。



魔導一薙まどうひとなぎの二 海獺うみうその爆砕』



 薙刀の魔装具を上段に、魔獣の中心部に向かって叩きつけ、その斬撃と共に爆発。

 本来は相手の防御を崩す為に連撃を繰り出す為の技ではあったが、カエデの『紫炎』の魔法により、爆撃を伴う一撃に昇華。


 ハルに倣い、覇導一薙ぎではなく、魔導一薙ぎと名を変え、カエデも自身の魔法を組み合わせてこれまでの薙刀の技をアレンジしていくこととしていた。



「やったか!?」


「ハルにい!? それ絶対やって無い奴!」



 カエデの言う通り、アイアンゴーレムは体の中心部から爆発時の煙を巻き上げながらも、再び立ち上がり、怒りの咆哮をあげる。



『グオオオオオオオオ!!!』



 これまで以上に、耳がつんざくほどの雄叫び。

 叫び声で鉱山内部が揺れ、パラパラと壁の破片が落ちてくる。

 いつまでもハルを叩き潰せないだけでなく、小賢しく邪魔をしてくる人間が三人も増えたことで、アイアンゴーレムの怒りは頂点に達していた。


 そしてそれは、魔獣の主にも言えることだった。



「あ"ー、めんどくせえ。やっぱ、あたしが直接やるかー」



 いつの間にか、アイアンゴーレムの肩から別の大岩の上に移動していたメイリア。

 これまで自らは動いてこず、全て魔獣にやらせてきた。


 その為、魔獣を操ること以外はどのような魔法を使ってくるのか、全く分からない。



「さてと、第二ラウンドといこうか」



 メイリアの身に着けているネックレスが赤く輝き、魔装具へと変化する。

 その手には鞭のようなものが握られており、それを振るえば地面を穿ち、抉れる。

 風を切る音と共に大岩や壁すらも削り、ただの鞭とは思えないほどの殺傷力が備わっている。



「何あれ、当たったら超痛そー」


「・・・痛いで済めばいいけどな」



 獣じみた笑みを浮かべながら、鞭を自由自在に操るメイリアを見たカエデの感想に、ハルが冷や汗を流しながらツッコミを入れる。

 ただでさえ、アイアンゴーレム一体に手こずっているのに、この上メイリアまで相手にしなければならない。


 言い知れぬ不安と恐怖がハルを襲うが、カエデの前でダサい姿は見せられない、と魔装具を握る手に力を入れる。

 メイリアの鞭が赤く輝きを放ち、詠唱の言葉を口にする。



『さあ、今宵の獲物はこの先に。切り裂いて、食い散らかし、その道を赤く染め上げろ! ウルフガング・ブリッツ』



 叩きつけられた鞭から、赤く迸る雷と共に、赤い狼が現れた。

 否、赤い雷が狼の形を取り、それが四体。

 それぞれ駆け抜けた後に雷光を残しながら、ハル達に襲い掛かった。



「なっ―――ぐあっ!?」



 ハルは雷狼の牙を咄嗟に魔装具で受け止めた瞬間、文字通り雷に打たれた痛みと衝撃が体を突き抜けた。

 以前も、雷の魔法を浴びたことはあるが、威力はあの時以上。それも持続的。

 ハルは痛みに耐えながらも、魔装具を振るい、雷の呪縛から何とか逃れる。


 しかし、魔法であるにも関わらず、それだけでは消えず、まるで生き物のように再びハルに狙いを定めている。



「ハルさん! 受けちゃだめです! 感電します!」



 アイリスはいくつもの水の玉を展開しながら、直接雷狼に触れないよう牽制している。直接攻撃しか手段がない、ハルとカエデにとっては、手も足も出ない。


 カエデの方をチラリと見てみると、ベルブランカと背中を合わせて二体の雷狼を相手にしていた。



「カエデも、直接攻撃しないようにしてください!」


「そんなこと言ったって、それしか方法が―――うわわ!? 来る来る!!」



 一体の雷狼がカエデに迫るが、ベルブランカがカエデの背中越しに右腕を突き出す。



『撃ち砕け弾岩、ロックブラスト』



 ベルブランカの右腕から岩の弾丸が放たれるが、雷狼は俊敏な動きでこれを回避。

 反対側にいる雷狼と共に、再び襲い掛かる機会を探っている。

 メイリアの魔法に翻弄される四人が相手をしているのは、それだけではない。



「はっはー! 頭上に注意しなぁ!」



 そして上から降り注ぐ、アイアンゴーレムの巨腕。

 流石のアイリスでも雷狼をけん制しながら、アイアンゴーレムの攻撃をしのげる余裕はなく、必死に躱すしかなかった。



(まずい、さっきよりも状況が悪化してる・・・!)



 ハルは何とか雷狼の攻撃を避けながら、上から来るアイアンゴーレムの拳からも逃げ続ける。

 最早ダメージ覚悟で雷狼を攻撃するしかないか。感電し、動けなくなったところをアイアンゴーレムの一撃を受けてしまえば跡形もなくなってしまうが。


 だが、そんな考えも無常に潰えることとなる。



『影に潜み、背から忍び、痺れて固めて足を引け。エレクト・シュランゲ』



 更なる追撃となる、メイリアの詠唱。

 気づいた時には、蛇の形を成した赤い雷が足元に忍び寄っており、ハルの足に絡みついた。



「ぐっ!?」



 足から全身にかけて感電による衝撃。

 雷狼と接触した時よりも痛みはないが、動きを止めるには充分であった。


 そして、それは他の三人も同様に。



「ああっ!?」



 アイリスは集中が途切れて、水の玉を消失させ―――



「うあっ!?」



 カエデは驚きと痛みで前のめりに倒れ―――



「カエデ!? あっ!?」



 ベルブランカは、そんなカエデに気を取られて―――


 雷狼による追い込みと、雷蛇による麻痺。そして、そこにアイアンゴーレムによる強大な上空からの一撃が四人に降り注いだ。



「がっ・・・はっ・・・!?」



 岩をも砕く一撃。

 四人離れた場所にいる為狙いが定まらなかったのか、それとも痛ぶる為か、直撃は免れたもののあまりの衝撃でハル達は吹き飛ばされてしまった。



「あっひゃひゃ! あー愉快爽快、いい気分! やっぱ派手にごみ掃除するとスカッとするねぇ!」



 これまでのストレスを発散するかの如く、メイリアは晴れ晴れとした表情を見せる。これまでの連戦で、既に四人は満身創痍。


 もはや体を動かすのもやっと。中でもハルとカエデの体力、魔力共に限界が近くなっていた。



「くっそ・・・」



 魔装具を地面に突き刺し、杖代わりに立ち上がるハル。

 歯を食いしばり、足を叩き、まだ戦う意思を見せる。



「おーおー、ガッツを見せるね、男の子。その意気に免じて、お前から殺してやろう」


『グオオオオオオオオ!!!』



 メイリアの言葉に応じ、アイアンゴーレムが両腕を挙げる。

 これまで散々鬱陶しかったハルに、ようやく止めを刺せることを歓喜するように。



「やだ・・・ハルにい!」


「ハルさん!」


「くっ!」



 カエデ、アイリス、ベルブランカは、ハルを助けるべく動こうとするが、その意志に反して体が付いてこない。

 そして、再びアイアンゴーレムは巨腕を振り上げる。


 死の間際に瀕しているというのに、恐怖はなく、ただ考えるのはカエデと、未だ行方知れずのリッカのこと。


 このままでいいはずがないのに、体が動かない。

 見上げたアイアンゴーレムの先、一部だけ穴が開いた天井から青い空が見える。

 振り下ろされるアイアンゴーレムの拳と共に。


 ―――空から、揺らめく青い炎と緑の風が見えた。

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