09. Continue:03-1
「……」
「……ん」
果たして、『勇者』はまたも目覚める。
『憩いの火』のそば、寝袋にくるまったままで……そこまではいい。
問題は近隣の風景だ。コチ村北方の『憩いの火』で眠りについた後に『巻き戻し』が発生していないならば、当然目覚めるのは平原のど真ん中だが。
直ぐ側で
「ダメだった、ってことか」
「ここにいるってことは、そうよね」
アクセルが身を起こしながらため息を付くと、同じく起き上がって寝袋を畳みながらエマもこぼした。
結局、二つ目の条件として見ていた「『勇者』『魔王』の双方が魔王城にいなくてはならない」の条件は、『巻き戻し』の回避に関わるものではなかったか、あるいはそれだけでは足りなかったらしい。
珍しくまだ起きてこないジャンヌを起こしていると、ばさりと後方で翼の動く音がした。降りてきたのは子犬サイズの翼の生えた狼。昨日に話が出ていた
「ままならぬものよな」
「ん……」
そう、その姿に似つかわしくない太く低い声がして。アクセルが振り返ると、そこには真顔でただ尻尾を振る
昨日に彼が見せて、こちらに預けてきた個体と同じだ。一度生み出しているが故にか、今朝に労力を要さずに生み出したのだろう。
「『魔王』?」
「左様。吾輩も、先程城の自室で目覚めた」
アクセルが問いかけると、こちらを見上げながら
どうやら目覚めてすぐにアンデオルらと話したらしいシェドザールが、不満を顕にしながらその場の地面に腰を下ろす。
「腹立たしいことよ。アンデオルめ、吾輩が昨日にさんざん説き伏せて、涙を流しながら我輩を見送ったことも綺麗サッパリ忘れておったわ」
「あはは……」
「昨日のことを認識していない、覚えていないとなりますと、ね……」
ぼやく彼に、三人とも苦笑を禁じ得ない。『巻き戻し』が起こった際、アクセル、エマ、ジャンヌ、シェドザールの四名以外は記憶も残らず巻き戻される。昨日に号泣してハンカチで鼻をかみながらシェドザールを見送っていたことを、アンデオルが覚えていないのもやむなしだが、覚えている側としたら歯がゆいことこの上ない。
ともあれ、また今日も何かしら、『巻き戻し』を脱するために動かなくてはならない。『勇者』たちが朝食を作る横で、シェドザールは座ったまま話を続ける。
「さて。『勇者』『魔王』のいずれもが魔王城内にいなかった昨日にも『巻き戻し』は発生した。然るに、やはり第三の条件が存在する、あるいは『城の中にいる』ことは無関係と言わざるを得ない」
「だろうな……まだ何か、こうなる理由があるはずだ」
シェドザールの言葉にアクセルが、鍋に干し肉を放り込みながら頷いた。
『眠ったか死んだかした時に魔王城の中にいる』が無関係でなかったとしても、例えば片方が外にいて生き延びているとか、パターンは考えられる。無関係だったとしたら間違いなく第三の条件がある。どちらにしても、第三の条件が何か、を見つけなくてはならないわけだ。
鍋のスープをかき混ぜて塩と香草で味を調整しながら、ジャンヌがゆっくりと口を開いた。
「そうですわね。その第三の条件を探っていくのが今後、となるわけですが……『魔王』と『勇者』という
その言葉に、他三人の手が止まった。アクセルとエマがオウム返しに問いかける。
「『魔王』と『勇者』の……」
「仕組み、そのもの……?」
『勇者』と『魔王』の仕組み。それだけだとあまりにも抽象的で、ジャンヌの言葉の意図が掴めない。シェドザールも不思議そうに首を傾げていた。
香草を両手でパン、と叩いて香りを立たせながら、ジャンヌが静かに語りだす。
「はい。この『巻き戻し』を認識しているのは我々『勇者』三名と、『魔王』であるシェドザール様のみ。アシア様が関わっていることはもはや疑う余地もありませんが、万一関わっていないにしても私たち四名のみが認識できるということに、間違いなく意味があるはずですわ」
ジャンヌの説明を三人ともが納得しながら聞いていた。
確かにこの四人だけが知っていて、実感している。他の面々は実感も理解もしていない。そうなっていることに理由がないはずはない。
「確かに……そうだ」
「じゃあ例えば、『勇者』が『魔王』を討伐する、ってことが条件として必要だ、みたいな話があるってこと?」
アクセルが頷くと、隣でエマが首を傾げながら口角を下げた。
『勇者』は魔物を倒し、『魔王』を倒し、世界に平和をもたらすことが使命。『魔王』は世界を魔物の力でおびやかし、『勇者』によって倒されるのが定め。それがある意味で
世界神アシアが、その『あり方』を捻じ曲げることはないだろう、それに沿わなくては、アシアの目的は達成できない、はずだ。シェドザールもすんと鼻を鳴らしながら話し出す。
「聖女と同様、吾輩もその思考に至った。故に今回は『魔王』が『勇者』に討伐される、という図式を成立させつつ、そのやり方を変える形で行ってみようと思う」
その言葉に異を唱えるものはいない。勇者の『使命』を果たしつつ、そのやり方を変えるという手法は、条件を探るにあたって合理的だ。そして問題は、どう
朝食の準備ができて、パンを加えたスープを椀に取り分けながら、アクセルが口火を切る。
「例えば、『魔王』が自害するところを介錯する、とかか?」
「左様。あとはそうだな……『
シェドザールも三人の会話の輪に加わって意見を出していく。他にも『勇者』が新たな『魔王』になる、『魔王』が『勇者』の死体をラクール王国まで届ける、など、意見が次々に出てくる。エマがスープに匙を入れながら、深くため息をついた。
「結構いろいろありそうね」
「ええ、いろいろ試してみましょう」
ジャンヌも困ったように笑いつつ、出来立てのスープに息を吹きかける。そこから四人はどこから手を付けるか、しばらく相談を重ねていた。
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