愚かな貴族を飼う国なら滅びて当然

アーエル

第1話


「貴族に生まれた以上、あなたはこの家のために結婚する必要があります。家のために好きでもない、毛嫌いしている相手でさえ嫁ぐ。それが貴族というものです」


目の前の女が至極真面目そうにそう宣ったのは夕食中のことでした。


「お、お前。何も今こんなところで……」

「あなたは黙ってらっしゃい!」


男の止める言葉も効果がないようです。

みっともないですね、

まあ、すでに私には関係ない過去のもの。

私にはその感想しかありません。


「だいたい、あなたはもう少し愛想良くできないのですか。それだから婚約破棄などというみっともないことをされたのですよ」

「よっく言うわ。どの口がほざいているのやら」


私の言葉に食堂が静まりました。

聞こえるのは変わらないペースで食事を続ける私のカトラリーと皿が奏でる音くらいです。

この女に反論するのはこれが初めてだったかしら?

もう貴族ではないのだから淑女らしく振る舞うのは飽き飽きなのです。


「今までの私の婚約者を誑かし、肉体関係を強要して。その結果が私との婚約解消や破棄。そのいくつかは証拠がおありだそうですよ。どうなさいますか、元お母様」


ちらりと目を向けると女の顔が真っ赤になっています。

私がカトラリーを揃えて皿に乗せると、スッと皿が片付けられてデザートと紅茶が目の前に置かれました。

カップを手にして紅茶の香りを楽しみます。


「そうそう、淑女は婚前交渉を許さないことが第一です。にも関わらず、私に婚前交渉を強要して断られた婚約者に『婚約者相手でも婚前交渉を許さないとは淑女の風上にも置けない』と言っていたそうですね。彼らは集団で訴えるそうですよ。先ほども申し上げましたとおり、証拠が複数ございますの。そのため、証拠を持ち合わせていない殿方も含めての集団訴訟だそうですわ」


あらあら、今度は青ざめています。

証拠を残されている可能性があるなんて、どうして気付かなかったのかしら?


良かったわ。

こんな女の血が私の中に流れていなくて。

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