第21話 交渉術を発揮?

 小さな嫌がらせは次の日も続いた。

 腐った卵を投げられるというものだったが、前日にも襲われていた俺は無傷で対処出来た。


 俺達が襲撃になれたと分かると違う方法をとってきた。

 なんと爆弾を体に着けて近寄ってきたのだ。


「私は本気よ! 近づいたらボタンを押すわ!」


「おいおい。どっから持ってきたんだよ!?」


「何処だっていいでしょ!? 早くあの男を渡しなさい!」


「ちょっと待って!」


 流石にこのままではまずい。

 ボタンを押されたらあの爆弾の量は病院が更地になるだろう。

 まず落ち着かせるためにはどうすればいいかを思考する。


「流さん。この人プラスチック爆弾腰いっぱいに巻いてます。先生を連れてきてくれません?」


『無理に決まってるだろう? 何とかしろ。腕の見せどころだぞ?』


「ふーーー。了解です」


 言ってみたものの無理なのはわかっていた。

 依頼人を差し出すようなことはするわけが無い。

 何か策を練らねばならない。


「あのーちょっと時間かかるみたいなんですよ。待っててもらっていいですか?」


「はぁー!? この状態で待てって!?」


 いやいや。

 その状態で来たの自分じゃん。


「すみません。手術中みたいです。他の患者さんの命まで奪うおつもりですか?」


「それは。ダメよ」


 そう呟くと黙って座った。

 爆弾と発火装置は本物であれば重いはずだ。

 座ったことで本物である可能性が増えた。


 俺は立ったままその女性を観察する。

 帽子で隠しているが、目鼻立ちがキリッとしたアジアンビューティ系の顔立ちだ。


 あの医者はこういう顔立ちの人が好みで近づきたいから甘い言葉で近づいたんだろうか。その真意は医者にしか分からない。


「あのぉ。聞いていいですか?」


「なによ?」


 少し聞きづらいが聞いてみようと思い立ち少し躊躇いながらも聞いてみる。


「あの医者のことは好きだったんですか?」


「……そうね。最終的には好きだったわ。だって離婚までしたのよ!? それで一緒になりたいって言ったら無理って言うし、お父さん死んじゃうし! 何もかもダメになったのよ!」


 あんな医者のことを好きになってしまったのは見る目がなかったと言う他がない気がする。

 あの医者とは少し話しただけで色々なことが分かる。


 まず、人を見下している。

 これは話し方でわかる。


 たまに話を聞いた後に鼻で笑って反論を理詰めでしてくる。

 これもかなり腹が立つタイプだということが分かる。


 そして、女をキョロキョロと見ている。

 どれだけ女が好きなのか知らないが、家族がいるにも関わらず女ばかり見ているのだ。あの男は。


 俺から言わせれば信じられない。

 結婚しておきながらほかの女とそういう関係になろうというのがよく分からない。


「そうですか。でも、俺はあの人がそんなにいい人には見えません。なぜ、好きになったのですか?」


 これは賭けだった。

 もしかしたらこの質問で期限を損ねてボタンを押されるかもしれない。

 その恐怖にビクビクしながらもみーさんに教わった交渉術を活かす。


「はぁぁ。私を目の前にしてよくそんなこと言えるわね!?」


 目を釣りあげて怒鳴られる。

 負けじと目を見て、目で訴える。


「はぁぁ。私は、最初はお金のためでした。でも、だんだんとあの医者のことを気になり出しました」


「なるほど。時間が狂わせたんですね」


 俺はあの医者が心底嫌いになった。

 長い時間関係を持ったことで感覚を狂わせた。許されることではない。

 また俺の中で依頼人の評価が下がった。


 だからといってこの病院を巻き込んで全てが死ねばいいとは思わない。

 俺もあんな奴のせいで死ぬのはゴメンだ。


「それで、気づけば離婚してあの医者と一緒になろうとしたの。そしたら、父が死んだ」


「なるほど。医療ミスなんですか?」


 すこし考えた後にその女性は手を上げた。


「違うと思うわ。私はただ自分がされた事への仕返しがしたかったのかもしれない」


「そりゃ、したくなりますよね? あんな奴」


「ふふふっ。自分が守る人の事をそんな風に言っていいの?」


 そう言って笑う女性がとても儚く、散りゆく花のようだった。

 俺はこの女性を助けたい。

 そう思ってしまった。


「そうですねぇ。良くないんでしょうね。あの、こういうの、もう終わりにしませんか?」


 伏し目がちに少し沈黙する。

 終わりにするかどうか考えているみたいだ。


「そうね。なんか話したらスッキリしちゃったし、終わりにしよっか」


「じゃあ、大人しく捕まってもらっていいですか?」


「仕方ないわね? ふふっ」


 その女性はそれから爆弾のスイッチを渡して腰に着けていた爆弾を置いた。

 そして、駆けつけた警察官に連れていかれた。

 最後は俺に「バイバイ」と言って笑いかけて車に乗りこんだ。


 その笑いは諦めの笑いだったのだろうか。


「流さん。これで良かったんですかね?」


 隣に佇んでいた流さんに問う。


「さぁな。そんな事までいちいち考えていられねぇんだよ。俺達は」


 そう言うと振り返り病院へと向かう。


「依頼人を送るまでが仕事だ」


「はい!」


 送っていく道中は何も問題はなく。

 静かなものだった。

 

 一段落したとの事でその日のうちにお払い箱になり、次の日は休みになったのだった。

 だが、まだ終わりではなかった。

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