第18話 嫌がらせ
修羅場以降はまったりとした休日を恵美さんと過ごした。
楽しかったのは言うまでもない。
修羅場は思い出したくない。
そして、また護衛を頼む気なんだとか。
俺と居れるのが嬉しいらしい。
でも、それだと俺が休憩できないんじゃなかろうか。
それが気になるが。
「今日から一週間は流班な」
「はい!」
護さんに指示され、今日から流班で動くことに。
流班は実はかなり危険なことをする班になっている。
武闘派が多いかららしい。
ここから一週間が大変そうだ。
少し楽しみでもある。
「明日から金曜日まで医者の護衛だ。適切な処置を行ったが、患者さんが死亡してしまい、逆恨みらしい。あまりに逆恨みが暴走していた場合は制圧もやむを得ない」
「了解です!」
護さんの説明にハキハキと返事をする流さん。
この人は若くしてチームリーダーになったようだし。
何かをもっているのだろう。
「亮。流から学ぶこともあるだろう。しっかりと自分のものにするようにな」
「はい!」
「まぁ、揉んでやります」
偉そうに言う流さん。
そういうの言わなくて良くない?
後藤さんは絶対に言わない。
「宜しくお願いします」
流さんチームの皆に挨拶する。
雅人さんはコクリと頷き。
仁さんはサムズアップしてくれた。
何気にいい人そう。
よかった。
雅人さんは謎だけど……。
◇◆◇
「仁さんが先生についてください」
「うむ」
仁さんは頷いてサムズアップする。
この人結構こういうノリするんだな。
ちょっと意外。
「雅人さんは無線で状況判断をお願いします」
「わかった」
雅人さんは車で待機して状況を教えるらしい。
完全に頭脳派の役割である。
「俺はコイツと周りの警戒に当たります」
「わかった」
流さんと俺は周りで警戒する。
一番厄介な役回り。
新手の嫌がらせだろうか。
打ち合わせが終わると車で移動だ。
車は雅人さんが車に残る人なので、運転してくれる。
車に揺られながら、動きを確認する。
「流さん、仁さんが依頼人について歩いて、行く先と後ろを俺と流さんで警戒するという感じでいいんですか?」
「あぁ。それでいい。俺は依頼人の行き先を先に動いて警戒する。亮は後ろを警戒しながらついてきてくれ」
「了解」
もうすぐ依頼人の自宅だ。
住宅の前面道路に車を横付けしておりる。
こうすることで依頼人と他人の間に壁を作るのが流さんのセオリーなんだとか。
たしかに理にかなっているとは思う。
車の窓ガラスも防弾らしいし、ボディも通常よりは頑丈な素材で作られているんだとか。
「おはようございます」
「あぁ。おはよう。頼むね」
流さんの挨拶に対して、わりと上からの物言いである。
でも、流石に顔には出さないが内心苛立っていることだろう。
こうした偉い人の護衛というのはそういうものなんだろう。
「はい。車はウチの車を出します。同乗してください」
「ん? 俺の車じゃダメなの?」
「ご自分の命がどうなってもいいのであれば……」
これは流石に許容できなかったのだろう。
流さんが依頼人の目をジッと見て威圧している。
ため息を吐くと「わかったよ」と言って車に乗り込んだ。
車が発進する。
しばらくの沈黙が続く。
我慢できなかったのは依頼人だ。
「ねぇ、こういう時って女性が付いて来たりしないの?」
「今回は危険が大きいので腕が立つ私の班が配備されました。そして、この班には女性はいません」
「ちっ! 暗いんだよなぁ。雰囲気が」
それはそうだろう。
なんでこんな危険な護衛しながら楽しそうにしなきゃいけないんだ。
なんという能天気。
「すみません。場を和ませるのは我々の仕事ではありませんので」
言う事ははっきり言う。
これが流さんのスタイルなんだろう。
後藤さんがこんな言い方をすることは無いだろう。
その言葉を聞いてため息を吐きながら静かに黙る。
病院までは二十分程だ。
なんと気まずいことだろう。
俺も余計な話はしない方がいいだろうと思い、黙っていた。
「あぁー。時間が長かったなぁ。ゆっくり走ってたわけじゃないよね?」
「はい。法定速度です。じゃあ、仁さんついてください」
「おう」
細マッチョの仁さんが依頼人の少し前につく。
それより更に先を流さんが歩いている。
俺は後ろを警戒しながら歩いていく。
思ったより大きい病院で行きかう人も多い。
死亡してしまった患者さんについての情報は何もなかった。
顔写真か何かあれば警戒のしようがあるんだが。
キョロキョロと警戒しながら付いて行く。
その方が護衛している感が出るだろう。
手を出しにくくなるのではないか。
一人の女性が買い物袋に何かを下げてこちらに向かってくる。
ん?
なんだあの人?
少しずつスピードを上げてくる。
しまいには走り出した。
「不審な女性が接近中。警戒してください」
『了解。簡単に通すなよ』
「了解」
通ろうとした女性の前に立つ。
通せんぼするように両手を広げて。
「どいて!」
「何処に行かれるんですか? こっちは関係者以外立ち入り禁止ですよ?」
「関係者です!」
「身分証見せてください」
「うるっさい!」
俺を押し退けようとするが。
体格差が違う。
それはかなわず、よろける。
黙っていると袋から何かを取り出した。
投げる素振りをする。
咄嗟に手でたたき落とす。
異様な匂いが立ちこめる。
「くさい……腐った卵か?」
次々投げてくるのを何とかたたき落とす。
数個は割れて袖についてしまった。
中身が無くなると走って逃げていった。
「ちょっと! 待て!」
話をしようとするが聞く素振りも見せずに走り去って行った。
『なんだった?』
「腐った卵投げられました。被弾して非常に臭いです」
『精進が足りんな』
これ、精進の問題なのか?
どうやって対処すりゃいいんだよ!
地団駄をふむ俺。
けど、これで終わりじゃなかった。
むしろ始まったばかりだったのだ。
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