第8話 待ち合わせ

「ここが亮のロッカーだ」


「はい!」


 ロッカーを開ける。

 中には特殊警棒と防刃ベスト、無線機、フラッシュライトが入っていた。


「現実を突きつけるようだが、民間の警備会社では武器は携帯できない。その警棒も護身用だ。武器としては使うな? 過剰防衛で捕まる」


「はい。それは、実はみーさんから色々聞いてました。ほぼ素手で戦うんですよね?」


「あぁ。その場にあるものを色々使うんだがな。ただ、ナイフを受けることは警棒でできる。それだけでもマシだ」


「そうですね」


 民間の警備会社は危険にさらされても人を守る、という志の元、日夜人を守っているんだ。

 そんな世界に俺は足を踏み入れた。


 俺は日の目を見るような生き方はして来なかった。

 喧嘩ばかりの日々で警察に補導されてばかりだ。


 そんな俺が人を守る仕事につくなんて誰が考えただろうか。

 俺でさえ考えつかなかった。


 キッチリと装備を付けてその上からスーツを着る。

 基本はこのスタイルだ。


 あれ?

 彼氏役として行くということは……。


「護さん、今回の依頼内容だと俺私服の方がいいのでは?」


 ハッとしたように頭を叩いた。


「そうだった。真面目な人と付き合ったっていうテイにしたいって言ってたな」


 そういう事なら都合がいいな。


「それならいいかもしれません。サラリーマンとお付き合いした事にしましょうよ」


「あぁ。だな……でもよぉ。長髪をハーフアップにしたサラリーマンなんて居るのか?」


 今の自分の髪型を思い出した。

 けど、切る金は勿体無い。


「いると思いますよ? 最近、そこまでうるさくないですからね」


「ならいいか」


 そういえば、疑問があったんだった。


「護さん、質問いいですか?」


「あぁ。なんだ?」


「今回、結構物騒な依頼じゃないですか?」


 俺は本質がわかったからあえて聞いた。

 これは、本人達だけでは終わらないだろう。

 きっと、どっかのチームと揉める。


「んー。そうかもな」


「危険手当とか、出るんですか?」


 そう問い掛けると怪訝な顔をした。

 目を細めていかにも聞いて欲しくなかった。

 という顔をしている。


「痛いところをつくねぇ。ホントに予感が的中していた場合。手当上乗せ」


「わかりました。ちなみに、どこまでやっていいんです?」


 ゴロツキ相手の大人数なら得意だが。

 どこまでやっていいのか分からないと。

 手加減しなきゃならないからな。


 本気でやったら。

 何人かお陀仏するだろう。


「あぁ、それな。とりあえず動けなくして、後は警察にお願いするから。ただ魔法使われたら容赦しなくていい」


「わかりました。あくまでも、無力化という事ですね」


「理解が早くて助かる」


「いえ」


◇◆◇


「亮くんは運転は?」


 聞いてきたのはよしさんだ。


「出来ます」


「じゃあ、これ運転して」


 ジャラッとキーを投げられる。

 受け取ると指定された車はワゴンタイプの車。

 辺りを警戒するのに、後ろが広くでフルスモークの車を使うみたいだ。


 車に乗り込む。

 隣は咲月さん。


 蓮さんが険しい目でバックミラー越しに睨んでくる。

 こんな時に睨まないで欲しい。

 その隣にはよしさん。


「行きます」


 車を発進させて道路に出る。

 目的の廃工場の近くに路駐するらしい。


 それは、危険では?

 と思ったが、逆にお前達はどうやって来た? という疑問が生まれるため。

 車は近くに置いておいた方がいい。という事になった。


 その為、車の中からの監視になる。

 見通しがいいところにワザと止める。

 スモークが濃いため外からは見えないだろう。


 現場には俺が行く。

 近くで依頼人が待っていた。

 小声で挨拶する。


「警備会社、イージスの舘です。よろしくお願いします」


「あっ、お願いします。お若いですね。内容聞いて来ました? 大丈夫ですか?」


 何を心配されているのかが俺には分からなかった。


「はい。キチンと依頼内容、確認してきました。何か、不手際がございましたでしょうか?」


 何か不味かったのか?

 そもそも人選ミス?


「いえ。ただ、これから危険な目に合いそうなのに……こんなに若くて……申し訳ないって言うか……」


 すごく泣きそうな顔をしている。

 俺のことを心配してくれていたのか。

 なんていい人なんだ。


「あの……なんとお呼びすれば?」


「亜希と、呼び捨てで呼んでください」


「彼がいる時にはそう呼びますね。亜希さん、心配いりません。私、結構腕に自信ありまして。ゴロツキ一チームくらい。ワケありません」


 目を見開いて驚いている。

 そりゃそうか。

 そっちも初依頼なんだもんな。


 強さには不安があるか。

 俺はもとより。

 このイージスの人達はゴロツキ如き敵にはならない。


「さっ、行きましょう」


「はい……お願いします」


 廃工場に入って待つことにした。

 あっちが来る前に身構えていた方が対処しやすい。


 暫くするとマフラーを改造している車の音が近づいてきて止まった。

 おそらく、彼氏のものだろう。


「おう! 亜希! 話ってなんだ? そいつ誰?」


「ごめんね、たっくん。話があるって言って呼び出して……」


「おう。で? 話って何? まさか、別れようってんじゃねぇよなぁ? どうなるか分かってんの?」


「たっくん! 私この人と付き合いたいの! 別れて!」


「はぁ。嫌な予感がしたらマジか。許さねぇ。そのリーマンとお前。ぶち殺す」


 スマホでなにか操作をしている。

 すると、無線から連絡が入った。


『ブッ……周辺から車両が続々と集まってきて囲まれている。最悪僕達が応援に出る』


「ふぅ。思った通りだったか……」


「あぁ? 何言ってんだテメェ?」


 ここから初依頼の山場を迎える。

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