vs06 学院食堂

 ここの学食は、〝学院食堂〟という名の高級レストランだ。

好きに取るビュッフェ形式と、決まったメニューを頼む形式とで別れている。


マリミエドは、ビュッフェ形式の方に入り、一礼してから中に入ってトレイを手にする。


思い出した人々は、ほぼこちらの方で食事をしているからだ。


決まった量の物を注文して頼むよりも、好きな物を好きなだけ食べる方が、男性はいいらしい。

皆、一様に肉だらけのお皿を持っている。

〈…うちのお兄様も、確か肉だけをお皿に盛っていたわね…〉

飛び級で同じ学年となっていたが…今は居ないようだ。

〈…何にしようかしら…〉

お腹がペコペコでどれにするかを迷う。

出来れば野菜と鶏肉が好ましい…と思っていると、誰かとぶつかった。

「あ、失礼を…」

「レディ、失礼しました」

そう言い軽く頭を下げてから顔を見て、マリミエドは驚く。

〈次期魔道師の…〉

「ユークレース・アーダルベルトさま…」

相手のユークレースはにこりとして言う。

「はい? ああ、これはメイナード令嬢。令嬢のような方がこちらに来るなんて珍しいですね」

「え…?」

「女性は、食事の間も食後も、御学友と共にお喋りに花を咲かせる物なのでは?」

ユークレースは〝女はいつでもお喋りだ〟という皮肉を込めてそう言った。

「わたくしは、お友達がおりませんから」

皮肉に気付かずそう返して、マリミエドはお皿を手にしてサラダと鶏肉のパテを乗せる。

すると、ユークレースは隣に立って仔牛のステーキを自分の皿に乗せるついでに、マリミエドの皿にも乗せる。

「そういえば、貴女は今日から同学年でしたね。これ、旨いですよ」

「あ…いえ、食べきれないわ」

そう言うと、デザートのケーキや紅茶も乗せられた。

「ほらあちらへ」

「え、あ、あのっ」

「エスコートしてるんですよ。あ、パンもあるので安心して」

笑いながら言い、ユークレースはマリミエドと共に窓際の席に行く。


食べながら、ユークレースが話す。

「一度、貴女と話してみたかったんですよね。優秀な王太子妃殿下」

「お、王太子妃ではありません。まだ婚約者ですわ」

そう言い、マリミエドは食べ始める。

「貴女は癒やしも得意だと聞くが…聖女ではないのか?」

ユークレースもステーキを食べながら聞く。

「違いますわ。ただ、癒せるだけで浄化は出来ないもの」

マリミエドは答えながら食べる。

回復や癒やしは確かに出来るのだが、魔素などの浄化が出来ないのだ。

それが出来ていたら〝聖女〟として堂々と国の為に尽くして、断罪される事も無かっただろう。

〈…きっと、お父様とお母様も失望されたに違いないわ…〉

そう思っても、こればかりはどうにもならない。

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