vs03 差し入れの効果
サンリエド高等学校に着いてまず、マリミエドは学校内の礼拝堂に向かう。
そこに、皇后陛下の〝天使の涙〟があるからだ。
〝天使の涙〟は
「サンリエド高等学校から、聖女が誕生する」
という女神の啓示を受けた皇后陛下が、その聖女に捧げる為に置かせた物だ。
神々の銅像が左右にあり、奥に女神ヘイティアの銅像がある。
その手に、天使の涙が置かれている。
正しくは、ネックレスを掲げているのだ。
〈…ああ、いつ見ても美しく、神々しいわ…〉
ほう、とため息をつきながら見上げて、マリミエドはハッとする。
〈これじゃ駄目よ! また首を刎ねられたいの、マリミエド! しっかりなさい‼〉
そう自分を叱咤して、キッと近くにいる近衛兵を見る。
〈…変だわ…〉
マリミエドはキョロっと礼拝堂を見回す。
ここには近衛兵が10人、必ず交代で昼夜警備している。
あの〝天使の涙〟を盗むのは不可能だ。
内部の手引きでも無い限りは!
〈まさか…これも、マリアさんが…⁈〉
マリアはいつも近衛兵にまで差し入れを渡していた。
作った菓子やパンなど…。
そんなに大量に一人で毎日作れるのだろうか?
〈誰か、協力者がいるのね〉
一度、情報を整理しなくては…。
マリミエドは祈りながら考える。
マリアは、去年の冬に転入してきた。
この国には、毎年平民の中から5人だけ神殿の選んだ者を、この貴族だけが通えるサンリエド高等学校に通わせている。
国民達の支持を保つ為でもあるが、たまに神聖力の高い平民の者がいるので、その者を聖者として神殿に仕えさせる為だ。
そして、誰が聖女となるかわからないから人員を増やした…とも言われている。
〈聖女は、国に繁栄と栄光をもたらす存在…〉
聖女が国を浄化して、繁栄する…と、言い伝えがある。
マリアは平凡な村娘だと聞いたが……。
ここでいきなり自分が持ち去るは無理がある。
〈…様子を、みましよう〉
あの〝天使の涙〟を天使のマリアがどうやって手に入れるのかを、まずはじっくりと観察して…その場で取り押さえた方が良くはないだろうか?
礼拝堂を出て、すぐに隠れて中の様子をうかがった。
すると、バスケットを手にしたマリアが笑顔でやってくる。
「皆さん、いつもお疲れ様です~! これ、差し入れです!」
笑顔と共にクッキーの入った袋を渡していくマリアは、確かに天使のように見える。
「いつもありがとな」
「いいえ~当然の事をしているだけです! 皆さんが、あの天使の涙を守ってくださっているんだもの」
「はは!…そうだ! 近くで見てみるかい?」
「え⁈ いいんですか⁉」
マリアが笑顔で言うと、近衛兵達はうなずく。
〈な、なにを…⁉〉
マリミエドが困惑している間に、近衛兵はネックレスを手にしてマリアに渡した。
〈なっーーー‼〉
マリミエドは思わずカッと目を見開いて、ザッとマリアの前に出た。
「貴女! 自分が聖女にでもなったつもりなの⁈ それをお離しなさい‼」
「きゃ…」
バッとマリアから〝天使の涙〟を奪い取ると、マリミエドはキッと近衛兵達を睨み付けた。
「この高貴なる宝石がどんな物かも分からないの⁈ それでも近衛兵⁈」
「お、俺達は…も、申し訳ありません!」
近衛兵達は全員跪いて許しを請う。
マリアだけが、一瞬顔を歪めた後に手を口に添えて涙ぐんだ。
「ご、ごめんなさい…私、あまりに綺麗だったから…ただ見たくて!」
「見るだけなら遠くからになさい‼ 皇后陛下の下賜された物をむやみやたらと触って良いとお思いなの⁈」
そう言い、マリミエドは自分の持っていたハンカチで〝天使の涙〟をくるみながら拭く。
「…ここの近衛兵では信用ならないわ。天使の涙は、わたくしが学院長…いえ、皇后陛下のもとに持っていきます!」
少し考えてから言う。
そういえば、マリアが学院長にも差し入れをしていたのを思い出したからだ。
「それでは失礼」
マリミエドは一礼して優雅にその場を後にした。
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