第4話 たとえそれでも……

 二十年以上世界をまたにかけた放浪をしてたって、金はどうしてたのか? 嘘じゃないのか。それともよっぽどの金持ちのボンボンか。


 うーん、まぁ、たとえばバブルの頃なんかはですね、派遣とか期間工とかで自動車工場で働けば、「寮も飯もちゃんとしたものが無料」なので他に金を使う必要がない、という”当たり”であることが肝心ですが、三か月も働けば100万円ポッケに残っている、という状況が普通に作り出せたのですよ。人間扱いされないことに精神も肉体的にも耐えられるなら、ね。


 で、たとえばぼくが上海から崑崙山脈も越えヒマラヤ山脈も越えアンナプルナトレッキングも踏破し、ネパールとインドの国境で厳寒の深夜にほぼ肥溜めに等しい排水路に転落した影響でガンジス川の沐浴で有名なバラナシ(3x3EYESではベナレス)で体調を崩し、二か月も無駄にぼーっと過ごしていた1994~1995年頃というのはですね、バブル崩壊後でしかもそれに追い打ちをかけて日本をつぶさんという目論見もあったのでしょうが、1ドル91円とか、そのくらい、一割くらいも米ドルより日本円の方が高かったのです。


(バブルもバブル崩壊も円高も円安も戦争も平和もみんなアメリカの都合で踊らされてるんだろうなぁ……、というのはまた別のお話)


 で、当時の中国は都会の工場勤務8時間労働の対価が150円て国でしょ?

インドはバラナシでお湯のシャワーが出る宿(←ゼイタク)の個室を借りて、復調後は好きなだけ酒飲んで飯食って、(ほかの日本人たちみたいにマリファナやハシシには全然興味なかったから)別に何の我慢も節約もせずに一か月の出費が1万円あれば足りました。


 一か所に引きこもり、旅行も冒険も何にもしないタイプの人だったら、100万円なんて何年経っても無くならないです。

 そうやってタイやらベトナムやらインドやら各国で、日本社会への復帰絶望、みたいな生活を送ることを「沈没」と呼びます。沈没している日本人、いっぱいいますよー。特殊詐欺のかけ子予備軍なんざきっと何万人といます。


 観光旅行をする人ではなく、旅が生活の「放浪者」になってしまうと、まぁ英語ではワンダラーとかドリフターとかプラネテスとかバガボンドとか、かっこいいアニメのタイトルみたいでいいですが、現実の日本社会ではクズ中のクズとして扱われます。生活費のために働けば、あなたが三十になっても四十になっても、小学生が書ける漢字も書けない正社員様や大学生にもゴミのように扱われます。もしもあなたが優秀なら優秀なほどとことんやられるでしょう。イジメは不条理なら不条理なほど効果があると、イジメる奴らはよーっくわかっているものです。


 ほとんどの人には釈迦に説法かと思いますが、線路から飛び降りて自由落下を始めちゃったら、そういう人は「沈没」まっしぐらになるかもしれません。さらにはるか遠くの、誰も見たことがない宇宙を目指すためには、人生をかけたスイングバイに挑むのが男の(女も)ロマンですが、ビートたけしが昔言っていたように、たとえ売れなくて誰にも知られず浅草の場末で飲んだくれて一生を終えても悔いはない、くらいの覚悟も、心のどこかで持っていた方がいいかもしれません。

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