転生底辺配信者、娯楽の少ない殺伐世界で神配信者となる ~俺は虐げられていた亜人族の姫と孤児たちを笑顔にしたいだけなんだが、世界中から寄付が止まりません~

なっくる@【愛娘配信】書籍化

第1話 異世界転移と謎スキル

 グルルルル!!


 鋭い牙を持ったトラのような獣が、俺に向けて唸り声を上げている。


「う、ウソだろ!?」


 堂我 拓馬(ドウガ タクマ)29歳、異世界転移後わずか5秒で大ピンチに陥っていた。



 ***  ***


 ……さかのぼる事、数分前


『タクマっち、アナタは異世界サツバーツに転生することになったにゃん!』


 気が付いたら、目の前に金色のもふもふが浮かんでいた。

 くりくりとした目の、かわいい子猫。


「すげぇ!! しゃべる猫!?」


 何を隠そう、可愛いものが大好きな俺である。

 これが夢なら醒めないでほしい。


『反応するのそこなの……? ウチは猫じゃなく転生神にゃ!』


 空中に浮かんだまま、ぶんぶんと前足を振って憤慨する子猫。


『タクマっちはふこーにも命を落としてしまったので、困っている世界を救うヒーロー(仮)No762812として転生する事になったからよろぴく♪』


「転、生……?」


 これはアレか?

 最近アニメでよく聞く”異世界転生”ってヤツか?


 10年近く動画作成者兼配信者として活動してきた俺。

 所属していたプロダクションも数年前に倒産してしまい、三十路を目の前にして頭を抱えていた。

 ちなみに貯金はほとんどない。


 バイトの給料日、せめて少し贅沢しようとスーパーに寄り、川沿いの道を歩いていたら突然背中に衝撃を感じて……。


『タクマっち、後腐れなさそーだったので目を付けさせてもらったにゃ! さいきん上位神(ボス)からのノルマがキツイから我慢してにゃん!

 ……おっと、この話は聞かなかったことにしてくれにゃ!』


「……えぇ」


 聞きたくなかった事情である。

 困惑する俺にかまわず、ウキウキと言葉を続ける子猫もとい神。


『お詫び、と言ってはにゃんだけど赤ちゃん転生じゃなく大人状態のスタートで、更にいいスキルを付けてやるにゃ!

 という事で、恒例のステータスチェ~ック!』


 ヴィンッ


 ======

 堂我 拓馬(ドウガ タクマ)

 年齢:29歳 性別:男


 HP  :50/50

 MP  :5/5

 攻撃力 :3

 防御力 :20

 魔力  :0

 ======


 俺の”ステータス”が表示された瞬間、空中で転生神(猫)がずっこけた。


『……は?

 マジで? クッソ弱えーにゃん!

 その無駄にデカい図体と筋肉は飾りかにゃん!?』


 絶対零度な神の声。


「ほ、ほっといてくれ!!」


 俺は可愛いものとお花を愛する好青年(自称)なのだが、なぜだか筋肉がつきやすい体質で身体も大きくなってしまった(190㎝、95㎏)のだ。

 というか、その愛らしい姿で罵声を飛ばさないでほしい。

 泣くぞ?


『な、なんとかしにゃーとウチの今月のノルマが……そうだ! こないだ授与術ミスって余剰になってる”スキルブック”があったにゃん!

 ちょーぼ上は存在しないはずだからここで使っちまってもいいにゃん、少々誤作動するかもしれにゃいがそれはそれでデータが取れるにゃん……くくくくっ』


 何かやべーことを言い出す神(猫)。

 このままでは実験台にされてしまうのでは?

 なんとか逃げようともがくが、身体は自由にならない。


『タクマっちの固有(ユニーク)スキルは……ん、”ヘンシュウ・ハイシン”?

 イミフなスキル群だにゃ……ま、いっか!』


 ぱあああああっ


『経験を積んでいけば”スキルツリー”がどんどん解放されるにゃん!

 じゃ、がんばってにゃ~!』


「ちょ、待ってくれ!?」


 もっと説明を!

 抗議の声を上げる間もなく俺の意識は光に飲まれた。



 ***  ***


「いやいや、こんなのどうすればいいんだよ!」


 俺の格好はジーンズにジャケット、転生前と同じだ。

 武器もない、防具もない。

 スーパーで買った食材が入ったリュックを背負い、自称転生神から渡されたノートを右手に持ってるだけだ。


 グオオオオンッ!!


 雄たけびを上げるトラもどき。

 目は真っ赤に充血し、牙から悪臭のする唾液がしたたり落ちている。

 ……凄く可愛くない。


「くそっ!!」


 動画のフレームずれを見逃さない、動体視力には自信がある。

 なんとかコイツの攻撃をかわして……!


 ぴらり


 その時、そよ風でノートがめくれ、1ページ目に書かれたスキル名が目に入った。


『再生速度低下(ディレイ)』


「え、これって?」


 ガアアアアアアッ!!


「!!」


 次の瞬間、トラもどきが飛び掛かって来た。



 ***  ***


「あれは!!」


 なんとかモンスターを狩って孤児院の維持費を稼がないと。

 このままではあと数か月で潰れてしまう。

 使命感を胸に、人間と魔物たちの生存領域を区切る城壁の外に出た少女。


 探索を始めてすぐ、驚くべき光景を目撃する。


 明らかにこの世界の住人と異なる服装をした青年が、Bランクモンスターであるブルータイガーに襲われていた。

 サツバーツと呼ばれるこの世界では、転生者が現れるのはそれほど珍しいことではない。


「み、見間違いでしょうか?」


 思わずごしごしと両目をこする。

 少女が驚いたのは転生者そのものの出現ではなく、青年が使ったスキルで……。


「転移? いや、そんなわけ……」


 モンスターの中でもトップクラスの俊敏性を持つブルータイガー。

 あえて片腕に噛みつかせ、カウンターで仕留めるのが基本だ。


 それなのに、青年は目にもとまらぬスピードでブルータイガーの攻撃をかわし、拳の一撃でブッ飛ばしたのだ。

 一瞬転移魔法かと思ったが、転移魔法は短い距離では使えない。


「っと、見てる場合ではありません!」


 転生者なら、保護しなければ。

 少女は背中に背負った大剣を抜くと、青年の元へ走った。



 ***  ***


「ま、マジか!?」


 自分のしでかしたことが信じられない。

 今起きたことを整理するとこうだ。


『再生速度低下(ディレイ)!!』


 スキルを発動させると、トラもどきの動きが一気に遅くなった。

 空中には、動画の再生ボタンっぽいアイコンが浮かんでいて、どうやら相手の行動スピードを操作できるらしい。


(こ、これはチャンス!?)


 ぴこぴこぴこ


 アイコンを連打し、速度を『×0.1』まで落とす事でトラもどきの攻撃を余裕を持ってかわすことができた。

 目の前にあるのはがら空きの背中。


「と、とうっ!」


 我ながら感心するへろへろパンチ。

 せめて牽制になればと思ったのだが。


 ドゴッ!!


「……へ?」


 俺のパンチが命中した途端、トラもどきは吹っ飛び草むらに突っ込んだ。

 動かないところを見ると気絶しているらしい。


「な、なんで?」


 何せゲーセンのパンチングマシーンで小学生並みのスコアを叩き出した俺である。

 もしかして、転生神が何かしてくれたのだろうか?


 マジマジと自分の拳を観察していると……。


 どおおおんっ!!


 地面が突然盛り上がり、巨大なトカゲが姿を現す。

 そいつは気絶したトラもどきをひとくちで飲み込んでしまう。


「は!?」


 俺でも知っている凶悪なシルエット……ドラゴンだ!!

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