体術の秘密 決着①

 さて、どうしようかな。


 数人の女子に周りを囲まれて歩きながら、私は方法を考えていた。

 手っ取り早いのは力技で押し通して、私には敵わないと思わせること。

 でもそれは立場が対等だったりこっちに有利な状態である事が条件だ。


 それに暴力は出来れば最後の手段にしておきたい。

 何だかんだ言っても私は基本平和主義者だから。


 それに多分、私の予想が正しければ相手は社会的地位が上の可能性が高い。

 この場合はその地位をおびやかすのが一番。


 私はポケットに忍ばせておいたボイスレコーダーのスイッチを周りの女子に気付かれない様にオンにした。



 連れて行かれたのは東校舎と北校舎の間にある倉庫。

 主に体育会系の道具をしまっている場所みたい。


「……来たわね」


 お目当ての主犯格である人物はもう来ていたみたいだ。

 見覚えのある女子生徒が、取り巻きっぽい人達に囲まれて私が来るのを待っていた。


 あーこの人かぁ……。


 名前は知らない。

 ただ、いつも食堂の二階席で別のテーブルから睨んできているうちの一人なのは確か。

 倉庫の奥まで連れて来られた私は彼女がどう出るのかを黙って見てみることにした。


宮根みやね先輩、連れてきました」


 私を連れてきたうちの一人がそう言って、周りを囲んでいた女子とともに離れていく。

 「ありがとう」とその子たちに言った三年生と思われる彼女は、いつものように私を睨みつけて言葉を放った。


「あなた、何で呼び出されたか分かっているかしら?」

「……いいえ?」


 本心からそう答えた。

 だって、基本的には私が学校で人気のある男子たちと仲良くしてることが不満だってことだと思う。

 でも、この宮根先輩が誰を一番に思ってこういう行動をしたのかは分からない。

 だからNOという返事をしたのだけれど、私の言葉は彼女の感情を逆なでするには丁度良いものだったみたい。

 宮根先輩はまなじりを釣り上げて叫ぶ。


「あなた【月帝】の幹部にすり寄り過ぎなんじゃない!? しかも【星劉】や生徒会長にまで色目を使って!」

「いや、色目なんて使ってないんですけど……」


 一応反論するけど、彼女は聞く耳持たない。

 というか、聞いていない。


「それに、今日なんて――!」


 震えながら、驚愕の表情を作る宮根先輩。


「や、八神くんに……だっ抱きしめられて!」

「抱きしめられて?」


 一瞬何のことか分からなかった。

 でも今日のことを思い出して理解する。


 ああ、久保くんに私をセフレにするなって言ったときのやつか。

 ……いや、でもあれは抱きしめるって言うようなものじゃなかったんだけど。


「八神くんにどうやって取り入ったか知らないけれど、あなたみたいな地味な子は彼に似合わないのよ!」


 まあとりあえず、宮根先輩は八神さん推しってことか。

 これで理由は分かった。

 あとは、この人の悪事を暴かないとね。


「……っだから、あんなことしたんですか?」


 調子に乗せるために少し震えてるような演技をする。

 怖がっている、と思わせる。


「ふん、そうよ。あなたのシューズロッカーや机に嫌がらせして身の程をわきまえさせてやってと指示したの」

「他のことは……?」

「他? 特に指示はしてないけど、あなたが嫌がりそうなことをやってとは言ったわね」


 こっちの思惑通りに調子に乗ってくれた宮根先輩は、会話を誘導させられている事にも気付かずしゃべってくれる。


 でも階段から突き落とそうとしたこととかは出てこないか。

 やっぱりあれは昨日の派手女子関係の方かなぁ?

 でも嫌がらせ系は大体が宮根先輩の指示で合ってたみたいだね。


 証拠としては……ちょっと弱いけど十分か。


 あとは変にこじれる前にこの場から去りたいところだけど……。

 と、離脱方法を考えていると。


「あら? こっちはもうはじめてたのね」


 倉庫の入り口の方からまた別の声がした。

 見ると昨日の派手女子が結構な人数を連れて中に入ってきたところだ。

 割合は男子の方が多い。


 あー……嫌な予感。

 男連中はニヤニヤ嫌な笑いをしているから尚更。

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