体術の秘密⑩
「美来、大丈夫なのか?」
「何かされてんじゃねぇの?」
食堂までの道中、勇人くんと明人くんが私の横を歩きながら心配してくれる。
それに少し癒されながら「大丈夫だよ」と答えた。
何だか面倒になってきたし気力が削られてきてはいるけれど、あと少しの辛抱だから逆に余計なことはしないで欲しい。
心配してくれるのは嬉しいんだけどね。
「そうか? 何かされたら言えよ? そいつらぶちのめしてやるから」
大丈夫と言ったのにまだ心配そうに勇人くんがそう言うと、明人くんは不機嫌そうに前方を見た。
「何かされたってのは、こいつのことも入ってるからな?」
その前方にいるのは久保くんだ。
いつものように私の腕を掴んで引っ張っている。
昨日は逃げたら後でひどい目に遭った。
それくらいなら最初からここで腕掴まれていた方がマシだと判断したんだ。
「……」
何かされた……か。
圧し掛かられたけど……それは言わない方がいいかな。
結局何もなかったんだし、騒ぎになっても面倒だし。
そう思ったのに、明人くんの視線に気付いた久保くんは顔だけをこっちに向けて意地の悪い笑みを浮かべた。
「は? 何? じゃあお前俺のことぶちのめすってか?」
『は?』
久保くんの言葉に私達三人は声をそろえた。
ちょっと待って、その言い方だと……。
「何だそれ? すでに何かしたって言ってんの?」
勇人くんが低い声を出す。
「美来に何しやがったんだてめぇ?」
そして明人くんが乱暴な言葉づかいですごむ。
久保くんはそんな二人を受け流し、私に視線をよこした。
「まあ、昨日ベッドで……な?」
と思わせぶりな言い方に頬どころか顔全体が引きつる。
「ベッド!?」
「おい美来、嘘だよな!?」
案の定二人は深読みしたようだ。
「いや、勘違いしないで。あれは――」
「声可愛かったぜ? それにやっぱりスタイル良かったしな?」
すぐに誤解を解こうと声を上げたのに、久保くんはさらに言葉をかぶせてきた。
しかもやっぱり言い方が誤解を招く!
「なっ……」
「嘘だろ……」
何だか打ちのめされた様に落ち込む二人をなだめすかし、結局詳細を話さなくちゃいけなくなった。
しかもその説明の時は久保くん何も言わないから全部私が言わなきゃなかったし。
引っかきまわすだけだから本当にタチが悪い!
「それでも圧し掛かられたんだな?」
「でもまあ高志がいてくれて良かったな、それ」
何とか二人は理解してくれたけれど、そんな彼らとはすぐに別れることになる。
食堂の二階席に着くと、私はそのまま【月帝】のテーブルへ久保くんに連れられて行くから。
すみれ先輩、とまでは贅沢言わないから、せめて双子と一緒に食べたかった。
このまま久保くんの隣で食べるとかストレスで胃に穴が開きそうだよ。
なんて思っていたのに、前と同じ席に座ろうとしたところで思いがけない命令が下った。
「待て、美来っつったか? お前はこっちに座れ」
【月帝】の総長である八神さん直々の命令。
指定された席は八神さんの隣。
え? 何で?
……なんて聞き返せるはずもなく。
「あ、はい……」
と従うしかなかった。
すると不可解そうな声を上げたのは久保くんだ。
「え? 何で……?」
でも八神さんに軽く睨まれると慌てて疑問を引っ込める。
「あーじゃあ俺こっちに座りますんで」
そして何故かわざわざ私の隣に椅子を持ってきた。
八神さんと久保くんに挟まれている状態。
この状態でご飯とか……。
今日はきのこ雑炊にしたけれど、残念ながらいつものようにご飯で癒される事はなかった。
のどが痛むせいもあったけど、絶対それだけじゃ無い。
久保くんがいつ何をしてくるかと警戒していたのもあるし。
何より反対側からの視線が……。
じーーーーーっと見られている。
なんて言うか、観察されてる様な……。
思えば、何で八神さんは私に興味を持ってるんだろう?
初日に目の色も確認して【かぐや姫】じゃないと判断してくれたんじゃ無いの?
そう疑問に思うけど、それを口にするわけにはいかない。
そのまんま言ったら私がその【かぐや姫】だって言ってる様なものだから。
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