結婚詐欺なら間に合ってます!〜俺様最強“男の娘エルフ”の尻に敷かれていたら、下僕犬にジョブチェンジさせられた挙句トラブル頻発して命を脅かされています〜

為世

第一章 この世界は愛に満ちている

プロローグ ”詐欺”とは……


『民法における”詐欺”とは、他人を欺罔ぎもうして錯誤さくごに陥れる事なんだって』

『急にどうしたの?』


 確かあの日、俺は同級生のウツミちゃんと話していた。


『シュー君は時々、会話の文脈が分からない時があるよね』

『まぁ仕方ないよ。IQが20違うと会話が成立しないらしいから』

『シュー君がバカで、私は悲しいよ』

『ん〜? ”バカ”という単語にそんな用法があったかな? 一緒に辞書で調べてみよう!』


 彼女は時々冗談を言うお茶目な子だった。


『で? 詐欺がどうかしたの?』

『あぁ、ニュースでやってたんだよ』


 それは、鮮烈な記憶だった。


『”結婚詐欺”に遭ったオッサンのニュース。可哀想にね。でも何で騙されるんだろう。”愛”が無ければ分かるはずなのに』

『すごいね、小学三年生で愛を語るなんて。そういうの、傲慢ごうまんって言うんじゃない?』

『君は時々、歳に見合わない難しい言葉を使うよね。”傲慢”の意味ってわかってる?』

『シュー君にはまだ難しかったかな。調べてみたら? ほら、大好きな辞書で』

『なるほど、君みたいな人の事を言うのか。分かりやすい説明をありがとう』


 子供らしからぬ会話。しかしそれが、どこか心地良かった事を覚えている。


『おバカなシュー君は、いつか詐欺師に騙されちゃうかもね』

『俺を誰だと思ってるの?』


 有り得ない。本心からそう思っていた。


『IQ200の天才児だよ? 寧ろ、騙されるおバカさんがどんな顔か、見てみたいものだね』

『そう。じゃあ、私は220って事になっちゃうね』


 あの頃は、楽しかった。世界が輝いて見えた。

 そんな遠い昔、時空を超えた前世の記憶を、何故、今思い出しているのか。


「───悪いが僕は男だ。だから”そういう事”はしない」


 そして現在。目の前には、世にも珍しい”男”のエルフ。奴は、俺と同性だった。


「け……」


───ウツミちゃん、見てるかな? あのさ、分かった事があるんだ。


「結婚詐欺じゃぁぁああああああ!!!」


───おバカさんは、こんな顔をしていたよ……。

 天罰が下ったのだ。詐欺を嗤った者が、時空を超えて詐欺に泣いている。


 俺は、「どうして」と嘆く。何故こんな目に遭っているのだろう。


 冗談だと思うだろうが、聞いて欲しい。結婚したら・・・・・男の娘だった件・・・・・・・について。


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