欠けておちた、あなたへ捧ぐ

ねむたい

序章 

それは遥か昔の

「……約束する。私はこの赤き地に、真っ白な『てんごく』を築いてみせる。あなたも望んだ理想を、現実に」


 頭上から落とされたその声に導かれ、項垂れた頭をぎこちなく持ち上げた。

 後ろ手を縛られ、花畑の中へ両膝をつき、踏みにじってしまった嘘つきで勤勉で悲観的な白い花々の亡骸なきがらから一転。目の前にはどこまでも続く、素直で我儘で楽観的な蒼空が続いていた。


「だから、あとはまかせて」


 わずかに垣間見えたのは、春風に舞う柔らかな黒髪と、緩く弧を描いた薄い唇。鮮やかな銀朱ぎんしゅの瞳に金剛石こんごうせきよりも固い決意を灯しながら、頬を伝う一筋の涙。

 そして、音も無く掲げられた、天を真っ二つにうがつ、白銀の輝きつるぎ

 瞬間。

 視界だけが、真下にちた。


「おやすみ、我が愛しの半身アルム

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