VTuberだけど顔バレしました。でも大人気になりました。

香住ケ丘の異端児

第1話

「最近暑すぎると思わないー?みんなぁ〜……」






・それな


・今日殆どの地域で30度を超えたらしいよ


・エアコン不可避






「やっぱみんなもそう思うよねぇ……」




私―――神島あみは大手のVTuber事務所である、『ミラクル』に所属している。




Vの名前は神代マナとして活動している。




黄緑の腰くらいまである髪を持ち、イマドキ女子!!っていう感じの服装に身を包んでいる。




チャンネル登録者も順調に増えていき、つい先日30万人を突破した。




「それじゃ、きりもいいし配信終わりますか〜……おつマナ〜」




そう言って私は配信を切った。




今日もよく頑張った、私。




さて、と。明日は事務所に行かなきゃだっけ?案件が来てるらしい。




まだ11時だけど、めちゃくちゃ眠いし寝ますか……




私は大変だけど楽しいこの仕事にやりがいを感じていた。








次の日、私は『ミラクル』の事務所に来ていた。




まだ業界の中では小規模な事務所なので、こぢんまりとしたビルにある。




そしてその小さな事務所に私の叫び声が響き渡った。




「なんで化粧の案件引き受けてるんですか!?顔写せるわけがないでしょぉーーー!」




「まぁまぁ、落ち着いてあみちゃん。まだ断る事はできるから」




何故かVTuber事務所に保湿パックの案件が来たらしい。




Vの事を何も知らないのカナ?




「とりあえず来週まで待ってくれるらしいから……ね?」




「いやいや、むりっしょ」




ちなみに私と喋っているのはここの社長の椎名ゆりさんだ。




私はつい反射でツッコんでしまった。 




「とにかく、考えはしますけど、過度に期待をしないように言っておいてください……」




私は今日の配信の準備をするため背を向けて帰った。








「ぇっとぉ……あれ〜……おかしいな……」




予定の20分前、何故かカメラの接続が悪い。




昨日までは全然そんな事は思わなかったのに……




そんなこんなの内に配信時間がやってきた。




「あ〜……っもう!!」




そう言って、無理やり差し込むとなんとか起動することができた。




「あ〜よかった〜……」




そう言って、私はよく画面を確認しないまま飲み物を取りに行った。






それが仇となった。






飲み物を取ってモニターを覗くと、




「……え、わたし……カメラミスった……?」




とは言ったものの、ミスったで済む話じゃなかった。




思いっきり自分の顔が映し出されている。




アバター越しではなくもろに出てしまっている。




私はそれから一言も発することなくカメラを切って、配信も終了させた。




コメント欄が爆速で進んでいるのが見えたが、そんなことどうでもよく思えた。




「終わ……った……」




顔から血の気が引いていくのを感じながら椅子から崩れ落ちた。








【神代マナの事故の感想スレ】


名無し:1  みんなと共有したくてスレ建てた


名無し:2  スレ建て乙


名無し:3  これは炎上かな……


名無し:4  でもめっちゃ可愛くなかった?


名無し:5  それな


名無し:6  それ、てかアバターと同じ位


       ・


       ・


       ・










「え、クビじゃないんですか?」




私は事故の次の日、事務所に呼ばれた。




まじで昨日電話がかかった時、クビを覚悟して眠れなかったのに。




怖すぎてエゴサもせずに秒でスマホを閉じたんだが。




「その様子だと知らないようだけど、今『神代マナ』という名前は世界中で有名だよ?」




「でしょうね、あんな事故したら!前代未聞ですよ!」




逆にあんな事になって名前が出回らないほうがすごいだろう。




「違う違う。い・い・意・味・で・だよ」




「え?」




「君の素顔が良すぎて騒がしくなっちゃったんだよ」




「え?」




私の認識だとVTuberって顔バレした瞬間詰みって聞いたんだけど……デマか?




「まあ、百聞は一見にしかずと言うしね。これを見てご覧」




「はぁ……」




社長は私に次のような記事を見せてきた。








【神代マナ、顔バレ!?】


○月○日、人気VTuberである神代マナさんが顔バレした。


最初は放送事故としてネットでも『これは引退か……?』など騒がれたが、結果は逆だった。


なぜなら素顔が女優、アイドルも顔負けの美貌だったからだ。








出だしの文章を見て、私は驚いた。




社長はそんな私を見て、


「じゃあ次に君の昨日のライブのアーカイブを見てご覧」




「あ!消してないや……」




慌てすぎて消し忘れてたかも……




そう思いつつ、私はアーカイブを開いた。




すぐに私の顔面が出てきてるけど……




そこに目が行ったが、再生数と登録者を見た途端、絶句した。




「………………え?どゆこと……………?」






【再生数】2036498回


【登録者数】91万人






な、何で増えてんのぉぉおおお!




「これって炎上案件じゃないんですか?」




「普通は……ね」




普通じゃなくても登録者が3倍になることある?




社長は手をパンッと叩いて、笑顔でこう言った。




「じゃ、すぐに帰って100万人耐久しよっか♡」




「……マジすか」


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