第22話 救援
「まー!! ……さま~?」
「ん?」
小さい声だったそれは次第に大きく、はっきりと聞こえてくる。
「あっ! 聖女様!!」
遠くに見えた白い髪。
全体的に白い衣装の集団。
間違いない。
神殿の人たちだ。
「聖女様!! ご無事で!?」
「……教皇様!?」
教皇様は一目散に私の元へと走って来た。
がしっと肩を掴まれる。
「ほんっとうに心配しました! どこか痛いところなどありませんか!?」
「え、あ、だ、大丈夫です」
「本当に!?」
「は、はい!」
思わず教官に対する様にびしりと姿勢を正してしまった。
「っ! よかった……本当に」
私が無事だと分かると、教皇様は脱力した。
よく見れば、服の
足場の悪い山の中をずっと探してくれたのだろう。
改めて、彼には探してもらってばかりだ。
申し訳なくなってくる。
「すみません、お手数をおかけしました。……でも、どうしてここが?」
そう問えば、彼はああ、という顔をした。
「少し前に、力を使ったでしょう? 浄化の雷を。ならば、その先に貴女がいるはず。だから雷の落ちた方角を探していたんですよ。……暗くなる前に見つけられてよかったです」
「そう、だったんですね」
(そういえば、どうやって使ったんだろう?)
あの時はとにかく必死だったから、何も覚えていない。
なにを願ったのか。
どう力を込めたのか。
知らなければいけないこと、考えるべきことはたくさんある。
けれど。
今は、あれが
「さあ神殿に帰りましょう」
いつくしむような、優しい声が降ってきた。
見上げれば、いつもの優しい顔がある。
その顔を見たら、緊張が解けていった。
ずっと、
足がもつれて教皇様に寄りかかってしまった。
ぽすんと音がする。
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい。安心したら気が抜けちゃって……」
「そうですか。もう大丈夫ですよ」
教皇様はそう言って優しく頭を撫でてきた。
いつもなら嫌がるところだけれど……。
今は周りの視線を気にしている余裕はなかった。
だから黙って受け入れる。
(それにしても、教皇様の顔を見たら気が緩むって……)
いつの間に、こんなに安心するようになっていたのだろう。
思わず笑ってしまった。
(初めはあんなに警戒していたのになぁ)
「お前、教皇聖下に随分と懐いているんだな」
「え?」
ふいに後ろから声がかかった。
第二王子の声だ。
なんとなく
相変わらずの無表情だ。
気のせいだったのだろうか。
「教皇聖下、捜索、感謝する。そちらも無事だったようで何より」
「そちらこそ、ご無事で何よりです」
「こんなに早く見つけてくださるとは、さすが神殿。どうやったので?」
「はは、それほどでも。この地区を整備している教会へ協力を要請しただけですよ。早いに越したことはないでしょう?」
気にはなったけれど、二人はそのまま話し始めてしまった。
……。
心なしか、ピりついているような気もするけれど……。
でも、まあ。
無事だし、山の浄化も済んだ。
これで王家の協力も得られるし、金目政策も終わらせられる。
(一歩前進、一件落着!!)
何はともあれ、だ。
ようやく一つ荷を降ろせたようで安心した。
「あ、そうだ。聖女」
「うえ?」
喜びを噛みしめる途中で第二王子に声を掛けられた。
何かと思って振り返れば
「…… …… ?」
状況が頭に入ってこない。
なぜ手の甲にキスをしているのだろう。
というかキス??
キスって……
「ミッ!!!?」
驚き過ぎて首を絞められた
「え、へ、あ……???」
今すぐにでも腕を引っ込めたい。
けれど、体が硬直して動かない。
頭が、完全に
「……お前のおかげで死なずにすんだ。この恩は必ず返す」
「……っ!?」
顔に掛かった赤髪がアンニュイな雰囲気を出す。
無表情の瞳の奥に、熱い炎を見た気がした。
そのまますっと手を離し、すれ違う。
「近いうち、また会いに行く。だから――」
私だけに聞こえる声でそう告げると、彼はそのまま下山していった。
「……」
最後に言われた言葉が気になった。
けれど、顔の良い異性に口づけられて平気なわけがない。
痛みを主張する心臓。
破れそうな
上がる息。
なんだか目の前が真っ白になって来た気が……。
(……あれ。あれれ?)
「聖女様? 大丈夫ですか? 聖女様……。し、死んでる!!」
私の意識はそこで途絶えたのだった。
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