第20話 お宝と女の子

「ルイス様、こんな市街地にお宝があるのですか?」


「ああ、パッと見では判断がつかないが、ヒントを解くと分かる場所さ」


「はあ、頭の良い人はすごいですねえ」


 アメリアは毎度よく誉めてくれる。

 視線が熱く熱心だから、つい俺も張り切ってしまうんだ。


 ずいぶんと外れにある、目立たない生け垣。

 辺りに人はいないし、見られる心配はなさそうだ。


「ほら、あそこの生け垣だ。俺のあとをついてくるんだぞ」


「は、はい」


 まあ、その謎かけ自体は大したことがない。それと偶然であっても、中には入れてしまう。


 それよりも中に入ってからが大変なんだ。


「ふわーーー、木のトンネルだぁ。でも、すぐ壁だったのになんでー?」


 だからこその隠しマップだ。


 誰もこんな幻想的な小道が、広がっているとは思わない。


 そしてこの綺麗な小道がくせ者だ。

 迷路いう二段構えの通路だよ。


「道順を間違えると振り出しに戻るからな。離れずついてきてな」


 ちょっと脅しすぎたかな。

 ギュッと俺の裾をにぎり、体をすり寄せてくる。


「も、もう少し離れても大丈夫だぞ?」


「い、いえ、不安なのでぇ」


「お、おう」


 甘い香りがしてくる。

 集中は出来ないが、まあいいか。

 何せここは俺が攻略法を見つけた場所だ。


 交差点ごとに正解がきまっていて、正しく進むのが大事なのだが、俺なら目をつぶっていても大丈夫だ。


「ルイス様、全てを分かっておられるのですか?」


「まーなあー。(ゲーム知識だとは言えないか)」


 実際にかなり複雑で、なかなか攻略が進まずみんなさじを投げていた。


 右や左といった単純な選択だけじゃない。その場で回ったりと、ひねくれている仕様だ。


 枝木で出来た通路をすすみ、時たま広場へと出る。

 そんな所は何本もある道の中から選ぶんだ。


 実にその選択数は73回だ。我ながら良く見つけたと思うよ。

 掲示板にのせた時は神扱いされたし、マジ誇らしかったよな。


「そろそろ終わりだ、そこを曲がればゴールだよ」


「わーーー、きれーーーい!」


 様々種類の木々により、秩序のとれた庭園になっている。

 その中央に設けられたストーンサークルには、ユキヤナギの木で出来た台座がある。


 その上にお目当てのゴッドオーブがあるんだよ。


「って、無いじゃん!」


「ですね、どうしましょう」


 茂みや台座の下を探してみても、どこにもオーブはない。


 頭が真っ白。


 でもだ、誰かに先を越された可能性はない。

 というのも、オーブが持ち出されたら、この回廊は閉ざされる。

 だから俺たちが入れた時点で安心してたんだ。


「何処かにあるはずだ。アメリア、探すぞ」


「はい」


 手分けし始めてすぐに、アメリアの方から悲鳴が聞こえてきた。


「きゃっ、人が。ルイス様、人が倒れています」


 駆け寄るとそこには、肩から血を流して意識を失っている、金髪ショートヘアーの女の子がいた。


 血を流しすぎたのか顔色が悪く、とても危険な状態だ。



《ミッション発生 倒れる少女の衣服をはぎ、呼吸を楽にさせろ (報酬、添い寝の毛布) ☆☆★》


 一見まともなような内容だが、はめる気満々のミッションがきた。


 この子は山に住むエルフ。

 その生活様式ゆえに、だーいぶ軽装な衣装なのだ。


 上下の衣装とも最小限の面積で、もしこれを取ったとしたら逮捕されるの間違いなしだ。


「アメリア、この子に回復魔法を」


 治療はアメリアにまかせ、俺はこの子が楽になるよう上半身を起こしてあげる。

 肩に手をまわし、支えて上げれば完ぺきだ。


《ビーゴン、ビーゴン、緊急ミッション発動。 容態が急変した少女を心臓マッサージで救え (報酬、温感ローション) ☆☆★》


 懲りもせず次から次と出してくるものだ。

 これも女の子が目を覚ました瞬間、胸をもませようとしたいるミッションだな。


 読めすぎて、怒る気にもならないよ。


「ルイス様、ではいきますね。ヒール」


 柔らかい光につつまれ傷口はふさがっていく。

 血色が良くなり、呼吸も落ち着いてきた。これでひと安心、こちらも安堵のため息をつく。


 するとすぐに女の子は、身をよじりだし目覚めようとしていた。


「う、うーん。あれ、ここは?」


 女の子は状況が分かっていないようで、俺をじっと見つめてきた。

 悪名効果をやわらげるため、ゆっくりと微笑んでみせる。


「やばっ、王子様じゃん。んん~~~~♡」


 ニヘラと笑い唇を突き出してきた。

 これは完全に『キッスを私にちょうだいな』だ。


 ギャルメイクのエルフ少女が、これをやってきたら反則だ。


「ちょい待って。俺は王子様じゃないし、落ち着きなよ」


「違ってもいいよ~。お兄さんイケメンだし大歓迎だよ、んん~~♡」


 抱き上げていていたのがいけなかった。

 そのまま首に腕をまわされ、がっちりホールド。

 向こうから迫ってきているよ。


「やめなさーい、ルイス様が嫌がってるでしょ」


 アメリアによって、すんでのところで引き離された。


 これには金髪ギャルも驚いている。

 そしてアメリアを見てはじけた。


「き、きれいな人ーーーーっ」


「えっ!」


「姉さん、すごい綺麗ッス。肌もツヤツヤだしうらやましい~。あっ、あたしエルドラっていいます。お願いします」


「ア、アメリアです」


「えー、名前までかわいい~。はぁ~、髪も細くて光ってるし素敵ですね~」


「そ、そう?」


「ええ、マジっす。お人形さんみたいで、女の子はみんな姉さんに憧れますよ」


「あ、あなた、良い娘ね」


「あざーーーーーーーーっす」


 ギャル、恐るべし。


 一瞬でアメリアの懐にはいった。

 アメリアもその気になって、何でも聞いてよと、お姉さん気取りだよ。


 完全に篭絡ろうらくされているよ。


 でもこの娘、別に悪い子じゃない。

 なにせ勇者パーティに加入するメンバーの一人である。


 時期はもっと後のはずだけど、かなり優秀な弓兵で、『孤高のスナイパー』の異名を持っているんだよ。


 ギャルで孤高なのがウケ、すごく強かったし人気になったキャラクターだ。


 まあ、その人気の秘密は強さだけじゃないけどな。

 この際どい衣装で繰り出されるアクションに、男はみんな釘付けになってしまう。


 弓を射るだびに、バインバインと揺れるお胸が、彼女を好きなキャラ投票で第3位にまで押し上げた。


 ギャルエルフでバインバイン。

 作戦名にもなったくらい有名だ。


 でも変だよな。


 ゲームで二人はあまり仲良くなかった。

 勇者を取り合って、いつもバチバチのぶつかり合いをしていたよ。


 なのにこうまで仲良くなるなんて。

 きっと勇者がいないから、張り合う気持ちが湧いてこないのだろうな。


 ただ二人は夢中になって話し込んでいて、俺は置いてきぼりにされてるよ。


 そして話はガールズトークへと移っていった。

 ちょっとこの流れは不安だな。

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