第17話 ドドベルの後始末(通常編) ①

「ドドベルの旦那。話がずいぶんと違うじゃねえか。特殊な詐欺の海賊王って本当かよ」


「ああ、俺も計算外だ。絶対に食いつくと思ったんだがなあ。もしかして、アホすぎて計算ができなかったか?」


「ぜんぜん悪党のルイス様らしくねえしよ、拍子抜けだわ」


 ここは輸送途中の護送車のなか。

 ドドベルは人目をさけ、罪人9人と会っている。


「だんな、他の騎士どもは?」


「安心しろ、夜番を代わったから今頃スヤスヤと寝ているさ」


「ひひひっ、だったら逃げるのも容易いな」


 不審がる団員を怒鳴りつけ、ようやく交代したドドベルだ。

 そうやって、人に聞かれないよう時間をつくったのも、待ちわびた事があるからだ。


「へへっ、それよりもガロ。例の報酬を頼むわ。おれ楽しみでよ、他のことが手につかねえんだ」


「も、もしかして手引きしたその見返りのことか?」


「ああ、分かっているじゃねえか。おめえも人が悪いぜ」


「バ、バカ言え、奴隷が売れてもないのに払えるかよ。頭のネジが飛んでるのかっ?」


 手足を縛られているガロだが、こと取り引きに関しては立場が上だ。

 騎士団団長であっても、奴隷密売組織においては末端部。

 交渉できる力はない。


 だがドドベルには、それが理解できず食い下がる。


「だ、だましたのかよ。ふざけんじゃねえ!」


「被害者ヅラはやめな。むしろこちらに損害が出てるんだ。それをお前に背負ってもらうぞ」


「はあーー、なんだよソレ!」


 犯罪組織に理屈はとおらない。

 こうなってはドドベルも、組織に骨の髄までしゃぶられる。闇に踏み入れた者の末路である。


「ふん、騎士団団長とはいえ小者だな。まあいい、それより早く拘束をとけよ」


「あ、ああ、分かった」


 ーザクッ!ー


「ごぼっ、かっ!」


 ドドベルは剣をガロのクチにぶっ刺した。


 無表情での動きであった為、何の抵抗も受けていない。


 そしてネジ切るように引き抜くと、事切れたガロは崩れおちる。


「お、おかしら。テメエよくも……ぐへっ!」


 腐っても騎士団団長である。狭い護送車のなかでも見事な剣さばきである。

 腕をたたみ、器用に剣をふっている。


「ぎゃーーー!」

「やめてくれーーーー!」


「やめるって何をだよ?」


「俺たちは仲間じゃねえか。こんなの酷いよ」


「ふん、それを言いふらされるのが問題なんだよ。俺は真っ当な人間なんだからな。素直に死んでくれや」


「ぎゃーー」


 またたく間に、全員を討ち取った。


「うへっ、血で汚れたな。最後まで手を焼かせてくれるクズ共だぜ、ペッ」


 唾を吐き悪態をつく。

 物言わぬむくろとなった元仲間を蹴り飛ばした処で、他の騎士団員が駆けつけてきた。


「団長どうしましたか? うっ、これは!」


 光で照らすと血の海が広がっており、反射的に眉をひそめてしまう。


「おう、丁度いい所に来たな。この始末やっとけよ」


「いえ団長、まずは説明をしてください」


 詰め寄る団員の迫力に、ドドベルは半歩あとずさる。


 普段は組織のトップに立つ身分だ。

 久しく怒られた事もなく、急な詰問に戸惑っている。


 慣れない場面にまずいと焦り、言葉が上手く出てこない。


「いや、うー、えっとだなあ。……へへっ、いいだろ、べつに何だって」


「そうはいきません。全員死亡した経緯を教えてくださいよ」


「……そ、そうだ。逃げようとしたんだ。うん、で、仕方なく斬った。……俺が当番を代わって良かったぜ、何か嫌な予感がしたんだよなあ。まっ、熟練のカンってやつだな、へへへへへー」


 罪人の手足は、施錠がされたままになっている。

 それを確認した団員は、問いただそうとする。


「ドドベル団長、本当に……」


「ああ、本当だ。それとも俺がウソをついているとでも?」


「いえ、状況があまりにも変です。呪縛の魔法効果はきちんと効いていますし、9人全員というのも納得できません」


「なんだとーーーーーーーーーー!」


「いえ、事実を言ったまでです」


 怒声にさえぎられるが、それでも尚食い下がる団員だ。

 これにドドベルはキレて、獣のように襲いかかった。


 団長より容赦のない殴打に耐えるも、その口は止まらない。


「それに裁きをくだされるのは伯爵です。それを越えるのは、ぐはっ!」


 急所を狙った殴打に、十数発のこえた所でヒザをついた。それにドドベルは追い討ちをかける。


「お、おめえは騎士として失格だ。不適格者としか思えん」


「な、何を突然」


「いいや、前からおめえには疑問を感じていたんだよ。騎士になったのは間違いだとな」


「き、きちんと手順はふみました」


「それがどうした。上官の言葉に楯突くし、その素質も怪しいんだよなあ」


 話のすり替え。

 しかし団員は急な責めに狼狽うろたえ気づかない。


 その反応にドドベルは、してやったりとマウントをとっていく。


「私は!」


「違うとでも? だったら証明してみせろ。ここより先は走ってついてこい。もし遅れる事があるなら、騎士団には必要ない者として追放とするからな」


「そ、そんな」


「いいか、俺は人事権をもつ騎士団団長だ。それを努々ゆめゆめ忘れるな」


 にちゃりと糸をひくゆがんだ笑い。

 相手に反論がないと確認できて、勝ち誇っている。


「さあ、城へ戻ろうか。やる事がたくさんあるから大変だわ、がはははは」


 誰も返事をすることもなく、出発の作業をすすめる。

 ドドベルはそれを見て、満足げに酒をあおった。


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