第8話 モンスターが味方?敵は誰?

「一人を除いて皆殺しときたか」


 趣味の悪いミッションだ。

 噂を拡散させるため、わざと一人を生かすってやつだ。


 あの声が聞こえないみんなに緊張感はない。だが。


「えっ、そ、空が!」

「な、なにが起こっているの?」


 晴れ渡っていた空が一変して赤く染まる。

 この異変でみんな混乱におちいった。


 これは乙サガであった特別ステージでの演出だ。

 通常マップと思い入ると、不意打ちで発生するんだよ。


 通常よりも出現する敵のレベルは高く、準備が不十分だと全滅だって十分ありえるのだ。


「あそこを見ろ、ハーピーの襲来だ!」


 上空には3匹のハーピーが旋回して、獲物を見定めていた。


 まずい。この初期の段階で、飛行ユニットの出現は最悪だ。


 なにせ武器がそろっていないのだ。

 空飛ぶ相手には弓矢は必須だ。


 しかしゲームのシステム上、今の段階だと弓兵は一人もいないのだ。

 完全に負け戦、一方的にやられるのが目に見えている。


 なのにテンションの高い者がいる。

 それは騎士団団長のドドベルだ。


「はーっはっはー、鳥もどきがノコノコと殺れにきおったわ。おい、騎士団は前に出るぞ」


「えっ……は、はい」


 状況を把握している団員たちは戸惑っている。

 しかし命令には逆らえず、覚悟をして踏み出した。


 助け船がいるな。


「ドドベル団長、俺も手を貸すぞ」


「……はあ?」


「えっ、どうした?」


「ぎゃははは、くず豚公子が助っ人気取りかよ。ヒーローごっこは他でやってくれ。ここは男の戦場、遊び気分では死んじまうぞ?」


 大爆笑をされて手で追い払われた。

 しかし皆を見捨てる訳にはいかない。

 きちんと説明することにした。


「いや、誤解だ。俺はかの有名な賢者リリアンの師事をえて、少しは……」


「たーった半日でしょ? それで強くなるなら世話ねえわ」


「あ、いや……」


「なあルイスの坊っちゃん、素人は引っ込んでいてくれよ。それでも聞き分けないなら、ハーピーより先に俺がやっちゃうよ?」


 あっ、これって嫌われてるわ。


 まるでゴキブリでも見るかのようだし、遠慮のカケラもないよ。

 うん、ルイスだから仕方ないか。


 ただこの暴言に、俺よりも早く怒る者がいた。アメリアだ。


「ちょっと団長さん、ルイス様に失礼ですよ!」


「うっせー、女がクチだすなああああああああああああああああああああ!」


「きゃっ!」


 10倍の勢いで返され意気消沈。

 小鹿のように震えている。


 可哀想なアメリアをなだめ、頭をポンポンとしてあげる。


「ありがとうな、アメリア」


「い、いえ、お役に立てませんでした、ぐすん」


 まあ、それでも良しだ。

 今は成り行きを見守ろう。


 前に出る騎士団。


 それを見たハーピーは、非戦闘員よりも騎士団を標的にする構えをとった。


 両者がぶつかる。


『ケケケケケケケケッ!』


「ぎゃーーー!」

「くそっ、くそっ、痛いーーー」

「団長、向こうの遠距離攻撃を防ぐ手だてがありません」


「うっせえ、気合いでなんとかしろ!」


「は、はいーー!」


 上空から矢羽根を撃ち込まれ、みるみる内に押されていく。

 いや、元より無茶な戦法だ。団員はよくやっている方だ。


「くそー、卑怯な鳥め。降りてきて正々堂々と勝負しろ!」


『ケーケケケケケケケッ』


 怒鳴るドドベル団長だが、それは無理な話だ。


 ハーピーにしたら、近づくのはトドメを刺すときのみ。

 わざわざ危険をおかす必要がない。


「団長、撤退の指示を。このままでは全滅です」


「バカ者めー。騎士は退かぬ、騎士は諦めぬ、そして騎士は倒れぬものなのだーーーーー!」


「ムリですーーー!」


 いいように痛めつけられている。

 これ以上は危ないな。


 俺は倒れそうな騎士にポーションを振りかけ、その者の前にでた。


 だけどそれが気に食わないと、団長が怒ってくる。


「くず豚め、邪魔だと忠告しただろが。騎士の花道を汚すと許さんぞ!」


「そんな事を言っている場合か。部下を死なせてしまうぞ?」


「うるせえ、ぜんぜん余裕だわ。イチャモンをつけるんじゃあねえよ」


「その割には手も足も出てないだろ」


「何処がだ。見ていろよ、こんな鳥もどきなど、こーしてくれるわ!」


「えっ、マジで?」


 団長は大きく振りかぶり、自分の剣をハーピーに投げつけた。


 だけど、衝動的な行動など上手くいくはずもない。


 ヒョイッと受け止められ、遠くへと捨てられ、団長は素手で戦う羽目になった。


「あーーーーなんて事を。この薄汚いモンスターめ、絶対に許さんからな!」

 

『ケケケケケケッ!』


 怒り狂うドドベルを、ハーピーは小馬鹿にして笑っている。

 煽れば怒るを繰り返し、変な追いかけっこになっている。武器もないのによくやるよ。


 そしてドドベルの執念が実ったのか、徐々にハーピーを追い詰めていく。


 が、あと一歩の所で、ハーピーの糞爆弾が炸裂した。

 至近距離で顔に命中し、ドドベルはもんどり打って撃沈した。


『ケーケケケーケケケケッ』


 これを機にハーピーは、容赦なく矢羽根を撃ってくる。


 隊列がくずれ、更なるピンチとなった。


「皆の者、怯むな。密集体勢で防ぐことだけを考えろ!」


「ル、ルイス様!」


「団長は気絶している。ここからは俺が指揮をとる、いいな?」


「はい!」


 崩壊しかけた騎士団が息を吹き返してくれた。

 後ろには沢山の人達がいて、退くわけにはいかない。


 そんな想いを背中で感じて、俺はハーピーと対峙した。

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