悪役貴族さま、極悪ミッションでの日常 ~逆張りで痩せて、助けて、優しくしたら、ヒロインたちが俺を勇者だと勘違いし始めてる
桃色金太郎
乙女とミッション開始
第1話 ミッション メイドを虐めろ
いつの間にか寝ていたのか、ぼんやりとして意識がはっきりしない。
重い体を起こそうとすると、突如つんざく音が鳴り響いた。
《ミッション発動 ミッション発動 メイドをとことん
「はあ?」
目の前の空間に文字が浮かび驚かされた。
いくら発達した世の中であっても、裸眼でこれはあり得ない。
それにメイドって何?
アキバにすら行った事のない俺には無縁のものだ。
首をかしげ考えていると文字は消え、視界がはっきりとしてくる。
ここは見慣れない豪華な部屋で、どうも俺の家じゃない。
そして足元から何やらうめき声がした。
「う、う、うう。く、臭い~」
「おっ?」
「あっ、ち、ち、ちがうんです。決してルイス様の足のことではありません」
俺は足を投げだしソファーに座っている。
その足かけソファーの場所に、一人の少女がしゃがんでいた。
いや、この子自身が足かけソファーの代わりになって、俺の足を受けていたのだ。
非現実な光景に頭は真っ白。
慌てて肩から足を降ろす。
「ルイス様、もうよろしいのですか?」
臭かったはずなのに、それを
が、それどころじゃあない。
「か、かわいい……天使かよ」
「えっ?」
あまりの可愛さに、つい本音が出てしまった。
いや、黙れという方が無理だ。
だってふんわりとしたおっとり系美少女なのに、スタイルにはメリハリがあり、出ている所はこれでもかと主張をしてくる。
モブな俺の生活では、まず交流のない領域の人種だ。
なのに、すぐそこにいるんだよ。
その美しさこそ非現実的で、俺の魂と心と心臓が激しく
だけどこの子さ、どこかで見た覚えがあるんだよなあ。
そんな彼女越しの鏡には黒髪の俺ではなく、金髪碧眼のおデブちゃんが映っている。
信じられないが、それは俺自身であった。
呼ばれる名前と映る姿で、回路がつながった。
「も、もしかして君はアメリアなのか?」
「はい、ルイス様の忠実なるメイド、アメリアでごさいます」
これは確定だ。これはゲーム転生だ。そして破滅が見えてしまった。
戦略型RPG【乙女と一緒にタクティクスサーガ】、通称
その自由度の高さから、全世界で大人気になったゲームだ。
もちろん俺もやっている。
それに出てくるのが、超絶嫌われの
俺はルイスそのものになっていた。
でも寄りによってルイスかよ、こいつだけはマジやばい。
何度も主人公にボコられて、最後に処刑されるキャラ。そんなのに転生したんだ、焦るなんてものじゃない。
「どうされましたか、ルイス様?」
「あっ、いや、なんでもない」
そして目の前の美少女は、ルイスに日々イジメられるメイドのアメリア。
道理で可愛いはずだよ。
俺もメンバーの中で、一番推していたもんな。
「むっ、膝から血が出ているな?」
アメリアは恥ずかしげに隠すが、長時間ソファーとして動かなかったのだろう。肩だけでなく、その重みでひどい傷になっている。
俺はテーブルにあったポーションをアメリアの膝にふりかけた。
たちまち傷は
《ビーゴン、ビーゴン、ビーゴン!》
頭の中でけたたましい音が鳴り響く。
《警告、警告。その行為はミッション達成の
視界の端にはご丁寧に、『警告』の文字まで出ている。
触れられもしない文字を手で振り払う。
「何がミッションだ。こんな可愛い子がケガをしてるんだぞ。放っておくはずないだろが!」
「ひゃ、ひゃい?」
俺の大きな声でアメリアを驚かせてしまった。
どうやら音や文字は、俺だけにしか分からないようだ。
「すまん、こんな酷いことをして。それと体力回復のため、もう一本を飲んでおけ」
「ルイス様、カッコいいです~」
「えっ?」
「えっ!」
「あうあう……なんでもない」
幻聴だよな?
だっておデブな意地悪貴族だぜ。
いくらアメリアが目線を外し顔を赤らめようがあり得ない。
変な期待は胸にしまっておく。
ポーションを渡すと、アメリアはこくんと
飲み干すと
人助けなど確かにルイスのする行動じゃないか。
極悪非道のルイス本人なら、『ぐふふふ、もっと可愛く泣いてみろ』と尻をふって喜ぶのだが、常識ある俺にはできない。
「でも、どうされたのですか。まるで別人のように優しくなられて。あっ、あわわわわ、すみません、失礼な事を。二度といいませんので、あの地獄のようなお仕置きだけはご勘弁をーー!」
平伏し全力で謝ってくる。
本来なら俺が地獄のお仕置きなど知るはずもない。
だが、うっすらとルイスの記憶を持っている俺にはわかる。
スライムを使ったぬるぬる責めや、クワガタ100匹はさめるかな?とか。
うん、恐れるのも納得だ。イカレた行いばかりに頭が痛くなるぜ。
アメリアをなだめようと肩に手をおくが、逆効果でしかない。
ビクンと飛びのき余計に萎縮させてしまった。
「謝るのは俺の方だ。今までムチャな事ばかりさせてしまった。今後はイジワルや幼稚なことはしない。すまなかったな、許してくれ」
「ル、ルイス様?」
謝るのだがこの体の主は、はっきり言ってクソ野郎だ。
傲慢でイジワルな怠け者。
伯爵の子息であるのをいいことに、使用人や領民をイジメぬいている。
すべてを『ボクチンを誰だと思っている?』でねじ伏せ、上位者には近寄らない。卑怯を地でいく嫌われ者なのだ。
特に嫌われた理由は、自分では動かないクチだけ星人という点。
人にやらせ成功すれば、自分の手柄だと風潮し。
失敗すれば心身不調になるまで相手を
なのに本人はめちゃ弱い。
ゲーム後半であっても、まだレベル1だったりする究極の怠け者なのだ。
なのに悪巧みには
結果は失敗。ワンパンで、勇者に捕らえられている。
そして市中を引き回されて、石打の刑で息絶えるのだ。
そして一番ヘイトを集めたひと言が、引き回されている時のセリフだ。
『あー、歩くのだるぅ。おい勇者、疲れる前におんぶしろ』である。
これにみんな反応し、ネット市民が大いに沸いた。
『処刑される間際にコレ?』や『究極の怠け者』とか罵倒され。
『デブスは黙って転がっていけ』と散々たたかれていた。
そんな怠け者貴族に俺はなったのだ。
「あわわわ、頭を上げてください。ルイス様らしくないですよ」
「いや、どうかしていたのは今までの俺の方だ。これからは生まれ変わる。別人のルイスだと証明してみせるよ」
「ほ、本当にですか?」
「ああ、誓ってだ」
「ご、ご立派です。アメリアは感動いたしました、グスン。……あと、好きです」
「えっ、好きって?」
「あわわわわ、私としたことが。な、なんでもありません」
恥ずかしそうにうつむくアメリア。
こっちもなんて返せばいいか分からない。
でも物の捉え方を変えたなら、少しは誠意が伝わったって事だ。
この場のフォローとしては良しとしておこう。
しかしなぁ、これだけでは足らないよな。
ルイスがしてきた事を覆すには、もっと努力しなくてはいけない。積み上げてきた罪が重すぎる。
死ぬ気にならないと、本当に死んでしまう事になるからな。
あんな悲惨な最後はごめんだよ。
《ミッション失敗、ミッション失敗 これより結果発表いたします》
「ぬおっ、な、なんだ?」
思案をジャマするかのように、また画面が現れた。
◇◇
名 前:ルイス・ウォルター・アルヴァレズ
職 業:怠惰でクズな御曹司
H P:2/2
M P:4/4
レベル:1
体 力:1
魔 力:2
スキル:なし
悪 名:10,000(MAX100)⇒9,990
〈残念ながらミッション失敗により、悪名が減点されました。次回の挑戦をお待ちしております〉
◇◇
「な、なんだ、この悪名ってのは?」
それは通常キャラにはなかった項目で、響きからしてヤバすぎる。
悪役ってそんなカテゴリーなのか?
考えれば考えるほど分からなくなる。
想像がふくらみ破裂した。
本日二度目、頭が真っ白になっていた。
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