第115話 戦国時代でまさかのディナー

「よし、それでは晩餐会を始める」


 毛利輝元の一言に合わせて城の外で大砲の発射音が鳴り、先程より多くの花火が打ちあがる。正確には分からないが時刻は大体午後6時ごろか、陽が落ちて徐々に夜の帳が降り始めた港町の風景をそれは鮮やかに映し出す。


「凄い、キレイ……こんなの初めて見たわ」

「そうじゃろうそうじゃろう。わざわざ南蛮商人から取り寄せたんじゃからな。よし、ではデナーを早速もって参れ」


 うっとりとした表情の光に満足そうなドヤ顔を浮かべ、輝元が使用人に指を鳴らす。すると早速といった感じでワゴンに載った前菜の皿から何人もの使用人が慣れた手際で列席者全員に並べていく。


 

 最初に出された前菜がカモ肉のローストだったのがまず驚いた。この時代に肉なんてほとんど食べる習慣は無かったはずだし、南蛮渡来なら輸送に時間が掛かるから肉なんてとっくに腐っているハズ。となるとすでに国内、いや毛利領内で食用に育てられているという事か?


「この鴨肉……」

「ほう、コレが鴨肉と分かるとは、さすが食の大名と呼ばれる寿四郎殿ですな。いかにも、毛利では鴨の他に鶏・豚・羊・乳牛なども育てております。それから」


 

 小早川隆景が説明しながら手を叩くと今度は小さい椀に三種類のポタージュのようなものが運ばれてくる。白・黄色・オレンジ色で一口ずつ飲んでみると現代で味わった事のある懐かしい味だ。


「これはコーン・じゃがいも・かぼちゃのポタージュだな!」

「左様。どれも南蛮よりもたらされ、わが領内で栽培された物。これらの植物を育てる事で、米の採れにくい山地であっても農民が飢える事も少なくなった、非常に素晴らしいモノです。もし、貴方がたが我々毛利と手を組むのなら、これらの苗も分けて差し上げますがね」


 こちらが喉から手が出るほど欲しいモノを分かった上で、早くも揺さぶりをかけてくる隆景。こんな方法で懐柔しに来られるとは思わなかったぞ。


 

「まあ、お考えください。では次を」

 

 景隆がまた手を叩くと今度は二種類の、よーく見覚えのある食べ物が運ばれてくる。大振りのエビが黄金色の衣を付けられてタワーのように鎮座している姿の横に、生の魚が米の上に乗せられているものが4貫程度。説明など無くてもわかっている。これは……


「寿司に、天婦羅か」

「ええ。みんとの貿易によって酢に油、砂糖さえもいかようにも手に入りますので、再現する事は容易でしたよ」


 つまりこんなモンじゃ取引の道具にもならないぞと釘を刺された感じか。ドヤっという感じで眼鏡を片手で持ち上げてポジションを直す隆景。イメージ通りのやりずれぇヤツだな。



 その後に出てきたメインディッシュは仔羊のソテーにバルサミコソースがかかったモノで、デザートにはなんとシャーベット(ソルベというらしい)まで出てきた。本当にコレ、何時代に居るのか忘れちゃうわ。4男のホイ何とかが1人だけ場にそぐわない『ちょんまげ』をしてるおかげで、かろうじて戦国時代だって分かるけどな。


 

「どうじゃ、満足いただけたかの? じゅすと殿とやら」


 デザートの後に出てきた紅茶を啜りながら(正確にはお付きの者に呑ませてもらいながら)得意そうなドヤ顔をする孔雀王・輝元。いや俺の名前そんなキリシタンみたいな名前じゃねえんだけど、ちゃんと覚えてないのかよ! と思いつつも形式的な礼は述べておく。


「そち達が支度をしておる間に、義輝よしてる公よりの書状は読ませてもらった。義昭よしあき将軍と敵対するものでないのならば、東国とよしみを繋いでおくのも朕は構わぬぞ。じゃがの」


 偉そうな態度を崩さずにお付きの者にソルベをあーんしてもらう輝元。何かいちいち腹立つな、コイツ。


「朕は義昭将軍とも茶呑み仲間であるが、信長殿とも南蛮の話で盛り上がれるペン・フッリェーンドでもあるのでのぅ。戦になったとて、朕はどちらの味方にも付きたくは無いのじゃ」


 まあそりゃ間違いなく揉め事には巻き込まれたくないに決まってるよな。そこは分かる。分かるのだけど……それって場合によっては信長方に付くパターンも有り、って事?



くだんの事案は保留として、我らも東国の列強を敵に回してまで日ノ本を二分する戦いを行おうなどというつもりは全くありません。それで返答になりますかね?」


 補足するように横から言葉を添える隆景。実質的に外交面を取り仕切っているのはこの男なんだろうな、と雰囲気で察知する。ただ、今の発言でコイツは『現段階では』と言っていた。食えないヤツだ。


「ともあれ、この広島の地は明との貿易や南蛮貿易の富が集まり最新鋭の技術が集う、まさに日ノ本の革新的な地! ならばこの毛利家のノウハウを吸収し、領国経営に活かすために戦略的な提携を結んでおく事は、アナタたちにも有利に事が運ぶのではないでしょうか?」


 あまりに上からな物言いにちょっと一言文句を言ってやりたくなる。ついでにこの時代錯誤なディナーにも。



「その事なんだけどな。俺達は米子の港からここまで来たんだ。それで山陰側、『出雲の国の現状』ってのをちょうど目のあたりにしてきた」


 

 吉川元春が慌てて『今、この場でその話を切り出すのか!?』という表情を出しているが問題はない。穏便に済ませる事も考えてたけれど、切り出す予定が早まっただけだ。


絢爛豪華けんらんごうかなこの町でこうして優雅にアンタ等が過ごしてる一方で、出雲の民は搾取され続けて生活が一向に良くならず『これならいっそ尼子旧臣の領地に戻った方が』って考える人たちが後を絶たないようなんだが。最新鋭の技術がどうの南蛮渡来の再現がどうのって遊んでる前にやるべき事があるんじゃないのか?」


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お読みいただきありがとうございます。

4男の穂井田元清がどんな人物なのか

調べても性格や人となりまではよく分かりませんでしたが

作者の中でのイメージはほいけんたです(笑)

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