第6話 作戦会議
「しかし、いつの世も高校生ってのはエグいね。金の巻き上げに暴力、私物を壊す、暴言に孤立化。いじめってよりもはや刑事事件だろ」
「警察が介入したところで反省するような人たちじゃないよ」
確かに。むしろ逆恨みしてきそうだ。
進学校だし、学校側も事を荒立てないよう隠ぺいするかもしれない。
そうなると、他の生徒たちや理の進路に影響するばかりでメリットがない。
奴らがそこまで計算しているとは思えないが、何故悪くない側が一方的に被害をこうむらなければならないのか、不条理にますます腹が立つ。
「そこまでされて黙ってるなんて、俺には耐えられねえな……」
何度も考えてみたが、俺だったら先のことなんて考えもせずすぐ手が出ていたとしか思えない。
結果として俺が加害者として悪者になるとわかっていても、堪えることなんてできなかっただろう。
「でも、最後の二つはわりとどうでもいいかな。クラスで話す相手がいなくても特段困らないし。授業で二人一組になる時はみんなに逃げられるけど、先生が相手になってくれる時もあるし、そもそもそれができなかったとして成績にも人生にも大した影響はないから」
やはり理は強い。
普通はそう割り切れないから辛いのだ。
「でも金と物はな……」
理一人の問題じゃない。
親が汗水たらして稼いでくれた金だ。
だが言いかけて、口を閉じた。
大人になった今、理を見ているともっと親を頼れと言いたくなる。
だが、自分が子どもの頃もそんな選択肢は存在しなかった。
理にとっても、親は一番心配をかけたくない相手なのだろう。
「そうだね。だからもう財布は持って行かないし、交通系ICカードの残高もゼロにしてるよ。定期があるから困らない」
「昼飯は大丈夫なのか? おふくろさんの作った弁当か」
「たまにぐちゃぐちゃにされたり捨てられたりするけど一食抜いたところで死にはしないし、帰り道でモナカを買って食べると一瞬でお腹いっぱいになるから平気。バックの底にいつも千円だけ隠してあるんだ。部活もやってないから帰るの早いし、わりと支障ない」
そんなことを顔色を変えずに言っていたが、少しだけ眉を下げた。
「お弁当を作ってくれた母さんには申し訳ないけどね。あとは、暴力は純粋に痛い。あれは我慢とかどうこうとかじゃなく、単純に苦痛だよね。その時だけじゃなく、痛みはずっと続くし、生活の質が下がる」
それどころではない怪我を負った今は、どれだけの暴力を受けていたのか理の体から確認することはできない。
だが理が初めて顔を顰めたところを見るに、やはり身体的苦痛だけは無視できないのだろう。
自分以外の大切な人を悲しませることも。
「竹中ってやつがどれくらい強いのかはわかんねえけど、俺がやり返してやろうか?」
「それはいらない。またやり返されてキリがないから」
確かに、暴力は終わりがない。
かと言って、黙ってやられっぱなしというのも俺にはなかなか耐えがたい。
いや。ずっと耐えてきたのは理のほうで、俺はちょいの間の居候だ。俺が堪えなくてどうする。
こうして話を聞くと、相手を幸せにしようと決めた理を改めてすごいと思う。
聞いているだけで堪らなくイライラするのに、当事者である理の悲しみや怒りはいかほどのものか。
理は飄々と語っていたが、心も体も無傷なわけがない。
「だから、まず竹中くんを離脱させたいと思ったんだ。他のメンバーが離脱しようとするのを暴力で引き留める可能性もあるし。だけど、今、竹中くんいないんだよね。ずっとお母さんの実家に行ってるらしいんだ。お父さんがこの辺りの権力者で、僕の事故との関連を騒がれるのを避けたかったみたい」
「親は息子が何をしてたのかわかってたってことかよ。しかもそんなの、関係ありますって自ら宣言してるようなもんだろ」
「うん。だけど、竹中くんを家に置いておくと近所の人と会うこともあるから、誰かに事故のことを聞かれたらきっと揉めるだろうし、それよりはマシだって考えたみたい」
「なるほどな」
うるせえ、関係ねえ! なんてキレたらご近所の評判は一発で決まる。
こんな様子なら事実に違いないと『噂』を肯定されてしまうよりも、実態も影も見えないほうがいい。
「だからやっぱりストレートに頭である加藤君を先になんとかしちゃいたいんだけど、一度失敗してるし、たぶんものすごく警戒してると思うから、後回しにするしかないかなって」
「それがいい。次第に一人になっていくのも味わってもらえるしな」
にやっとして言うが、理はすましていた。
そんなことは最初からわかっていたという顔。
「おまえがただの『いい奴』じゃなくてよかったよ」
「そう?」
仕返しをしたいという気持ちもないなんて言われたら、それこそ恐ろしい。
「んじゃあ、最初のターゲットは誰になるんだ?」
「簡単なところから、原田くんにしようかなって」
「俺は何をすればいい? おまえが練って来た作戦とやらを教えてくれ」
「うん」
そう言って、理は初めて笑った。
にっと口角を上げるような笑み。
それだよ、それ。
俄然やる気が出てくる、いい笑いだ。
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