吟遊詩人は歌う

あきのな

第1話 半妖精の貴人

ならば私は歌うとしよう 

かの半妖精の貴人の歌を 


彼女は歌う 

夜鶯をも恥じ入らせる妙なる声で 

その神秘の霊泉にも劣らぬ歌が湧き出でる唇は 

月のかんばせに宿る不可侵の砦 

弦を爪弾くその指もまた 

水の上で微風と戯れる蓮の花 

紡ぎ出される音色は

張りつめた夜の空に瞬く銀の星々 


彼女は微笑む 

夜の庭園に咲き誇る薔薇をも萎れさせる美しさで 

そして夜の魂を蕩かして染め上げたその黒い髪は 

万の富を積んでも手に入らぬ極上の絹糸 

そして遥か遠くを見つめるその黒い瞳が放つのは 

数多の極彩色の宝石を鉛へと変える真の輝き 


なおも私は歌うとしよう 

かの半妖精の貴人の歌を 


彼女の美は大いなる時の流れにも消え去らず

彼女はその妖精の血ゆえに永き歳月を生きる

そして彼女は貧しき者共へ聖者の如き慈悲を持ち 

その神秘の白き手は万人をも癒す奇蹟 


風のように留まらず

水のように澱まず

彼女は一人この悠久の大地を歩み続ける 

しかし彼女の唇はやはり堅牢なる砦

その理由は未だ誰も知らぬまま


されど私は歌うとしよう 

かの半妖精の貴人の歌を

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