第122話 コラボ配信の計画を立ててみよう
(三人称視点)
「……」
マカリアキヒトは、トオルとシドウの会談を静かに見守っていた。
今日の彼の役割はシドウの護衛だ。とはいえ、あくまで体裁上のものだが。
トオルがこの場にいる以上、ここは世界で一番安全な場所だろう。仮にマカリの出番があるとしたら、それはトオル以上の脅威に襲われるという意味だ。最早護衛など成り立つわけがない。
それに。
(直に見てよくわかった。……圧倒的だ、この存在は)
サカガワトオルを目にした瞬間、
まるで宇宙そのものを凝縮したような人間、いや超越者。
【召喚術】というトオルと同じ、空間に関わるスキルを持っている分よく理解した。その次元の違いを。
(まさしく怪物、とても人間とは思えない。全人類が束になって挑んでも、この存在には傷一つつけられないだろう。……なんで料理店なんてやってるんだコイツ?)
同時に、自分にそれほどの力があれば……と、黒い感情が沸き立つのを自覚する。
かつては彼も、“最強の探索者”という夢を追いかけた時期があった。事実、一時は国内最強の立場にまで上り詰めた。
だがそこが限界だった。当時世界最強といわれたアルベルト、そして超新星として一気に高みへ上り詰めたホムラに、マカリは追いつけないでいた。
その現状を打破する鍵を手に入れるために、トオル、そしてホムラと直に接触する狙いで、今回の護衛依頼を引き受けたのだが。
(聞けば、既にホムラアカリは深層の攻略を始めたのだとか。
……クソッ、少し前までは俺の下だったのに、どうしてこんなに差がついた? 俺と彼女の何が違う?)
「…………」
嫉妬の感情を抑え込みながら、マカリは沈黙を続ける。
その時、横からやってきた少女が、マカリの元に水入りグラスを置いた。
「どうぞ、お水です」
「おや、これはどうも」
ポーカーフェイスを保ちながら、少女に礼を伝える。
その白髪の少女は、目を見張る程の美少女だった。
(シラユキヒョウカ、だったか。画面越しには知っていたが、直に見ると確かに美しい――?)
それは、熟練の【召喚術】スキル持ちとしての直感だった。
戦闘能力皆無の、ただの美少女。しかしその身体に、一瞬
(なんだ、今の
マカリの意識は、先ほどとは別の意味でシラユキに集中していた。
今の感覚の正体。それを突き止めれば、この停滞した現状を打破できるのではないか……。
無力な少女の纏う
そんな閃きが、マカリの脳内に焼きついていた。
◆
(一人称視点)
いやぁ、あの時は大変だったなぁ……
勝手にシドウさんに連絡したことをシラユキちゃんに怒られて、その後二人で必死にアイディアを絞り出して……
シラユキちゃんは深夜になっても一緒に考えてくれた。俺一人ではきっとここまで辿り着かなかっただろう。感謝してもしきれない。
「さて、世間話はこれくらいにしまして。そろそろ今回の本題に移りましょうか」
「そうしましょう。今日はコラボ配信の案件を具体的に詰めるとの事でしたが……?」
そして訪れた本番当日。シドウさんにこちらの経営戦略をプレゼンする日だ。
現状、停まり木亭を更に俺の理想へと近づけるには、ダンジョン協会の協力が不可欠。
俺が勝手に何か作戦を立てた所で、協会の許可を得ていなければ世間からの批判を買う。それはお店にとっては逆効果なのだ。
「ええ。まず今回のコラボ配信の目的としては二つ。一つはこの止まり木亭が、ダンジョン協会に正式に認可されたものだと世間に周知したい、というものです」
……現状ウチの店は公的機関に、正式に認められたものではない。
ダンジョン内部、かつ俺がこの世界の人間ではない事を抜け穴にしているようなものだ。これが地上で、なおかつ俺が現地の人間なら色々な法律に引っ掛かるだろう。多分ダンジョン食材の安全性とかの問題で。
ホムラちゃんは協会に属する探索者だが、彼女の意思はダンジョン協会の意志を何ら反映したものではない。あくまで彼女が個人的に遊びにきているだけだ。
この世界の問題がひと段落した以上、俺もこの世界線に腰を
そこで協会の偉い人、例えばシドウさんにコラボ配信を承諾してもらえれば、
「そしてもう一つの目的は、止まり木亭が新たに始める経営戦略を、大体的に宣伝したいというものです」
「……ふむ。以前はワープゲートのようなものを配置する、というお話でしたが、あれから何か進展が?」
「幾つかの案を練ってきました。どの案ならば実現可能か、それを相談するための会談です」
亜空間からコピー用紙を取り出し、シドウさんに手渡す。
早速目を通し始めたシドウさんが、ある項目で目を止めた。
「中間地点の設置……調理場と訓練所を兼ねたキャンプ場?」
「ぶっちゃけそれが本命ですね」
さて、シラユキちゃんと捻り出した渾身のアイディア。上手くいくといいのだが。
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