13.覚悟を決めろ。
『銃が役に立たない。なら、例えば何人かで銃を使って攻撃を防御する。相手が囮に集中しているそこに一発撃ち込む、とかどう?』
「うーん、良さそうに聞こえるけど、それは無理ね」
秒で否定された。
「そもそも銃が相手の剣戟に耐えられるかしら?小隊の全滅を報告した兵士によると、一回の剣戟で2人をふっ飛ばしたらしいわよ。そして准尉隊の銃は粗製濫造された銃。壊れるのが目に見えているわ」
「……………あ、なるほど、ちょっと対策法を思いついた」
「え?どういうこと?そんな5秒くらいで思いつくものなの?」
「簡単に言うと、ひたすら耐えろって戦法」
今回の作戦で重要なのは、相手の剣に
「相手の剣は切れない。なんで切れない剣を持ってるのかは知らないけど、多数を相手にするときは斬るより殴るほうが多くの敵を倒せるからかな」
「なるほどね。そして私の隊は体が丈夫で盾役に向いていそうな兵士が多い。囮を彼らに任せ、盾に向いてない兵士は少し遠くからの援護射撃に配置すればよい、ってことね」
私がこくりと頷くと、咲蘭は部下に作戦を伝えるべく他の兵の待機場所に向かった。それから、5分もかからずに咲蘭が中隊を引き連れて戻ってきた。
長身剣士の討伐任務が開始された。まず、できる限り音を立てず目的地まで移動する。そして私を含む狙撃担当の兵士は途中で別れ、敵を挟み込む位置に移動する。
咲蘭が右手で指示を出す。それと同時にこちらの第一陣が大きな音を立てて長身剣士に向かう。彼らには一応2人に1つ防御用の強化ライオットシールドを持たせてはいるが、すぐふっ飛ばされるだろう。
(頼む、相手が油断するまで頑張ってくれ)
強化ライオットシールドでバディの身を守り、守られたバディはライフルで撃ちまくる。できるだけ弾幕を途切れさせないように。
(そろそろ第一陣がぶっ飛ばされ始めた頃かな)
この作戦で大事なのは囮の攻撃をやめさせないことだ。だから、第一陣がへばってきたら第二陣と交代する。そうして3つの隊が代わる代わる休みをとっている。
「謙島さん、まだですか?」
「うん、もうちょっと待って。相手にはまだ後ろを警戒できる余裕がある」
10分くらい経つと、敵の意識も完全に囮に向いていた。後ろを気にしなくなり、前方から来る政府軍だけを注視していた。勿論、飛んできた銃弾は全て弾いているが。
(今がチャンスだな)
「(小声で)敵に狙いを定めて」
潜んでいる他の兵士にもハンドサインで指示を出す。天井裏の通気口に潜んでいる兵士にも伝わっているだろう。
「撃て」
その言葉が発されたとき、いくつもの銃弾が一斉に発射された。発射されて0.5秒後、一気に敵に近付き、隠し持っていたリボルバーで5m先から相手を撃った。その一瞬、剣士がこちらを血走った目で睨み、手の長剣をこちらに投げつけた。その次の瞬間には剣士が倒れ込んでいた。投げられた長剣は私の右30cm横に突き立っていた。
(脈なし、向こうに回収されなければ大丈夫かな)
警戒しながら近寄って生死を確認する。どうやら一発で仕留められたようだ。
「ササ、ナイス采配」
「咲蘭もありがとね。…ああ、誰かにコイツを運んでもらわなきゃ」
それを聞いていたのか、処理専門の兵士がやってきて手早く持ち去っていった。
「これで重大任務は終了かしらね」
「さあ、新しいのが出てくるかも」
咲蘭の懸念は当たらず、その日は他の部屋を鎮圧しただけで終わった。
ゴーストビル 10階
11階陥落。その知らせが入ってきたのは10階の仮拠点に戻ってからちょうど10時間後だった。結構手間がかかったようで、帰還してきた兵の多くは負傷していた。だがここに持ち前の悪運で無傷のまま帰還してきたやつがいる。
「どーだササ、すげぇだろ!俺は絶対傷を負わないんだぜ!今回も、そしてこれからも…☆」
ご覧の通り、緋夏汰である。一応20代なのだが、これだけ見ると8歳児ぐらいにしか見えない。
(さすがは精神年齢10歳だあ〜、言っていることがバカすぎる)
「お前絶対失礼なこと考えてただろ」
「か、考えてなんかないし…?」
つい動揺してしまった。隠さなくてはいけないのに。
「まあいいや、それよりもさ、あと9階だろ、制圧完了まで」
そうなのだ。いつの間にか11階まで攻め落とせたのである。"黄界"軍の練度が低く数もないため精神論的な突撃や攻撃が多く、すぐに倒すことができるのだ。
(でも20階はめちゃくちゃ大変そうだな……あそこ教団の本部だし)
一番いいのはこのペースを崩さずに20階まで制圧することだ。だが20階は難しいだろう。切れ者教主も含め、"黄界"の最大戦力が集まっているのだ。強敵が待っているだろう。あるいは教主が一番の強敵かもしれない。
そこまでいくと少し怖気付いてしまう。だから、それを断ち切る意味も含めて、緋夏汰にこういった。
『ここまで来たんだから最期までやろう。他の人が享受している幸せを捨ててここにいるんだから。ここで精一杯頑張ることがかつて幸せを捨てた自分への対価みたいなもんなんだ』
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