第279話 再会
3人の治癒魔術師のおかげでひとまず動けるようになったオレは身体を起こして立ち上がる。
左腕は動かない。
エクスカリバーを握った後遺症だろうか。
あのやろう……
オレはエクスカリバーを恨みながら、一歩進んでみる。
しかし、身体がふらついてしまう。
「おお?」
「ライ様!」
すぐにリリィが肩を貸してくれた。
「ありがとう、リリィは優しいなぁ」
「いえ、当然のことです」
「リリィは優しくって奥ゆかしくて清楚で美人で可愛くって最高。声も可愛い」
「あ、あの……ライ様」
「キスしていい?キスしたい!」
「やめなさい、こんなところで」
おっほん、と咳払いをしてユーシェスタさんが割り込んできた。
「あ、いたんですね」
「ずっといました、リリィの隣に」
「あ、そうなんすか」
はて?そうだっただろうか?オレの目にはリリィしか映っていなかったのだが。
「あなた……仮にも義理の母ですよ。もう少し気遣ってもらわないと……」
「すみません…」
リリィに支えてもらいながら頭を下げた。
「いえ、そんなことはいいのです、一言言いたくて」
「なんですかぁ?オレ疲れてるので小言はちょっと……」
「はぁ……あなたという人は……
……ありがとうございます」
唐突に頭を下げだすユーシェスタさん。
「え?」
「リリィを救ってくれて。そして、このレウキクロスを救ってくれて。
ありがとうございます。ライ・ミカヅチ、あなたは英雄です」
「え?いやいや、べつにオレだけの力じゃないし……」
「いえ、あなたには、必ず国をあげて謝礼を述べさせていただきます。ですので、もうしばらくお力をお貸しください」
言いながらユーシェスタさんが膝を折って頭を下げた。何人かの魔導師がその後ろについて同じようなポーズを取る。
「あ!頭を上げてください!オレは妻を助けに来ただけで!国とか町とかは!その!ついで!ついでです!だから気にしないでください!」
「ふふ……ついでで町一つ救った、というのですか?リリィ」
「はい」
「あなたの旦那様は本当に面白くて、それに優しくて、とても強い人ですね」
「はい、自慢の旦那様です」
「は、恥ずかしい……」
「人前でリリィにキスをしようとしていた人がなにを言ってるんですか」
ペン!
ケツを叩かれる。
「いたいっ!」
「なにを言ってるんですが、あんな戦いをしていた人がこの程度で。それよりもほら、家族が到着したようですよ」
ユーシェスタさんに促され、教会の入り口を見ると、オレたちの家族が全員揃ってこちらに歩いてくるところだった。
リリィと一緒にそちらに向かう。
みんな、すぐに気づいて駆け寄ってきてくれた。
「よっと」
オレはリリィの肩を離し、1人で立つ。
「ライ様、大丈夫ですか」
「うん、それよりもリリィはあっち」
みんなの方を見るように言って、リリィの背中を押した。
リリィはそのまま数歩前に進み、その前に、ソフィアがピタッと立ち止まる。
「なによ!ぶ!ぶじ………だった!……の………う、うう…うぁぁぁぁん!!」
悪態をつこうと思ったのだろう。
でも、できなかった。すぐにリリィに抱きつく。
「リリィ!リリィ!あぁぁぁぁ!!!」
大声で子どものように泣き喚くソフィア。
「ソフィア、ごめんなさい……」
リリィも泣きながらソフィアの頭を撫でた。
「わた!わたし!……これでリリィとお別れなんじゃないかって……う、うう……
でも、ライが助けるっていうから…信じて……うっ、うっ…リリィ…リリィ……」
「はい…はい…ごめんなさい……心配かけて……」
「うぅぅぅ…リリィ……もう1人で戦わないで…わたしたちを頼ってよぉ…」
「はい…はい…」
「わたし……ぐすっ…ぐずっ…わたしね…リリィのこと…本当のお姉ちゃんみたいに……おも、思ってて……大好きなの……うぅぅ…リリィ…だから…」
「はい、ごめんなさい……わたしもソフィアのことは妹のように愛してます……大好きです……もう、1人では戦いません……」
「うん…うん…」
2人はそのまま涙して抱き合った。
「ボクも!ボクだって心配だった!ほら!ミリアも!」
「う、うゆ…リリィ…ちゃん…」
ミリアはポロポロと泣きながらリリィに抱きついて、
コハルは抱きついた途端、大声で泣き出した。
3人に抱かれリリィも涙を流す。
しばらくして、3人が離れた後、ティナが近づいた。
「無事で良かったのじゃ」
手を差し出す。
「はい、ありがとうございます」
ぎゅっと握手する2人。
「わしらはあの手のかかる旦那様を相手せねばならぬ。勝手にその役割を放棄することは許さぬぞ?」
「はい、重々、今回のことで思い知りました。もう、自分のことだけ考えて、投げ出したりしません」
「それならよいのじゃ。わしからはそれだけじゃな。……いや」
首を振ってから前に出てリリィを抱きしめるティナ。
「無事で、本当によかったのう」
ツーっと涙を流す。
リリィも同じように抱きしめた。
「ありがとう、ティナ……」
「……」
「ステラ……」
最後にステラだ。
リリィの方からステラに近寄った。
なぜなら、ステラから駆け寄ることはなかったからだ。それに、ずっと怒った顔をしている。
「ステラ……あの……」
「……リリィ……」
「はい……」
「あなた、みんなにどれだけ心配かけたかわかりましたか?」
「はい……」
「じゃあ、歯を食いしばりなさい」
「はい……」
目を瞑るリリィ。
パーン!!
思いっきり頬を引っ叩くステラ。
「痛いですか?」
「いえ…」
「わた、私たちは……私たちは!!その百倍痛かった!!」
ボロボロと我慢できなくなったように泣き出す。鼻水も出てぐちゃぐちゃだ。
「その百倍痛くて!苦しくて!辛かった!!このバカ!!」
「はい……はい……ごめんなさい……」
リリィもステラの涙をみて同じくらいボロボロと泣く。
「リリィ……」
ぎゅっと抱きついた。
「無事で……本当によかった……」
「はい……ありがとう……ステラ……」
そんなみんなとのやりとりを、オレはずっと号泣しながら、でも声を出さないように見ていた。
ふらふらしていたのに気づいて、ソフィアとコハルが支えてくれている。
「よ…よしっ!ご飯にしよう!ステラのご飯が食べたい!!みんなでご飯!」
「ぐすっ……もちろんです!いいですよ!たんとお食べなさい!」
こうして、オレたち家族はまた一つになることができた。
ユーシェスタさんの元にもどり、みんなで食事の準備をする。
避難してきた人たちも食べたそうにしていたので、なるべく多く作って、分け与えた。
家族みんなで囲う食卓は本当に幸せで、もうこの幸せを離してはダメだと強く意識するようになった。
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