第262話 クロノス教会の意向

正面のソファに座っている女子2人は、

「クッキー…おいしいね…」

「ねー!」

 なんて言って嬉しそうに会話している。


 オレは隣のクリスの方に身体を向けて座り直し、話し始めた。


「あー、まぁ、これといって用があって来たわけじゃないんだけど、リューキュリアの人たちのこと、相談しようと思って。

 レウキクロスでは、昨日の小競り合いってどう処理されそうなん?その辺りも気になってたから」


「なるほどね。じゃあまずは、レウキクロス側の対応について、クロノス教会の考えと聖騎士隊のこれからの動きについて話そうか」


「おう、頼む」


「まず、クロノス教会の2人の枢機卿の間では意見が割れているみたいだよ。リューキュリアに対して宣戦布告すべきって意見と、まずは事情を詳しく聞こうっていう意見」


「なんだその2択、もちろん後者が採用されるよな?」


「それは……わからない」


「おいおい……んで、聖騎士隊は?おまえがなんとでもできるもんなのか?」


「いや……僕はあくまで聖騎士の象徴だから、軍事権は無くて、聖騎士隊を動かすことも、止めることも自由にはできない」


「つまり?」


「クロノス教会から命令が下れば……」


「リューキュリアに攻め込むしかない」


「うん……」


「おまえ、聖剣やめたら?」


 あまりに苦しそうに話すクリスが哀れになってそんなことを口走る。


「え?」


「いや、だって、そんなツラいならやめろよ。メンタルやられるぞ?」


「メンタル?」


「えーっと、心が持たないぞってこと。リューキュリア攻めるなんてやりたくないだろ?」


「うん……それはもちろん……でも!僕には責任があるし!」


「なんか、ステラのときを思い出すなぁ…」


「ステラさんの?」


「ステラはエルネスタ王国の騎士団長だったんだよ!」

 コハルがクッキーをほうばりながら自慢げに言う。


「西方支部のね」

 と補足する。


「でさ、ステラも責任がどうとかって騎士を辞めるのを躊躇してたけど、オレが無理やり辞めさせた。ステラのためにならない騎士団だったし」


「無理やりって……そんなことして大丈夫だったわけ?」


「さぁ?とりあえずオレたちはもうエルネスタには入れないと思う」


「ははは……なんかすごい話だな……」


「おまえを無理やり連れ出すつもりはないぞ?男なら自分で決断しろ」


「うん……そう…だよね…」

 なんだかしょんぼりしてしまうクリス。


「ライ、ひどくない?」

「クリスさん…かわいそう…だよ?」


 え?オレが悪者?


「ははは、大丈夫大丈夫。ごめんね、2人とも、ライを責めないでやってくれ。聖騎士隊をすぐ辞めるってのは出来ないけど……うん……もしリューキュリアを攻めろって言われても!僕はみんなを止めるように動くよ!」


 暗い顔をやめ、少しスッキリしたような顔で前向きな様子を見せてくれた。


「そっか、ならいいけど。ま、ツラかったら気軽に話せよ、話くらいなら聞いてやる」


「うん、ありがとな」


「あいあい」


「ボクにも相談していいよ!」


「ミィも…力になれるか…わかんない、けど…なんでも、聞くよ?」


「うん、2人もありがとう。すっごく心強いよ」


 笑い合う3人。それを見て、クリスのやつもすっかり仲間になったな、と感じる。


「んで、クロノス教には過激派と常識派がいるってのは分かったけど、リューキュリアの人たちをどうすべきかについて話そう。彼らの話だと、ウチナシーレはモンスターに襲われて、そこから逃げてきたってのは間違いないらしい」


「ユウもそう言ってたしね」


「そうだな、避難民は1000人近くいたけど、それだけの人数をレウキクロスで保護するっては無理だよな?」


「人数が、というよりもリューキュリアの人、ってのが問題だね。過去のいざこざもあるし、昨日の戦いがあったから今は絶対町の中に入れてくれないと思う」


「まぁ、そうだよなぁ……なら、ウチナシーレに戻ってもらうしかないか」


「それが現実的だとは思うけど、帰れって言って帰るものかな?」


「どうなんだろうな?そもそもなんで彼らは戻らないんだろう?」


「首都が……壊滅、してるからとか?」


「壊滅……」


 顔を見合わせて、息を呑む。


「でも、たしかにそうでもなけきゃ。あれだけの人数で逃げてこないだろうし、首都を取り戻そうとするよな、普通」


「うん、普通はそうするよ。都市機能が復旧不能なレベルまで壊されているか、もしくは、まだモンスターがたむろしていて入れないか、どっちかじゃないかな?」


「だな、どっちかな気がする。あー、昨日、ジャンに詳しく聞けばよかったな。食事を配るのに必死で忘れてた」


「近いうちにもう一度会いに行った方が良さそうだね。そのときは僕も連れて行ってほしいな」


「おまえが?その格好で?」


「いや、最初はいつもの変装で行くよ。聖騎士隊ってだけで攻撃されそうだし」


「そこまで血の気多い感じじゃなかったけど、少なくともジャンは。まぁでも、最初は変装してた方がいいだろうな。で、なんでおまえが行くの?」


「リューキュリアとアステピリゴスの架け橋になりたいんだ」


「なるほど、かっこいいじゃん」


「茶化すなよ、僕は真剣だ」


「別に茶化してないけど」


「ならいいけど」


「クリス!クッキーおかわり!」


「コハルちゃん…ダメだよ…真面目な話…してるよ?」


「えー!ボク難しい話わかんないからさ!ようはみんなを助けて幸せにしよう!ってことだろ!モンスターがいて困ってるならボクたちで倒せばいいと思う!」


 コハルの提案を聞いて、たしかに、それができるならそれが1番だと思った。でも、首都一つを壊滅させるようなモンスターが相手だ。オレたちが太刀打ちできるのだろうか?

 いや……厳しいのではないだろうか。


「えーっと……あ!クッキー持ってくるね!」


 オレと同じことを考えていただろうクリスは、指摘するのを放棄したらしい。


 ま、コハルのキラキラとした目を見たら言えないよなぁ。うん、オレも言えないもん。


 オレたちは、そのあとも話し合いを続けたが、特にいいアイデアは出ず、ひとまず食糧の補充のためにまたジャンたちのところに行こうそのときはクリスも一緒に、という結論を出して、解散することになった。


「じゃ、またな」


「うん、また」


「あ、オレたちは前と同じ宿屋に泊まってるから、時間があったらいつでも来いよ。ギルドでの依頼もしばらくは受けれそうにないし」


「うん、わかった、たまには顔を出すよ」


「ボクたちも会いに来てあげるよ!」

「ミィも…」


「うん、ありがと」


 オレたちは手を振ってクリスのもとを後にした。


 今後についてどうすべきか、宿に帰ったらみんなともう一度話し合おう。難しい問題は1人で悩まずみんなで話した方がいい、そう考えて、宿への帰路を歩いていった。

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