第11話 頑固なシスターを攻略しよう

 ギルドの寝床に戻ってきたオレは、「あーやっちまったかなー」という後悔の念にかられていた。


 攻略スキルに書かれたアドバイス以外に、だいぶ自分勝手な行動をしてしまったからだ。


 ただ、アドバイス自体を無視したわけではないので、それ以外の行動がどう攻略に影響するのかが予想できず、怖かった。


「ふぅ…」


 覚悟を決めて、好感度を確認する。


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リリアーナ・クローバー

 好感度

  32/100

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「えっ」

 かなり上がっていて驚いた。


 いや、まだまだ低いといえば低いけど、前見たときは6/100だったから、かなりの上昇だ。

 思わずニヤニヤしてしまう。


 そっかそっか♪あれで良かったのかー♪


 ゴロゴロと寝転びながら、オレは満足感を持って眠りについた。



-翌朝-


 新しい攻略アドバイスが表示された。


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これから毎日、モンスターの討伐を行い、帰りに教会に立ち寄ってください。

そのとき、必ず怪我をした状態で訪れ、リリアーナの治療を受けてください。

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 ふむふむ、なるほどね。


 まぁ、教会には毎日通うつもりだったけど、そっか、毎回治療してもらわないとダメなのか。


 オレは立ち上がり、モンスター討伐に向かうことにした。


♢♦♢


 モンスター討伐後、オレは教会に向かっていた。


 今日はスライムを相手にしたのだが、あっさり倒してしまい、うまい具合に怪我をするのに苦労した。


 何匹も倒すことになったのだが、最終的には剣も魔法も使うのをやめて、スライムのやつを鷲掴みしてみたら、皮膚を溶かされたのか火傷のような怪我をすることになった。結構痛い。


 スライムが嫌いになりそうだ。かわいく人型に変身したら別だけどね。


 ボク わるいスライムじゃないよ。的な


 前世の記憶を思い出しながら、火傷した右手をかばいつつ、紙袋をもって教会の扉を開ける。


「あら……本当に来たんですね…」


 リリアーナはジト目をしている。


「まぁ、約束したしね。あ、これ寄付品です。例によって、すぐに食べなければ教会を破壊します」


「……いつか天罰が下りますよ?」


「そうかもしれませんね」


 祭壇に紙袋を置いて祈りを捧げる。


 リリアーナも同じポーズだ。


 祈り終わると紙袋を手に取って、ほいっとリリアーナに渡す。


 リリアーナは、ムっと逡巡する素振りを見せるも、「いただきます」と素直に食べ始めてくれた。

 オレになにを言っても無駄だと悟ったらしい。


 それから、右手を庇っているのに気づいたのか。


「その手、どうしたんですか?」とイヤそうに聞いてくれた。


「あー、今日スライムと戦ったときにヘマしちゃって」


「ホントに冒険者だったんですね」


「なんだと思ってたのさ」


「山賊とかでしょうか」


「ひどくない!?」


「蛮族ではありますよね」


「おっ!うまいこと言うね!蛮族山賊ぞっくぞく!」


 そう返すとリリアーナはソッポを向いてしまった。少し震えている。

 もしかして笑うの我慢してる?


「んんっ……手見せてください。治します」


「おー、助かります。シスター」


「ヒール」と唱えて治してくれる。


「ありがとう。あの…これお布施です…」


 オレは、申し訳なさそうに銀貨が2枚入った袋を渡した。昨日渡した袋には、銀貨10枚を入れていたのに今日は2枚だけだ。情けないがオレのお財布事情では毎日銀貨10枚はキツイのだ。


「……ずいぶん減りましたね。お布施は気持ちじゃなかったんですか?」


「いや!感謝の気持ちはあるんですが!

 自分、駆け出し冒険者でして…あまり懐があったかくなくてですね…」


 言ってて情けなくなる。


「……かっこわるいですね」


「うっ!」


 これはツラい。好きな子にダサいと思われてしまったようだ。


「冗談ですよ。これでも多いくらいです」


 そういって、少し微笑んでくれた。


 あー可愛い。天使なんじゃないだろうか。


 オレがジーっと見つめていると、また不機嫌そうな顔に戻って、


「はい、治療は終わりましたよ」

 と、帰れと急かされてしまった。


「また、明日もくるよ」


「………はい」


 来るな、とは言われなかった。今はそれで良しとしよう。


♢♦♢


 それからオレは毎日教会に通う日々を繰り返した。


 モンスターを討伐し、無理矢理怪我をし、教会でリリアーナに手当てをしてもらう。そして、ご飯を食べさせ、治療費を払う。それの繰り返しだ。


 その間、リリアーナは3日に一回ほどのペースで町に訪れ、町人たちに同じような対応をされていた。


 それを見るたびにムカムカしたが、オレが暴れるとややこしいことになるのは目に見えていたので、自分のできることに集中することにした。


♢♦♢


-2週間くらい経ったある日-


 リリアーナがまた、あの八百屋で果物を買おうとしていた。

 おばちゃんはいつもの明るい対応はしなかったものの、なんと通常の価格で取引をしてくれたのだ。

 以前は、リリアーナに対してだけ、リンゴ1個500ルピーとかでぼったくっていたのだが、今日は200ルピーでリンゴ2つとミカン1つを紙袋に入れて渡してくれた。


 リリアーナは満面の笑みでお礼を言っていて、それを受けたおばちゃんはバツの悪そうな顔をしていた。


 ちなみに、この現象には少し裏がある。オレがおばちゃんに口添えしておいたのだ。

 攻略スキルで同時に攻略対象を設定できることに気づいたオレは、おばちゃんの好感度を80近くまで上げていた。


 その上で、「異国から来た少女には優しくするもんだ」とか、「優しいおばちゃんの方が好きだよ」とか言ってみたりしたのだ。


 …あんまりやりすぎて、好感度が上がりすぎないように調整するのが非常に難しかった…

 おばちゃんの好感度が90近くになったとき、染まった頬で熱い目を向けられたときはゾッとしたものだ。


 そのときのことを少し思い出しながらも、ルンルンで教会に帰るリリアーナを物陰から確認して、オレはとても満足感を覚えていた。

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