第10話


 このはの思わぬ行動で、スタートダッシュが出遅れたゴローさん。

 その隙にこのはがフリスビーをキャッチすると、駿介の元へ戻ってくる。

 どう突っ込めば良いか困る駿介。


「ゴローさんに勝つなんて、このはは凄いな」


「そうね、このはちゃん凄いね」


「フフン。まぁね!」


 このは、ドヤ顔である。

 駿介としては「次(投げるのを)このはもやるか?」と聞いたつもりだったのだが、走る側と勘違いされてしまっていた。

 まぁ、本人が満足気味だしそれで良いやと考える事を放棄し、フリスビーを受け取ろうとする。


 が、このはは離さない。駿介が「オイ」と声をかけると、このはは頭を差し出した。

 撫でろという意思表示である。ゴローさんがフリスビーを取るたびに撫でられているのだから、自分も撫でられる権利があると言わんばかりの。

 このままじゃ埒があかない、仕方なく撫でようと右手を出そうとして引っ込める。右手はフルスビーについたゴローさんのよだれでべとべとだったので。

 

 左手で軽くわしゃわしゃとこのはを撫でると、フリスビーが返却された。

 その後は、このはとゴローさんのフリスビー対決だった。

 

 お互いに一進一退の接戦勝負である。

 実際の所はゴローさんが適度に手を抜いてくれているだけなのだが。ゴローさんが本気を出したらこのはに勝ち目がないので。

 ほら、駿介が投げたフリスビーを取りたいんでしょ。今よ。ゴローさんはこのはが取りやすいように、邪魔にならないようにコースを考えて走っている。

 ゴローさん、男前である。名前に反し性別はメスなのだが。なのでゴローさんは良い女である。


 かくして、賢い金髪のゴローさんと、アホな金髪のこのははフリスビー対決で友情を深めていった。

 そして、時間が経った。


「すまん、ちょっと休憩させてくれ」


「私も……」


 フリスビーを投げる側の駿介と真紀がバテ始めていた。

 対して、ゴローさんとこのははまだまだ元気いっぱいである。

 

「えぇ~」


「くぅ~ん」


「遊び足りないならリード渡すから、二人で散歩してよ」


 ゴローさんの首輪にリードが付けられる。

 このはがリードを持つと同時に、一人と一匹は駆け出して行った。

 ただ一緒に走るだけでも楽しいのか、このはが笑い、ゴローさんが「ワン」と答えるように返事をする。

 そして、時間が経った。


「きゅ~ん」


 ゴローさんも流石にバテたようだ。

 このはも同じくばてたようで、ヘラヘラと笑っているが顔には大量の汗が浮かんでいる。


「ゴローさん、後でまたフリスビーしよ!」


 木陰で休む駿介たちの元へ戻り、ゴローさんにそう言うと電池が切れたようにその場で寝ころんだ。

 すぅすぅと寝息を立て始めるこのは。

 

「ん? ゴローさんどうした?」


 ゴローさんは駿介の右腕の裾を軽く咥えると、クイクイと引っ張り、このはの頭の上まで誘導する。

 飼い主なんだから、ちゃんと面倒を見てあげなさい、と言いたいのだろう。

 ゴローさんの意図に気づき、駿介が仕方がないといった感じでこのはの頭を撫でる。


 その様子に満足したのか、ゴローさんはフンスと軽く鼻息を出すと、真紀の元へ向かって行った。

 飼い主に撫でてもらうために。


 このははゴローさんと遊ぶために来たのに、ゴローさんに世話をされてはどっちが遊んであげたのか分からない。

 気持ちよさそうに眠るこのはを見て、駿介は軽いため息を吐く。


(ゴローさんみたいな賢い犬も悪くはないが、少しアホな犬の方もアホ可愛くて良いかもな)

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