ブログ「eternal」より

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五月八日(日) 投稿者 : ミオ


一日じゅう寝ていた。ものすごく怠い。でも、二晩続けて見た不思議な夢をなんとなく忘れたくないので、ここに書いておく。


誰かが僕の部屋の窓を叩くので起きあがって窓を開けると、黒い霧が風といっしょに舞いこんできて、ディイさんの姿になった。夢の中の僕は、勿論吃驚していたけれど、今晩は、お邪魔します、と当たり前みたいに挨拶したディイさんに「遅いよ、あの晩来て欲しかったのに」とか普通に言っていた(多分、木曜日の夜、またモリヤが家を抜け出したときディイさんに泣き言メールを送ったので、そのときに来て欲しかったという意味だと思う。実際にはメールを送っただけで気が済んで、ぐっすり眠ったんだけど)。

夢の中でディイさんは正真正銘・本物のヴァンパイアで、僕はそのことを知っていた。人間のなかに身を隠してひっそりと暮らしているヴァンパイアは世界中に居るのだそうで、ディイさんもそうして、ロンドンから上海、東京へと渡ってきたのだそうだ。ほとんどの者は静かに隠れているけれど、中には俳優や作家として身を立てているもの好きなヴァンパイアもいて、自分の半生記を何食わぬ顔で小説として出版している者さえいるという。僕は、誰の何という作品がヴァンパイアの手になるものなのか教えてほしい、とかなりしつこくディイさんに食い下がったのだが、「同族を売るような真似は出来ない」の一点張りだった。

ディイさんはひどく疲れて、悲しそうに見えた。背の高い、大人の男の人なのに、迷子の子供みたいな瞳をして、僕のひざに頭をのせてじっとしていた。そうして懺悔するみたいに、また私は獣に近づいた、と呟いた。人間からはとっくに遠い存在なのだけれど、それでも人間を餌食として狩るのは精神的につらい、吸血鬼である以上受け容れざるを得ない摂理を、私は百年経っても受け容れられない、とディイさんは言った。あまりにもディイさんがつらそうなので、僕はひたすら可哀想になってしまって、人間だって、牛や豚や鳥や魚を殺して食べるよ、それと同じ事ではないの、などと自分が人間であることを忘れて言ってしまった。

ディイさんが生前仕えていた主人は伯爵家の跡取りで、まだ子供のうちにヴァンパイアになってしまったのだそうだ。僕と同い年くらいだとディイさんは言っていた。百年近くずっと一緒に居たのに、行方知れずになってしまったらしい。ひどく傷ついているディイさんの頭を抱いて銀の髪を撫で、一生懸命慰めているうちに、僕は自分がディイさんの主人その人のような気分になっていた。

「すみません……、ミオの寂しさを紛らすつもりが、……私が慰めてもらってしまって……」

ディイさんはそう言った。ううん、大丈夫。あのあとモリヤは帰って来たし、今はわたしのそばにいてくれるから。……今のところは。

「今のところは?」

ディイさんはあの紅い瞳で僕の目をじっと見てきた。

「……ミオ、あなたは……何を、不安がっているのですか……?」

僕は催眠術にかけられたように答えていた。……成長すること。体が成長して、今の、少年とも少女ともつかない、曖昧なものでいられなくなってしまうこと。モリヤは、男も女も嫌っているから……

「時間を止める方法が、ひとつだけ……ありますよ。……永遠を……手に入れる方法が……」

低い、甘く溶けるような声でディイさんは言った。

「……私は……ミオに永遠を、授けてあげられますよ……。ミオが、望むなら……」

僕は、ディイさんの言う方法が何なのかを知っていた。永遠を与えられたことで、彼はあんなに苦しんでいるのだ、ということも。それでも僕は逆らえなかった。ディイさんは優しく僕の手をとって、手首にキスをした……


一昨日も昨夜もここで目が覚めた。と言っても一瞬はっと意識が戻っただけで、またすぐに眠ってしまったんだけど。妙に印象が生々しく、遣り取りした言葉もはっきり覚えている。……何とかここまで書いたけれど、実は今、気絶してしまいそうに眠いです。まとまりがないって自分でも思うけど、今はこれが精一杯。おやすみなさい。

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