第3話 生贄の祭壇

 竜への生贄になることが決まった私は、国のはずれの山頂の祭壇へ引き立てられることになりました。いつの間にか私には晒し刑も追加されていました。


『この者、竜を庇い国を滅ぼさんとする魔女なり』


 馬車の荷台に鎖で戒められた私の首からそう書かれた札が下げられ、執行人たちは馬車を進めます。このまま市街をゆっくり一回りしてから祭壇へ向かうようです。


「あいつが聖女を騙っていた魔女か!」

「許せねえ!」


 民衆が道の両端に立ち、次々に私に罵声を浴びせてきます。


「なんてお労しい姿に……」

「まだ18歳でいらっしゃるのに……」


 漏れ聞こえる憐れみの声が胸に刺さりますが、固く戒められた私は自分の涙を拭くこともできませんでした。


***


「聖女様、このようなことになってしまって……」


 祭壇へ到着すると、世話になっていた司祭たちが泣きながら生贄の儀式の準備を始めました。


「聖女ではない、この女は魔女だ」


 そこへ刑の執行を見届けに来たレムレス殿下がやってきました。


「いいザマだ。少しは己の罪を悔いたか?」

「私は潔白です。罪のない女性を処刑する貴方に神はお怒りになるでしょう」


 殿下は私の様子が気に入らなかったのか、私に唾を吐きかけました。


「民衆の声を聞いて少しは利口になったかと思ったら、相変わらずの頑固な女だ。はやくこの女を祭壇に縛り上げろ」


 殿下の命令で、生贄になるための儀式が始まりました。罪人の服すら纏うことは許されず、私は祭壇の中央にある磔台に鎖で吊されました。


「く、う……」


 吊された痛みのせいか、私の目から涙が流れます。聖女として毅然とした態度を貫いてきましたが、本当は今から殺されるなんてとても怖いし悔しい。


「竜の子を助けただけなのに、どうして……」


 神の教えに従ったまでの私を罪人としたレムレスと司祭長、その他の民衆を私は強く呪いたくなりました。しかし、私はロメール国の誇り高き聖女として18年を過ごしました。自身の最期が悪しき心のままでは、神の御許へ行くことなど恥ずかしいと私は精一杯神に祈りました。


「神よ、私の至らなさで民の心をいたずらに乱しました。この愚かしい魂を、どうかお救いください……」


 司祭たちが唱えているのは、古来に禁呪とされた竜を召喚する呪文のはずです。青空の下呪文が響き渡りました。すると急に辺りが暗くなり、ごうごうと風を切る音が辺りの木々を揺らしました。


「来たぞ!」


 恐ろしい魔力を秘めた竜が私たちの前に姿を現した。まるで家のような巨体に広げれば森の木陰のように辺りを暗くする羽根、そして深い海のような真っ青な青い鱗を持った竜は私の前に降り立ちました。それから竜は咆哮をあげ、祭壇の私へ近づいてきました。


「あ、いや……」


 竜が鋭い牙で私を吊している鎖を噛みちぎると、私は祭壇の上に叩きつけられました。そこに竜の牙が大きく迫ってきます。


「い、いやあああ!」


 竜は私を頭から口の中へ運びました。私は神に祈りながら、気が遠くなっていきました。

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