第3話

 出会いから早一ヶ月……。二人は今だにそこに居た。


「なぁファム。もうそろそろ……ええんちゃう?」


「そうね。約束通り、行きましょうか。スルトへ」


「マジか! いよぉぉぉし! 帰れるー!!」


「スルトまで、歩いて三ヶ月かかるのよ? あらためて思うけど、私に会いに腰蓑だけの裸一貫で来たかと思うと……ドン引きよ」


「耳は伸ばせ。服なんぞの自然の物じゃないもん着ていくな。肌の露出は、有れば有る程仲良くなれる。ふっ、ランドさんよ……。必ず見つけ出して……コ◯す! 絶対に! 絶対にだ!!」


「もう、なんて言うか……いろいろ通り越して可哀想ね」


「そんな可哀想なものを見る目でー! あっかわいい。 あーっ! 空きれーいい!」


「ふふっ。ありがと」


「何やねん! もう俺だけ、生肉やら雑草やら食うて過ごしたこの一ヶ月とはオサラバや! うおおおおおー!!」


 シドが、土煙りを上げて走っていく。200mほど走った所で止まり、こちらをチラチラと見る。


「くっそ可愛いな。笑っても可愛い。あんな目で見てきても可愛い。なんや、ただの天使か。あかん! 見たらあかん! ……。置いてきてもた。戻りにくい……」


「ふふっ。アイツ知らないのね。私、耳がいいのよ。食べ物も酷かっただろうに、私を待っていてくれてありがとう。………。あなたを……利用させてもらうわ。ごめんなさい……」



 二人はスルトへ向け歩き出す。








 二人はスルトへと向かう山の中にいた。


「すまんな。ファムの目的地は、スルト方向や無いんやろ?」


「えぇ。でも良いわ。数ヶ月ぐらい何とも思わないわ」


「そっか。まぁ俺は着いていくだけや!」


〈ガサガサっ〉


「はっ!? アングリーボアっ!! くっ! ここは俺に任せて先に行『レイ』」


〈ジュっ〉


〈ドスン!〉


「言わせろやぁ! 俺コレ言うの好きやねん!!」


「……。アンタ、よく今まで生き残ってこれたわね……」




 体高は、1m50cm程だろうか。アングリーボアの額に、5mm程度の孔が開いている。


「それにしても、すげーなレイ」


「まぁね。控え目に言って、私最強だから」


「レイに植物魔法、ヒールにアイテムボックス……。確かにな」


 ジュクジュクと、アングリーボアが溶ける様に消えてゆく。跡にはピンポン玉程の赤黒い濁った魔石だけが残されていた。


 ファムがそれを拾い、収納した。そして二人はまた歩き出す。


「ところで、スルトにはお金を返しに行くんでしょ?」


「あぁ。借りたモンは返さなアカン! 人として当然の事やで!」


「はぁ……。賭博は一切やるなとは言えないけど、控えることね。その人は金貸しでも無いんでしょ?」


「おう。道具屋のババァやで」


「きっと慈悲深い心を持った、聖人の様な人ね」


「そんな大層なモンちゃうぞ? しばらく帰って来ぇへん言うたら、ブチギレて追いかけられた! あんの守銭奴め!」


「当たり前じゃないの。 アンタ、お金を借りてる自覚あるの?」


「当たり前や! 毎月返してんねん! やからこうして、金返しに向かっとるんやないか!」


「そういうところよ……はぁ」


 ここまで約二ヶ月。スルトまではあと少し。

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