第97話 王都脱出!(4)
アイカと合流したリティアたちは、踊り巫女姿で白いローブをたなびかせながら、神殿街の隘路を小走りに駆ける。
総候参朝において、リティアが招きに応じた列候の一人、アルデバラン候が祀る太陽神カフラヌスの神殿を目指す。その裏手には、
――恐るべきは、ロザリーの慧眼。
王都脱出後、メルヴェが駱駝を用意してくれているフェトクリシスを目指すとして、そこに至るルートを検討する中で、リティアは深く唸った。
総候参朝で、リティアが臨席する宴を選定したのは、国王付きの侍女ロザリーであった。
その列候領を地図上で線に結ぶと、フェトクリシスに至った。
また、反対側に目をやると、西南伯領ヴールにも至る。
変事を予期していたとまでは思わないが、ロザリーによる選定基準は明らかであった。
――ルーファかヴールに逃れよと、ロザリーが言っている。
リティアは、しばし考え込んだ。
ロザリーは、ヴール、いや、その公女であるロマナと、リティアの秘めた友情も見透かしていた。
「するめを贈った列候さんたちだ……」
と、アイカも地図が示す脱出ルートに気が付く。
すると、カリュがおもむろに地図に印を描き加えた。
「これは……?」
「サフィナ様の差配で、サヴィアス様を招いた列候でございます」
数は少なかったが、王都ヴィアナとフェトクリシスの中間に位置するミトクリアなど、要所を押さえている。
今は姿なきロザリーとサフィナが、互いの腹を読み合い、牽制し合っているかのような図が浮かび上がる。
決して関係が悪かった訳ではない、ロザリーとサフィナ。
それでも、聖山の大地を舞台に、思惑が交錯している。
「するめを辿ればいいんですね!」
「そうだな」
無邪気な笑顔を向けるアイカに、リティアも微笑みを返した。
今はロザリーが遺した道を信じるほかないと、心を定めたリティアだったが、アイカがボソッと呟いた「天衣無縫のするめ姫」という言葉だけは全力で拒否した。
そんな、するめを贈った列候の一人がアルデバラン候であり、貴領の神殿で馬を休ませたいというリティアの申し出を、快く引き受けてくれていた。
「よし! 北離宮まで駆けるぞ!」
愛馬に跨ったリティアの掛け声で、騎馬の一団が地面を轟かせ始める。
ここまで来れば、速度勝負であった。
西街区の騒ぎの対処に人手を割いているヴィアナ騎士団が、リティアの脱出に気が付くのが速いか、リティアが北離宮にたどり着くのが速いか。
夜の静けさに包まれた神殿街を、一目散に駆けて行く。
ペトラ姉内親王は、右衛騎士のクロエの馬に乗せ、ファイナ妹内親王は、左衛騎士のヤニスの馬に乗せている。
――さすが、美少年。
踊り巫女姿のヤニスを、タロウに跨るアイカが、チラチラ見ている。
――男の娘姿もバッチリです!
その時、後方から聞き覚えのある声が響いた。
「待たれよ! そこを行かれるは、リティア殿下とお見受けいたす!」
――見つかった!
と、思わず弓を構えたアイカの目に入ったのは、騎馬で追うカリトンの姿だった。
ヤニスもクロエも、踊り巫女の装束に隠せる短剣しか装備していない。
弓矢を持つのは、トレードマークとして定着していた西南伯の紋が入った弓矢を持ち歩くアイカだけであった。
リティアが脱出を決意したとき、アイカはもちろん付いて行くと言った。その時から、人に向けて弓を構える場面に出くわすかもしれないと覚悟はしていた。が、その相手が浅からぬ因縁のある千騎兵長カリトンであるとは思ってもみなかった。
人に向けるだけでも心に重たいアイカが、さらに逡巡してしまうには充分な状況だった。
――訳を話せば、笑顔で見送ってくれるのでは?
などと、都合良い考えもよぎるが、そんな訳がないと、刹那の時間に思考がグルグルと答えに辿り着かない。
アイカの考えをひとつに収束させたのは、リティアの声だった。
「アイカ! 脚だ! 脚を狙え!」
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