第83話 パステル
「サフィナ様もエディン様も、お守りすることが出来ませんでした」
震える声を絞って平伏するカリュに、リティアは近寄り、肩に手を乗せた。
「よく、生きていた」
サフィナとエディンの最期は呆気なく、寝室に押し入ったヴィアナの騎士に剣で突かれ絶命したとのことだった。
ならば苦しんだのは一瞬のことだったろうと、慰めにならない慰めをリティアは口にした。
しばらく身を震わせていたカリュは、その豊かな胸から小さなキャンバスを取り出した。
エディンが描いていたリティアの絵が、そこにあった。
「これを、お届けしたく……」
差し出されたキャンバスを、リティアは受け取り眺めた。
「アイカとの約束を破ってしまった……」
リティアの頬を、涙が伝った。
「一緒に泣こうと、約束したのに……」
パステルで描かれた拙い肖像画は、涙で滲んで見える。
リティアの喉から、くっと、小さな嗚咽が漏れた。
カリュが、リティアの手に渡ったキャンバスを見詰めて、訥々と語る。
「エディン殿下は……、絵は出来たと仰られ……。今日、お持ちするんだと……、楽しみに……」
カリュの言葉は嗚咽に遮られ、それ以上、続かなかった。
リティアは滂沱となった涙を拭うこともせず顔を上げ、カリュに視線を向けるや、
「はっ!」
と、短い笑い声を上げた。
「カリュ、お前っ!」
リティアの泣き笑う声に、カリュも涙に濡れる顔を上げた。
「その立派なおっぱいに、エディンの絵が写ってしまってるじゃないか!」
キャンバスを取り出すためにはだけた胸元に、赤茶色の髪をした人物が薄く描かれたようになっている。
「あっ……、こっ、これは……」
と、涙顔のまま慌てるカリュに、リティアは涙の流れるままに破顔一笑を向け、笑声を上げた。
シルヴァが静かに目を閉じ、そっと手で涙を拭った。
リティアは涙を止めないままの笑顔で立ち上がり、カリュに命じた。
「カリュ! エディンが描いた私の絵の一部になったお前は、私のものだ。これより先、私に仕えよ!」
カリュは大きく目を見開いた後、その視線をリティアに奪われたまま、はいと、応えた。
カリュの返事に満足したように微笑みを浮かべ、リティアは背を向けた。
「カリュ。エディンに恥じぬ生き方を……、共に歩んでくれ」
という、嗚咽を抑えて絞り出されたリティアの言葉に、カリュは涙を拭い、深く首を垂れた。
側に控えていて、一粒の涙を零したクロエは、
――また、おっぱいの大きな侍女が増えた。
と、思っていたが、言い出せる雰囲気でもないし、キャラでもないので黙って涙を拭った。
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