第8話 緋色の花園(1) *アイカ視点

 ――私の髪の毛、ピンクだ!



 鏡台の鏡に映る、異世界に来て初めて見た自分の姿に驚いてしまった。しかも、瞳の色は金色だ! そして心の年齢より、だいぶ幼い顔立ち……。


 そりゃそうだ。17歳で召喚されて7年山奥でサバイバルして――、身体は13歳。心は24歳。



「子供だ。私……」



 思わず、声に出して呟いてしまった。


 王都に来てからずっと抱いてた違和感の正体が、やっと分かった。皆んなから子供扱いされてたんだ。こりゃ、どう見られてるのか、早目に慣れないといけないな。



 ――ていうか、アイカ、まあまあ可愛いな。



 頭を左右に振って、マジマジと自分の顔を眺める。思ったほど日焼けもしてない。自分が自分でないような感覚は仕方ないにしても、自分で自分を愛でてるような不思議な気持ちにもなった。


 王様との謁見が終わって、応接室に案内されたのかと思ったら、私の個室だという。しかも、この寝室以外にも部屋が沢山ある。広いし。天井高いし。絨毯ふかふかだし。高級ホテルのスウィートルームみたいだ。



 ――侍女って、どんな待遇?



 そもそも、この8階までエレベーターでしたよね。たぶん人力の。


 世界というか地球でも、アリストテレスさんの作った人力エレベーターが古代ギリシアにあったとかなかったとか。


  嗚呼――。日本の家で、父の本棚からとりとめなく乱読してた本をもうちょっと、もう少しちゃんと読んどけば良かった。きっと、異世界こっちで役立つこといっぱいあったのに、知識がなにもかもつまみ食いで中途半端だ。チートってヤツは出来そうにない。


 と、前の部屋から声が聞こえた。



「アイカ? ……殿下がお見えになりますよ?」



 クレイアさんの声だ! 慌てて寝室を出ると、笑いながら部屋に入るリティアさんの姿が見えた。



「ははは。早速、冒険していたのか? アイカ」


「へへっ」



 と、妙な笑いを返してしまった。無造作に選んだ椅子に腰かけるリティアさん。


 さっきまでの薄手のマントを羽織った軍服っぽいお衣裳も素敵でしたけど、少し砕けた感じの部屋着も素敵ですね。



「まずは、アイカの同僚になる私の侍女たちを紹介しておこう」


「は、はいっ」


「侍女長のアイシェだ」



 と、リティアさんが指したのは、ツヤのある鮮やかな紫色をしたショートボブのお姉さん。お姉さんといっても若い。



「よろしくねっ」



 元気印のムードメーカーって感じ。やや丸顔で上司というよりは先輩って雰囲気。ただし美人。



「こっちが、ゼルフィア」


「ゼルフィアです。よろしく」



 と、目を細めるように笑顔を向けてくれたのは、やや小柄で白銀に濃い水色が潜んだ髪色のお姉さん。もちろん美人。



「それに、クレイア。今日からアイカを加えて私の侍女は4人になる」



 どなたも、いつまで愛でても飽きないような美人さんばかり。


 窓の外では抜けるような青空がやや赤みを帯び始めて、雲の輪郭がオレンジ色になぞられている。カーテンも高級そう。3階建て? というほど高い天井には、神様っぽい人たちの絵が描かれてる。その下には緋色の絨毯が敷き詰められていて、優雅に微笑んでる美人に、美少女。


 私。本当に、こんな絢爛豪華な女の花園の一員として迎えていただけるのですか――?

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