第26話
本日は二度目の小学生として初の登校日である。
クラス発表や担任の紹介などは入学式の時に教えてもらっていた。
そこで沖長とナクルが同じクラスなのも分かっていて、ナクルは同じクラスであることにとても喜んでいた。まあ、もう一人……例の銀髪少年こと金剛寺銀河も同じなので、ナクルはショックを受けていたが。
現在懐かしい学校の教室へと入り、黒板に書かれていた出席番号順に示された席に座っている。
札月と日ノ部ということで席も近く前後に座ることになった。
「ねえねえ、オキくん! ともだちたっくさんできるッスかね!」
前に座っているナクルがこちらを向いて期待に溢れた眼差しを向けてくる。
「そうだなぁ。ナクルならきっと百人の友達を作れるよ」
この明るさなら、誰にとっても好印象だろうしすぐに友達を作ることもできると思う。
沖長の言葉を受けて嬉しそうに笑うナクルだが、それをチラチラと見ている視線を感じる。言わなくても分かると思うが、その相手は銀河だ。
ナクルを見る時は穏やかな顔つきだが、不意に沖長を見やる時は怒りに満ちている。それを感じつつも沖長は無視しているが。
するとそこへ担任がやってきて、恒例ともいえる全員の自己紹介から始まった。
皆が初々しく、元気一杯に挨拶する子もいれば、たどたどしさもあったり、淡々とこなす子もいたり千差万別だ。
「え、えっと! ボクは――日ノ部ナクルっていいまッス! 仲良くしてくれるとうれしいッス! よろしくおねがいしますッス!」
誰よりも明瞭に自己紹介をしたナクルに、クラスメイトたちが笑顔で拍手を送る。
次に沖長だが、無難というか淡白に名前と「よろしく」とだけ言って座った。ナクルが沖長に向けて「シンプルすぎッスよ~」と不満そうだったが、ナクルのような挨拶なんて恥ずかしくてできないのでこれでいいのだ。
そして自己紹介中でやはり一番目立ったのは――。
「フッ、俺の名は――金剛寺銀河。この学校の覇者になる男だ」
確かに見た目は格好良いし、言っていることもセリフとしてなら有りだろう。
しかし現代でそんな言葉を平然と吐く六歳児なんて違和感でしかない。
(ていうかアイツ、精神的に小学生じゃねえだろ? よく恥ずかしげもなくあんなこと言えるな)
自分なら明らかな黒歴史だ。ひょっとして中二病を患っている時に転生したのだろうかと疑ってしまう。しかしあの転生の場では、誰も中学生っぽい奴はいなかった。
つまりハッキリいって、コイツはただの痛い奴だということである。
しかしながら周りの女子たちは、発言の意味やその気持ち悪さを正確に把握できていなくても、ただ見た目が王子様というだけで見惚れてしまっていた。
そんな桃色の視線を受けつつ、銀河が誇るように流し目でナクルを見つめる……が、
「オキくん、キューショク楽しみッスね!」
彼女は花より団子のようで、すでに興味は給食に向かっている。
自分を一切見ていないナクルに気づき、ガックリと項垂れながら椅子に腰かける銀河。
(ドンマイ……金剛寺)
さすがにちょっと不憫さを感じて心の中で慰めの言葉を吐いておく。
それから一時間目はオリエンテーションということで、先生が考えてきたらしい遊びを交えて親交を深め、二時間目からは初授業が始まった。
科目は国語で、真新しい教科書を開いて、先生が板書をしながら時々生徒を指名して文章を音読させたりする。
(懐かしいなぁ。そういや授業ってこんな感じだったっけ)
記憶的にもう何十年も前なので細かなところは覚えていないが、何となく微笑ましいものを感じる。それはどこか郷愁にも似た想いだった。
しかしやはり感動というのは最初だけで、時間が経つ度に飽きが襲い掛かってくる。
本物の小学生たちは授業に夢中であり、中には今も楽しそうにしている子がほとんどだが、沖長にとってはレベルが低過ぎて退屈さを増していく。
(まあしょうがないよな、こればっかりは)
しかもひらがなやカタカナの書き方や、軽い漢字の練習なんかも恥ずかしささえある。これが普通の授業だとしても大人の知識を持つ自分にとっては苦痛でしかない。
いっそ飛び級制度とかあったらいいのにと思いつつ、クラスメイトと一緒にもう一度ゼロからの学びを進めていくのだった。
三時間目も四時間目も、別段語るようなこともなく終わり、ナクルが待ちに待っていた給食の時間がやってきた。
給食当番を先生が指名し、そこには沖長とナクルがいた。
持って来ていた給食衣に身を包むと廊下に出る。すると壁際には台座が置かれ、その上には料理の入った鍋やら食器が入ったトレイなどがあった。
それらを教室の中へと運び入れ、各自に分けていく。
すでに幾つかの料理は皿に分けられているから、それを一人一人に配るだけだ。
(俺が小学生だった時とちょっと違うなぁ)
その時は、給食室に料理を取りに言っていたし、ご飯だろうが汁ものだろうが、生徒が器に入れて並んでいる子たちに配っていった。
しかし今は、職員が料理を皿に分け、廊下まで持ってくるところまでしてくれているようだ。
こちらがすることといえば、デザートのヨーグルトや牛乳などを各自に配ることと、ポットから茶を入れてやることだけ。ずいぶんと楽な作業になったものだ。
(そういや料理を運んでる最中にこけたりする子もいたし、それを防止するためかもな。それに均等に分けないと不平等だっていう生徒やその親も出てくるだろうし)
今の時代に合わせ変更されたのだろう。こちらとしては料理を入れて配るのも自立性を促すからやらせてもいいと思うが。
火傷したらどうするとか、具材に偏りがあるなどというクレーマーが出ないための処置なのかもしれない。
(今の親は怖えからなぁ)
過保護にも取れる子供贔屓。怪我などしようものなら、親が直接校長室に乗り込むような事態もあった。それは前世でもこちらでもあまり変わらないのかもしれない。
「うわぁ~! オキくん、おいしそーッスね!」
給食を配り終わり、皆が席について一緒に「いただきます」と声を上げる。そしてナクルは、目前の献立を見て目を輝かせている。
「はは、初めての給食でナクルの好きなカレーだな」
特にチキンカレーには目が無い。カレーなら必ず白飯三杯はお代わりをするのだから相当好きなのは分かっている。
今も美味そうに頬張り、どんどん彼女の胃の中へとカレーが消えていく。そしてあっという間になくなると、すぐにお代わりへと走っていった。
クラスメイトたちが「はや~い!」と驚く中、ナクルはそれでも笑顔を絶やさずに、お代わりをすると素早くこちらへ戻ってきて食べ始める。
(……そういやこのヨーグルト、初めて見るな…………回収しとこ)
皆の視線がナクルに向かう中、沖長は初めて見るヨーグルトを手に取り、机を壁にして持ってきて回収し、すぐさま取り出して元の位置に戻す。
こんな感じで気になった給食を、これからも回収していこうと決めた沖長だった。
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