第20話

「ナクル、本当に知り合いではないんだね?」


 修一郎の問いにナクルは何度も頭を縦に振る。


「い、いきなり名前をよんできたッス……。顔も見たことないし、名前もしらないのに……」


 ナクルの言葉に修一郎は低く唸る。


「そういえばもう一人似たような奴もいたよね、ナクル?」

「……う、うん」


 沖長の問いに首肯したナクルだが、さらに驚きを見せたのは修一郎と蔦絵である。ちなみに葵は「モテるのねぇ、ナクルちゃんは」とズレた見解をしているのでそっとしておく。


 もう一人、赤髪の少年と同じようにナクルに絡んでいたのは銀髪少年だ。あの時は赤髪少年にのされてしまっていたが、彼もまたナクルのことを俺のものと言っていたのでヤバイ奴なのは間違いない。


(最近の子……というか、この世界のガキんちょはああいうヤツらが多いのか……?)


 だとしたら日本の将来が不安で仕方ないが。これから小学校に通うことになるので、そこにも奴らと同じような子供が大勢いたらと思うと背筋が寒くなる。

 とりあえずはできるだけナクルを一人にしないようにして、あまりにもしつこいようだと親御さんに報告することを決定しその話題は終結した。


「ということで、これからナクルの傍にいてやってくれよ、沖長くん」


 爽やかな笑顔とともに修一郎が言ってきた。同じく蔦絵も「お願いね」と頼み込んできた。

 そうなのだ。結果的に、今後のナクルの護衛という大役を仰せつかってしまったのである。


 聞けば、通う小学校も同じらしく、これ幸いと白羽の矢が立てられたわけだ。

 葵は葵で「あらあら、沖ちゃんってばナクルちゃんの王子様ねぇ」と微笑まし気で、ナクルは「これからもオキくんとずっといっしょッス~!」と大喜びだ。


 何だか勝手に決められて釈然としないものはあるし、普通に戦えば多分ナクルの方が絶対に強いという確信もあるが、それでも頼られることは素直に嬉しかった。

 それにこんな小さな子が悲しむのは見たくないので、修一郎たちの要求を受け入れたのである。


 そうして話が終わると、葵と一緒に家に帰ることにした。途中、葵が買い物をしたいということで近所の商店街に立ち寄ることに。

 しかしここで子供にとっては退屈な出来事が起きてしまう。それは葵が近所の奥様方と井戸端会議を開催したのである。こうなったら長いのはどこの世界も同じだ。


 ということで家も近いし、葵に言って先に一人で帰宅することにした。

 商店街を出てすぐ近くにある公園を横切ろうと踏み入った瞬間である。


「――――やっと見つけたぜ!」


 そんな言葉とともに現れたのは、例の赤髪の少年だった。


(うっわ、見つかったよ……)


 一気に最悪な気分に落ちながらも、「何か用?」と尋ねた。


「おいてめえ、何でナクルと一緒にいやがった!」

「はぁ……またそれか。ていうか君には関係ないだろ?」

「調子に乗るなよ、モブごときが!」

「あのさぁ、あんまり人に向かってモブとか言わない方が良いぞ」


 確かに前世を含めて、漫画でいえば目立たないモブのような人生を送っている自覚はあるが。


「うるせえよ! いいから今度からナクルには近づくな! いいな!」

「何でそんなこと言われなくちゃならないんだ?」

「いいからモブは主人公の言う通りに動いときゃいいんだよ1」


 これでも大人の思考力は持っているから、できるだけ言い聞かせるつもりだったが、本当にこちらの話を聞くつもりのない相手に少々苛立ってくる。


「どうせお前なんて俺がいることで現れたイレギュラーってだけだろ! 何の力も持たねえくせに俺の物語に入ってきてんじゃねえよ!」


 …………イレギュラー?


 彼の言った言葉に引っ掛かりを覚える。


「どういうこと? まるでこの世界が君の物語で作られてるみたいなことを言ってさ」


 まさかこの歳ですでに中二病にかかっているのかと戦慄を覚えている。同時に前世で自分もまた同じような病に蝕まれていた記憶が蘇り心がキュッとなった。


「フン! やっぱ何にも知らねえか。なら猶更ナクルの傍にいるじゃねえ! これからアイツを救うのは俺であるべきなんだからな!」


 またも妙なことを堂々と言ってくる。


(ガキんちょの物語? ナクルを救う? まるでこれからナクルに悲劇でも襲い掛かるような言い方だけど……いや、仮にそうだとしても何でそんなことを知ってるんだ?)


 どんどん疑問が湧いていくが、素直に質問をしても答えてくれそうにないので、ここは少しでも情報を引き出そうと試みる。


「……君はもしかして未来が分かるのか? だったらスゴイな」


 とりあえず褒めながら良い気分にさせて情報を吐かせよう。


「おお、俺はスゴイんだよ! だからナクルの傍にいて支えるのは俺だ! いや、ナクルだけじゃねえ! アイツらだって全部俺が救ってやるんだよ!」

「? ……アイツら? アイツらって誰? それにナクルに起こる悲劇って何?」

「アイツらはこれから出てくる奴らで、ナクルたちはいろんな悲劇に……って、何でそんなことをモブのてめえに教えなきゃならねえんだよ!」


 少し性急に聞き過ぎたのか、またも彼の怒気が膨らみ始めた。


「ああ、ゴメン。でもほら、もしかしたら何か力になれるかもって思ってさ」

「だから、何の力も持たねえてめえなんてただの足手纏いにしかならねえんだよ!」

「そうかもしれないけど、一人より二人、二人より三人てね。数が多い方が効率も良いと思うし」

「うるっせえ! とにかくナクルもアイツらも全部俺が手に入れるんだ! それを邪魔する野郎は絶対に許さねえっ!」


 これはもう落ち着かせるのはダメかもしれない。


「……許さないとどうするわけ?」

「こうするんだよっ!」


 すると驚く現象が目の前で起きる。

 突如少年の身体から青白い光が迸ったと思ったら、少年が天に掲げた右手に集束し、次の瞬間に沖長に向かって放たれた。



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