第10話 暴虐


 遡ること少し、ティナの駆るゴウレックスはブラックホーンの一斉射撃に手を焼いていた。


「おーっほっほっほ! アナタの実力はその程度でして~?」

「どうしよう、これじゃあ……!」


 浴びせられ続ける銃撃の嵐にたたらを踏むゴウレックス、ふとティナは近くでアイラの悲鳴を聞き付ける。


「うううっ!」


「アイラちゃん!」


 見るとアイラの操縦するキー坊がスネーカーズに巻き付かれたうえ、キルマンティスにメッタ斬りにされているのだ。


「どうやらあちらは片がつきそうですわね。……って、ララミリアさん?」


 射撃を続けながら俯瞰していたマリアは、ゴウレックスの異変に気づく。


「アイラちゃんを……いじめるなああああああ!!」

「グルルオオオオオン!!」


 ティナの激昂と共に咆哮を轟かせるゴウレックスは、ブラックホーンそっちのけでキー坊のところへ駆け出した。


「ちょっ、何事ですの!?」


 ブラックホーンの中で呆気にとられるマリアをよそに、ティナは双眸をオレンジ色に光らせてゴウレックスとシンクロを高めている。


 今まさにティナとゴウレックスは闘争本能を共有しているのだ。


「うおおおおおおおお!!」


 雄叫びをあげるティナの操縦でゴウレックスが駆けつけるなり、頭突きでまずはキルマンティスを突き飛ばす。


「キョロワッ!?」


 ものすごい勢いで吹っ飛ばされて闘技場の壁に叩きつけられたキルマンティスは、そのままバチバチとショートを起こしてフリーズしてしまった。


「な、何なんすか……?」

「ティナ……?」

「や、やるデスか!?」

「ギシューーーーー!!」


 キー坊に巻き付いたままスネーカーズがマシンガンで射撃するも、逆にゴウレックスとティナを逆上させてしまい。


「今度はお前だあああああああ!!」

「グルルオオオオオ!!」


 次の瞬間にはゴウレックスの強靭なあごで、コックピットのあるスネーカーズの頭が食いちぎられた。


「そんな、デス!?」


「グルルウウ!! グルルオオオオオン!!」


 くわえたスネーカーズの頭部を放り投げるなり、ゴウレックスは細長いスネーカーズのボディーを何度も何度も踏みつける。


「このっ、このっ、このっっ!!」


 闘争本能のままに攻撃をするゴウレックスに同調シンクロするよう、ティナもまた目をオレンジ色に光らせて荒ぶった。


「暴走してる……、そんなことがあってよろしいですの……!?」


 射撃をやめてブラックホーンは後退りし、マリアもまた恐怖している。


 しかしゴウレックスの有り余る闘争本能は、ブラックホーンを見逃すはずもなかった。


「おらああああああ!!」

「グルルオオオオオン!!」

「ひいいいいいいっ!? こ、来ないでくださいましーーーーーーー!!」


 苦し紛れにブラックホーンのビームガトリングを掃射するも、乗り手共々闘争本能に身を任せたゴウレックスはそれに怯まず突っ込んでいく。


「うおおおおおおおお!!」


「いやああああああ!?」


 そしてブラックホーンを押し倒すと、ゴウレックスはそのボディーを食い破り始めた。


「あは、あは、あはははは!」


「何なんですの、まさか笑っていますの……!?」


 激昂を通り越して快楽に笑うティナに、マリアは戦慄を覚える。


 ブラックホーンの黒い装甲から金にものをいわせて揃えた装備の数々に至るまでを、ゴウレックスは力任せに引きちぎり。


「ひっ、今度はわたくしですの~~!?」


 ゴウレックスの巨大な顎門あぎとが迫ったのはブラックホーンの頭部、すなわち乗ってるマリアであった。


 ブラックホーンの頭にかぶりつくなり、ゴウレックスはそれを力ずくで引きちぎって噛み砕きにかかる。


「ひ、ひいいいいい!! お助けくださいましーーーーー!!」


 ゴウレックスの強大な咬合力により、ブラックホーンのコックピット内は火花を散らしながら軋むような音を立てて潰れていく。


 こんな状況にマリアが完全に戦意喪失をするも、ゴウレックスは攻撃を緩めない。


「あーーーっはっはっは!!」


「あ、悪魔ですわ……!」


 興奮で高笑いするティナに、マリアは恐怖を通り越してもはや絶望さえ感じてしまっていた。


「何なんだよあれ……!」


「もう見てられない~!」


 観客の生徒たちもティナとゴウレックスの暴虐に言葉を失っている。


「中止! 片方に命の危険が迫るため決闘中止ーーー!!」


 審判がそう告げるや否や、闘技場の四方から高圧冷気がゴウレックスに向けて放たれた。


「グギャアアアアアアアア!!」


 超低温にさらされたことでゴウレックスは凍りついて機能停止。


 それから強制的にゴウレックスのコックピットからティナが引きずり出された。


「ティナーーーー!!」


 キー坊から降りたアイラが駆けつけると、ティナは気を失っているのが確認できる。


「ティナ……一体どうしちゃったのさ……」


 担架で運び出されるティナを見届けて、アイラは豊満な胸の前でぎゅっと拳を握りしめた。

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