遭難日誌18日目
【西田茂の手記】
美恵ちゃんは本当に凄い。
俺が見よう見まねで集めた繊維で、シーツを作ってくれた。
これで寝床が多少マシになった。申し訳程度だけど、気持ちが嬉しい。
お礼と言っちゃなんだけど、俺の分のお肉をわけてあげた。
そしたら手を握って、満面の笑みでお礼を言ってくれた。
ついにきたな、アピールが。
あの屈託のない笑顔の裏では、俺と情事を重ねたいと考えてるって思うと、興奮してくる。
いつでもウェルカムなんだが、ここは焦らす。あえてクールに流しておく。
こうすれば、より燃えるだろう。
やっぱり情事には情熱がないとね。
そう考えると風俗ってつまらんよなぁ、結局金だもん。
こっちも割り切ってるし、いまいち燃えない。風俗嬢に恋するヤツの心理が理解できない。
まあ、結構な頻度で通ってたけどな。奥さんだけじゃ飽きるし、子供できてから全然相手してくれんし。
思い出した。クレジットカードの明細でバレて大目玉くらったんだったな。
本気で殴られたし、罵詈雑言を浴びせられた。
本当に最悪の嫁だよ。束縛が激しいというか、なんというか。
お小遣いの範囲でヤンチャするぐらいいいだろ。
アイツに魅力があれば風俗なんて行ってないんだよ。行く理由を作る方が悪いんだよ。よく言うだろ? 浮気はさせる側にも問題があるって。
その点、美恵ちゃんは安心だ。良妻賢母だから浮気の余地がない。
例のあの子とも結婚するつもりだけど、これは浮気じゃない。ここは地球じゃないんだから、奥さんが二人いても問題はない。
二人とも良い子だから、わかってくれるはずだ。愚妻とはわけが違う。
思えば子供にも恵まれてないな、奥さんだけじゃなく。
特になんの才能もないし、大人物になる気配がまるでない。きっと妻の遺伝子を色濃く受け継いでいるのだろう。
ちなみに明日は服を作ってくれるそうだ。一気に文明が発展した気がする。
どっかの誰かとは大違いだよ、同じ女性でも。
吐き気がするだの頭痛がするだの喚いてたけど、本当かどうかも怪しい。
薬草もバンバン使うし、本当に迷惑だ。
昨日から遠出してるみたいだけど、何かを持って帰ってくるわけでもないし、何がしたいんだろう。暇なのか?
やってもらいたいこといっぱいあるんだけどなぁ。
【宮本智の手記】
敦子ちゃんが水がぶ飲みしててワロタ。水太りするで。
まあ、原因は明白や。塩分が不足しとるんやろな。
喉が渇きすぎてるせいで、川の水そのまま飲もうとしててワロタ。
さすがに止めたけどな。煮沸してから飲めってな。
どうなるか見たい気もするけど、感染症とかにかかっても困るし。
あんま詳しいことは知らんけど、排泄物とかで感染するやろ。多分。
川が透明だの流れがどうだの言ってるけど、普通に危険やからな。
言っとくけど、煮沸させたとしても百パーセント安全とは言い切れんからな。
環境汚染とかはなさそうやから、金属とかが混じったりはしてへんやろうけど、寄生虫とか微生物は絶対おるからな。
まあ、寄生虫にやられたらやられたで、薬の効果を試せるからありやけど。
そういや薬草の減りが早いな。
敦子ちゃん以外使ってへんやろうし、犯人は確定やな。
ホンマに大丈夫なんかな、多分短期間に使いまくったらあかんタイプの薬草やと思うんやけど。
【田尻敦子の手記】
私はどこまで運が悪いの?
バカ犬達に毒見させようとキノコを収穫したら、触っただけで強烈な痛み、焼けるような熱さを感じた。しかもその手で傷口を触ってしまい、死にかけた。
薬草を持ち歩いてて本当に良かった。いくら精神が強い私でも、アレがなければ痛みで死んでいた。万が一に備えて薬草を持ち歩くなんて、本当にできる女だわ。私の生まれさえよければ、日本は女性社会になっていたと考えると悔しくてたまらない。
無能な男達が、生まれだけで重要なポジションに着くから日本は腐っていったんだ。そうに決まってる。
怒りはさておき、まだ変な感触が残っている。
痛みは薬草のおかげで感じないけど、多分薬草が切れたら激痛が走ると思う。
寝ずの番っていうのかしら。定期的に変え続けないと、痛みで絶命してしまう。
この環境で睡眠不足なんて、リスクが高すぎる。相変わらず体調は悪いし、喉も乾いている。原因が全くわからないけど、悪化しているのはたしか。
まさかウサギに噛まれたせい? きっとそうだ。そうに違いない。
変な病気をもらったに違いない。親指と人差し指の間の筋肉もつるし、痺れもある。あのクズ共は医学なんてサッパリだし、この環境じゃ調べることもできない。
本当に不幸だわ。帰り際に雨も降ってくるし、水飲もうとしたら宮本のバカに止められたし。何が『沸騰させてから飲みや』よ。私の体なんだからほっとけっての。下心丸出しで気持ち悪い。好感度稼ぎとかキモイキモイキモイ。
そもそも、あの川の水はキレイじゃん。ボウフラもいないし、流れも速いし、そのまま飲んだって問題ないのに。
あまりにもうるさいから渋々沸騰させて飲んだけど、苦しかった。喉カラカラだって言ってんのに、熱いもの飲ませやがって。
なんで嫌がらせすんの? どこまで女の足を引っ張るの?
西田のアホは相変わらず気持ち悪いし。ああ、死にたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます