遭難日誌16日目
【西田茂の手記】
昨日の事件のせいでウサギが少し怖い。
水を汲んでいる最中、近くの草むらからウサギが飛び出してきた時に悲鳴をあげてしまった。襲い掛かってくる様子はまるでなかったけど、田尻さんは一体何をしたんだ? どうしたら指を噛みちぎられるんだ?
ウサギが怖いと言いつつ、実は感謝してる。
皆には言えないけど、田尻さんを大人しくしてくれたのはありがたい。あんなヤツでも殺したくないし、大人しくしてくれればそれでいい。
塩も一日に必要な量の半分以下にしてるし、いずれ死ぬだろう。それまではそっとしておいてあげよう。
それにしても美恵ちゃんがいなくてよかった。
美恵ちゃんには、俺のカッコイイところだけ見てもらいたいからな。
まあ、今更幻滅されることはないだろうけどな。
今日だって「西田さんって結婚してますよね? ああ、やっぱりそうですよね……」って言ってたし。
これはもう……ね?
ここで口説き落としてもいいんだけど、あえて愛妻家ムーブをしておいた。
難攻不落な感じ出しておいた方が、あとあといいだろ?
やっぱり恋愛はいいな。結婚してからは恋なんてできなかったし、遭難もそこまで悪いことじゃないのかもな。
交易に来ていたあの子と美恵ちゃん、両手に花だ。両方愛してあげなきゃいけないなんて、モテる男は辛いねぇ。贅沢な悩みかな?
とりあえずしばらくは自慰を我慢しよう。美恵ちゃんのためにも、限界まで溜めておかないとな。男は辛い、うん。
ちなみにミシンは完成した。美恵ちゃん喜んでたし、これからはさらにグイグイくるだろうなぁ。既婚者相手の方が燃えるとか思ってたりして。
電動ミシンに比べたら不便だろうけど、初めて作る物だから手動のほうが出来がいい説がある。うん、良いように考えておこう。美恵ちゃん喜んでたし。
にしても、電気ねぇ……金属さえ確保できれば、風力発電ぐらいならできるだろうけど……。でもなぁ……。
設備作るまで時間がかかりすぎるし、人手も足りないよな。
今は人が増えることを想定して、あらかじめ部屋を作っておくか?
他にもなんか作る物あった気がするな、ちょっと日誌を見返してみようか。
うん、なんにせよ明日ね、明日。明日の夜見返すとして、日中はゆっくりしよ。
美恵ちゃんと愛を深めないといけないし。言ってみりゃ家族サービスだな。
仕事ばっかりしてると寂しがっちゃうだろうしね。
明日の仕事はお風呂の用意、それだけだ。頑張って一人で水を汲もう。
美恵ちゃんのために重労働をするんだ。多分向こうから夜のお誘いが来るに違いない。想像しただけで、パンパンに膨れ上がる。
【宮本智の手記】
きとるな。何がって、西田君の頭がきとるな。なんかおかしいわ。
働き者やし、機械工学や電子工学にも強いから、脱出のためには欠かせない存在やったんやけど、完全に骨抜きや。エッチマンやな。
俺に対する異常な尊敬とかも、ナリを潜めとる。なんやったんや、アレ。
元々、依存しやすいタチやったんかね。なんにせよマズいなぁ。
っていうか早く鞍と手綱作ってくれや。俺そういうの作られへんねやから。
逆によう乗れとんな、裸のお馬さんに。俺って案外凄い?
そろそろ様子見に行きたいんやけどな、美恵ちゃんがいた村がどうなっとるか。
さすがに鞍と手綱なかったら無理やわ。もしもの時に猛スピードで逃げられへん以上、戦争中の村に近づかれへんし。
ああ、気になってしゃあないわ。さすがに皆殺しまで戦ったりはせんやろけど、戦い覗きてぇ。リアルなバトルをこの目で見たいわぁ。
そういえば今日は何したっけな。
いっぱいご飯食べたのは覚えとるわ。
遠征先で木の実と肉をひたすら食べた気がする。木の実はともかく、肉は収穫量減っとるからな。俺とジージョが少しでも多く食べるためには、現地で食べなしゃあないんや。
ホンマにこの先どうなるんやろ。近くにいるのってほとんどウサギさんだけやし、近い将来お肉食えなくなるんかなぁ。勿体ないけど拠点移さなあかんのかな。
結構気に行っとるんやけどなぁ。〝DXサトシティ〟を。
あっ、DXサトシティってこの拠点の名前な。俺にしか通じへんと思うけど。
【田尻敦子の手記】
なんだかとても気分がいいわ。
傷も全く痛くないし、高揚感がある。強い女から無敵の女になった気分。
でも油断は禁物。能ある鷹は爪を隠すってね。
重症で全く動けないフリをしておいた。
で、仕事を堂々と免除しといて、リハビリっていう体でちょっと遠出。
残念ながら他の拠点は見つけられなかったけど、例の薬草が大量に生えているところを見つけたわ。勿論あのクズどもには内緒。
これで勝ち組だわ。
結局人生ってのは資産を多く持っている人間が勝つ。こういう生活における資産っていうのはずばり物資。
大量の薬草を確保できた私が、このコロニーで一番強いことは自明の理。
後は拠点を見つけるだけね。
大量の薬草を持っていけば英雄扱い。女神として崇め奉られるに違いない。
ようやく一条の光、光明が見えたわ。悲劇のヒロインは喜劇のヒロインに昇華するのよ。この物語は、あるべき形に戻るの。
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