異常者達の宇宙遭難日誌

遭難日誌6日目

【西田茂の手記】

　今日の昼頃、遠く離れた集落の人達が交易にやってきた。

　情報と物資をかき集める最大のチャンスだ。彼らとの関係性を友好的なものにできるか否かで、生存率は格段に変わるだろう。

　宮本さんの判断で、田尻さんには家の中で待機してもらった。彼女には悪いが、関係性を保つためには引っ込んでてもらうのが一番良い。

「ああ見えて危険な奴らかもしれんし、まず俺が話してくるわ。あの人らが安全かどうか分かるまで、敦子ちゃんと家の中にいてな」

　そう言って、一人で交渉に向かう宮本さん。

　積極的且つナチュラルに危険な役割をこなす彼には頭が上がらない。どうして、他人のために平気で体を張れるのだろう。

　性別による役割の助長をする気はないが、彼こそが理想の男性像だ。不謹慎かもしれないが、この遭難は俺が男になるチャンスなのかもしれない。目標がそばにいるのだから。

　ああ、今にして思えば貨物船のリーダーは大した男じゃなかったかもしれない。部下に慕われてるといっても、所詮はただの中間管理職、指示待ち人間。部下を残して死ぬあたり、男としての器量に欠けていたのだろう。

　結果から言うと、交渉は大成功だ。

　彼らが元からフレンドリーなのか、宮本さんの交渉技術が凄いのか、あるいは両方だろうか。豊富な物資とコロニーの情報を得ることができた。

　錬金術とでも称するべきだろうか。明らかにこちらだけが得をしている気がしてならない。

　このコロニーにおける貧困層の我々が提供できる品など、狩りで手に入れた羊毛やら羽根やらが関の山なのだが、塩やらスチールやらと交換してもらうことができた。

　作物の種もありがたい。収穫までは多少時間がかかるが、鉄分を豊富に取れるタイプの作物なので、生存率は格段に上がるはずだ。

　どれだけ場数を踏めば、この交渉が成立するのだろうか。本当に凄い人だ。

　情報も値千金のもので、この周辺には同じ境遇の人間、漂流してきた人間の集落がポツポツとあるらしい。

　彼らと力を合わせることができれば、脱出率は跳ね上がるだろう。大丈夫、交渉のプロがいるのだから、上手くいくはずだ。

　気がかりなのは、好戦的な部族やら、人さらいを生業にしている宇宙海賊が徘徊しているということだ。

　こちらにある武器は、いわゆる小火器。精度も威力も大したことない拳銃が二丁ある程度。強いて言うなら、ただのチンケなナイフが一本。

　他の集落の人間を受け入れることを視野に入れたほうがいいかもしれない。

　新しく手に入れた作物は、宮本さんが栽培してくれるとのこと。

　仕事が極端に少ない田尻さんに任せるべきだと思ったのだが、「生殺与奪を敦子ちゃんに握らせるのはまずい」とのこと。

　言われてみればそうだ。俺は心のどこかで田尻さんを信用していたらしいが、愚かしいことだ。この極限状況で怠けるようなヤツに、貴重な栄養源を独占させるのは危機意識が足りてない。

　とりあえず今日から防衛用の土嚢と弓矢を作ってみる。

　襲撃が起こらないとも言い切れないし、弓矢は狩りにも使えるはずだ。

　槍も作った方がいいだろうか？　槍術が使える者などいないが、ナイフよりは良い気がするし。

【宮本智の手記】

　なんか知らん人らがいっぱいきた。

　女いるってバレたら何されるかわからんし、敦子ちゃんは隠しとくか。余計なことしそうな気もするしな。

　とりあえず、乗員の死体から剥ぎ取っておいた貴金属とかを売りさばいたった。

　地球に帰ってからお小遣いにしよかと思ってたけど、帰るためにはしゃあない。信頼と物資がないと話にならんし。

　なんとか仲良くなれたし、これでしばらくは安泰やな。

　定期的にこの辺に来るらしいし、次回までに長期滞在できる環境作った方がええかもしれんな。交易のために渡り歩いてるってことは、襲撃に対抗できる戦力あるってことやろうし。

　あと、めっちゃ可愛い子いた。地球に興味持ってるみたいやし、連れて帰りたいなぁ。

【田尻敦子の手記】

　ありえない。キレそう。むしろキレてる。

　せっかく行商人が来てたのに、服とか化粧品とか香水を仕入れないとかマジありえないんだけど。女の子への配慮が無さすぎる。本当にクズ。

　昔から男はクズ。私の仕事を手伝ったり、貢いだり一切しない。そのくせに、化粧とかで自分を誤魔化してるぶりっ子には、優しくする。本当に愚か。

　この状況で塩とか鉄くず手に入れてどうすんの？　あーあ、私の命運尽きたかな。

　で、風呂はいつ作るの？

　なんか知らないけど、土を積み上げたりとか、おもちゃ作ったりしてるけど、脱出する気あんの？

　まさか、ほっといたら私が風呂を作ってくれると思ってんの？　人任せとかキモすぎなんだけど。どこまで女から搾取すれば気が済むの？

　別の集落あるみたいだけど、そっちに移住しよっかな。

　もしかしたら白人男性いるかもしれないし、もしいたら勝ち確じゃん。

　あー、でも、私を巡って争いになるかも。白人男性っておしとやかな日本人女性大好きだしね。

　もうすぐ作物収穫できるし、作物できたら夜のうちに移動してみようかな。どうせアイツらは夜サボって寝てるし。